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Element Eyes  作者: zephy1024
第十七章 四竜乱舞編
302/327

302.格差-Disparity-

1991年7月24日(水)PM:16:00 中央区人工迷宮地下二階


 とうとう、二人目の脱落だ。

 負けたショックに膝を屈したファイクロン。

 彼は、地に膝をつき、両手で何とか体を支えていた。

 敗北の悔しさに、体を震わせている。


「迪はまだ寝てるんだろうね」


「でしょうかね? リンダーナ、続きを」


 じゃんけんの掛け声と共に、二人の右手が前に出される。

 真剣な眼差しで見ているシャイニャンとファイクロン。

 当事者のトルエシウンとリンダーナ。

 二人は自分達はこんな所で何してるんだろう。

 そう思わせるような表情だ。

 トルエシウンがぱー、リンダーナはぐーだった。


「トルエシウンが突貫で、私が防御ね」


 リンダーナの確認の言葉。

 面倒臭そうな表情のトルエシウン。

 シャイニャンとファイクロン。

 二人は彼を羨ましそうな眼差しで見ていた。


 階段を駆け上がってくる久遠時(クオンジ) 貞克(サダカツ)

 手に持つ大鎚型の四級魔装器、石砕(セキサイ)

 振り向き様に勢いよく振るった。

 飛び掛ってきた子蟷螂をまとめて吹き飛ばす。


 小太刀型の三級魔装器、花蒼葉(ハナアオバ)

 倉方(クラカタ) (ユズ)は左斜めに振るう。

 襲い掛かってきた子蟷螂を斬り裂いた。


 足元に迫ってきた別の蟷螂。

 その鎌が、彼女の足元を狙う。

 直撃は避けたものの、無理な体勢で躱した彼女。

 太腿を切られ、尻餅をついた。

 その上に飛び掛ってくる三体の子蟷螂。


 最初に気付いた波野(ナミノ) (サザナミ)

 手に握っているのは花蒼葉(ハナアオバ)

 襲い掛かってきた、目の前の子蟷螂を切り裂く。

 即座に反転して走り出そうとする。

 しかし、別の子蟷螂が飛び掛ってきた。


 貞克も柚が危険な事に気付いた。

 彼の全面にいる子蟷螂達。

 大鎚で吹き飛ばした直後だった。

 相模原(サガミハラ) (ハタ)が走り出す。

 だが、彼はもっとも柚から遠い。


 他にも気付いた隊員はいる。

 だが、彼等が持っているのは銃器のみ。

 どうするべきか迷い、対応出来ない。

 誰もが間に合わないと思った。

 そう瞬間の出来事。


 気付けば柚の側に立っているシャイニャン。

 左右左の順に手を動かした。

 三体の子蟷螂にでこぴんを一発ずつ放つ。

 柚に飛び掛った子蟷螂達。

 バラバラに砕かれながら階段を落下していった。


 シャイニャンに助けられたらしい。

 その事は理解した柚だった。

 だが、何が起こったのかは理解出来ない。

 見えていたのはファイクロン、トルエシウン、リンダーナ。

 三人を除く他の面々も何が起きたのかわからなかった。


 いつの間にか、シャイニャンの隣にいるトルエシウン。

 驚きに、数人が目を瞬かせる。

 直前までは、確かに彼はそこにはいなかったのだ。


飛風(ヴォラヴェントゥス)


 彼の言葉が終わると同時。

 子蟷螂達は、地下三階に吹き飛ばされて行く。

 トルエシウンは、まるで追いかけるかのように走り出した。


「トルエシウン、まだ戻ってないのが四人いるから、よろしくお願いします」


 戻ってくる迷宮攻略組。

 その人数をこっそり数えてたリンダーナ。

 彼女の言葉に、トルエシウンは右手を上げて答えた。


竜水膜(ドラコアクアフィルム)


 迷宮攻略組が退避した後に、リンダーナが発した魔術。

 彼女の言葉の直後、階段に青色の膜が掛かった。

 薄い膜は、かすかに揺れており、水のカーテンのようだ。


「あれ? 刃やルシアちゃん達は?」


 最初に気付いたのは漣。

 その言葉の意味に気付いた迷宮攻略組。


「第一小隊が誰もいないのか?」


 沈痛な面持ちの貞克。

 彼と幡が、視線を交錯させる。


「トルエシウンが向かったので、彼に任せましょう。今あなた達が再び向かっても、無駄に命を散らす事にしかなりません」


 リンダーナの言葉に機先を制された彼等。

 心底悔しそうに唇を噛み締めた。


「たぶん大丈夫だよー!」


 シャイニャンの言葉にも、素直に頷く事は出来ない。

 四人を残してきた事に、直ぐ気付けなかった彼等。

 無事を祈るしかない。

 徐々に募る罪悪感に、項垂れるしかなかった。


-----------------------------------------


1991年7月24日(水)PM:16:03 中央区人工迷宮地下三階


「何でしょうかね? 禍々しい気配が奥からしてます。まぁ、とりあえず、最初の目的を果たしますか」


 階段を下りた所で、一度足を止めたトルエシウン。

 彼の視界には、計り知れない数の子蟷螂の群れ。


 突然現れたトルエシウンという存在。

 角がある事を除けば、見た目は普通の人間とさほど変わりない彼。

 しかし、子蟷螂達は、その場で牽制のような仕草をするだけだ。

 直ぐには飛び掛らなかった。

 子蟷螂達の生物としての本能が警鐘を鳴らしている。

 トルエシウンを、自分達よりも格段に上位の存在と認識。

 脅威になると判断しているのだ。


「運が悪かったと諦めて下さい」


上昇暴風(ノクテテンペスターテ)


 彼の言葉にリンクするようだ。

 子蟷螂達が一瞬フワリと浮き上がる。

 直後、物凄い速度で、真っ直ぐ天井に叩きつけられた。

 重力に逆らうように叩きつけられた子蟷螂達。

 その体は、原型を留めないほど、拉げ歪み潰れている。


「さてと」


 一秒程で、百を越える子蟷螂を殲滅せしめたトルエシウン。

 リラックスした表情のまま、腰に手を当てた。

 目指す目的の場所は、既に把握している。


風裂球(ヴェントゥスフィシュラスフェアラ)


 トルエシウンの周囲に浮かび上がる風の丸い球。

 その数は合計で十二。

 順々に射出されていく。

 十二個全ての射出を終わると、彼も走り出した。


 一番最初に射出された風の球。

 空気の抵抗等おかまいなしだ。

 ひたすら真っ直ぐ進んでいく。

 まるで目指す場所は理解しているかのようだ。


 一つ目の十字路を抜けた。

 二つ目も通過し、直ぐに三つ目に到達。

 いくつもの十字路を抜ける。

 子蟷螂達の頭上を過ぎ去り、辿り着いた先。

 大顎と小顎を交互に噛みあわせてた後だった。

 鎌を振り上げて飛び掛ろうとしていた子蟷螂。

 狙い済ましたかのようにぶつかった。


 吹き飛ばした子蟷螂を巻き込んだ直後に破裂。

 周囲に風の刃と、衝撃による破壊を齎す。

 次々に子蟷螂にぶつかって行く十一個の風の球。

 全く同様の挙動で、子蟷螂達に致命的な損害を齎した。

 しかし、損害を被ったのは子蟷螂達だけだ。


「第一小隊の皆様。無事で何よりです」


 予想外の出来事と登場人物。

 野流間(ノルマ) ルシアは状況を即座に飲み込めない。

 まさに命の危機だった彼女。

 にも関わらず、ポカンと口を開け放っていた。


上昇暴風(ノクテテンペスターテ)


 片膝を付いていた刀間(トウマ) (ジン)

 彼と鍔迫り合いをしていた子蟷螂。

 彼に鎌を叩きつけようとしていた子蟷螂達。

 それらが一斉にフワリと浮かぶ。

 トルエシウンの唱えた魔術。

 残念ながら、それだけでは終わらない。


 引き倒されていた鎗座波(ヤリザワ) (スグル)

 子蟷螂達に群がられる寸前だった。

 左肩から血を流している丸沢(マルサワ) 智樹(トモキ)

 右手に持つ刀だけで子蟷螂達の攻撃を凌いでいた。

 彼等の周囲に群がっている子蟷螂達。

 その全てが、フワリと浮かび上がる。


 次の瞬間、四人は絶句した。

 子蟷螂達が天井に叩きつけられる。

 原型すらも留めない程の破壊。

 その中には、絶命した仲間を貪り喰っていた子蟷螂もいる。

 食事中に自分が絶命する事になる。

 そんな事など、考えもしなかっただろう。


「へっ。別世界の出来事を見ている気分だぜ」


 他の三人も、驚きの表情のままだ。

 刃と同じ気持ちだというのが見て取れた。


「個人的にはあなた方の生死に関心はありませんが、迪が気にすると思います。バット、回復は苦手ですので、これでご勘弁を」


≪小さな風の癒し(サニタティムパルヴァヴェンティス)≫


 刃達四人を、仄かな緑色の光が包んでいく。


「些細な回復ですので、激しい動きをすると傷口が開きます」

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