表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Element Eyes  作者: zephy1024
第十二章 学園制服編
191/327

191.寂寞-Forlorn-

1991年7月7日(日)AM:5:33 中央区精霊学園札幌校第一学生寮女子棟屋上


 屋上で一人、空を眺めている少女。

 空には雲はほとんど存在しない。

 太陽の明かりが強くなっていく。


 輝く星々の煌きが徐々に遮られてきていた。

 甦りはじめている陽の光。

 心の闇まで引き裂いていきそうだ。


 ただ一人佇んでいる彼女。

 その瞳は、ほんの少し寂しそう。


 膝まである黒髪。

 黒のフリルまみれのドレスの姿。

 腰に差している一振りの刀。

 刀とフリルドレスという組み合わせ。

 不思議だと思う人もいるかもしれない。


「黒恋ちゃん、やっぱここにいた」


 突如静寂を破って現れた少女。

 彼女は向日葵色のストレートヘア。

 彼女の顔は明らかに眠そうだ。


「ツヴァイ?」


「こんな時間にここにいる事が風紀委員にばれたら怒られるよ? それともそれが目的なのかな?」


「ち・違うわよ。目が覚めちゃって、ふと空を見たくなっただけ」


「そういいながら、毎日見に来てるでしょ?」


「え? な・何の事かな?」


「黒恋お姉様、嘘は駄目です。でも、そんなに悩んでるなら、お兄様とちゃんと話しすればいいと思うんですよ」


「な・悩んでなんて・・。そもそもお兄様って・・」


「あんなに熱い視線を送っていればわかりますです。いいから、戻るんです。私は眠いのです」


「わ・私の事は構わないで寝てていい」


「駄目です」


 リアツヴァイ・ヴォン・レーヴェンガルト。

 彼女は問答無用だ。

 陸霊刀(リクレイトウ) 黒恋(コクレン)の手を握り引っ張る。


 寂しい目をしたままの黒恋。

 そのまま連れて行かれる。

 身長差がある二人。

 振り解こうと思えば振り解けるはずの黒恋。

 しかし彼女は、一切抵抗はしなかった。


「何故そこまで気にする?」


「ルームメイトだからです。二人の間に過去に何があったかは私は知らない。でも黒恋はお姉ちゃんだから。私達は二人が仲直り出来ればいいと思ってるんですよ」


 ツヴァイの素直な思い。  唇を噛む事しか出来なかった黒恋。

 囁くように言った言葉。

 ツヴァイには聞こえていなかった。


「仲直りなんて無理だよ・・。だって私はもういらないみたいだし」


-----------------------------------------


1991年7月7日(日)AM:6:35 中央区精霊学園札幌校第一学生寮男子棟四階四○一号


 僕が学園に入学してから、今日で七日目。

 学園全体の構造もそれなりに把握はした。


 東にある出入口の正面に高等部。

 右に小等部が存在し、左が中等部だ。

 高等部の裏には競技場。

 更にその後ろにエレメンタリ札幌やアリアベーカリー。

 そして時計塔がある。


 時計塔の両隣には職員寮があった。

 その奥には、第一から第六までの研究室。

 そして研究室に囲まれるように白神霊園。

 白神霊園には入った事はない。

 けど、和風建築の建物やお墓があるそうだ。


 小等部の裏側にある寮。

 そこには第一から第四まであった。

 僕達はそこに居住している。


 中等部の裏には、第五から第八まで寮ある。

 けど、生徒数がそこまで多くはない。

 なので現在は未使用になっている。


 でもこれだけの施設だ。

 電気はどうしているのだろうか?

 学園は何とかなるのかもしれない。

 けど、研究所とかは莫大な電気を使用してそうだ。

 何らかの方法で賄ってはいるんだろうけど。


「ふぁわぁ。悠斗さん、おはようごじゃいます」


「おはよう。嚇、今噛んでた?」


「か・噛んでなんて・・御免なさい。嘘です。噛みました」


-----------------------------------------


1991年7月7日(日)AM:9:35 中央区精霊学園札幌校北通


 三人で並んで歩いている少女。

 髪型はそれぞれ違う結び方だ。

 だが、全員黒髪で、どことなく顔と雰囲気は似通っている。

 彼女達の視線の先に見えた三人の人物。


「あ、桐原さんと中里さん、義彦さんもいますね」


 一番右を歩いている土御門(ツチミカド) 乙夏(オトカ)

 ストレートの髪にしている彼女。

 最初に彼ら三人の存在に気付いた。


「普段の深春姉様なら、義彦さんに飛び掛ると思うのに、今日はおかしいんです」


「茅秋、私だっていつもそんなんじゃないよ。あいつ怪我しているらしいでしょ? そんなんで勝っても全然嬉しくない。義彦が万全の状態で私が勝たなきゃ意味ない」


「問答無用で襲い掛かっているのかと思いました。だからそんな事言うとは予想外です」


「茅秋、私は猛獣なんですか?」


「ごめんなさい。深春姉様、私も茅秋と同じに思ってました」


「乙夏まで。私ってそんな風に思われてたんだ。ちょっとショック」


 がっくりと肩を落とす土御門(ツチミカド) 深春(ミハル)

 そんな会話をしている三人。

 義彦達は彼女達に気付く事もない。

 視界からいなくなっていた。


-----------------------------------------


1991年7月7日(日)AM:10:00 中央区精霊学園札幌校第四学生寮男子棟二階二○二号


三井(ミツイ) 義彦(ヨシヒコ)さん、何度かお会いしてますけど。改めまして、沢谷(サワヤ) 有紀(ユキ)です」


 僕と愛菜はベッドに座っている。

 椅子に座っているのは有紀。

 義彦とマサは向かい合うように立っている。

 マサと有紀に、義彦の参加を伝えた。

 特に反対される事もない。

 二人は快くOKを出してくれた。


「俺は河村(カワムラ) 正嗣(マサツグ)。よろしくな先輩」


「二人ともよろしく頼む。しかし、これからチームを組むのに先輩も後輩もいらないんじゃないか? 悠斗も愛菜ちゃんもそう思うだろ?」


 義彦に突然話しを振られた愛菜。

 どう答えようか迷っているみたいだ。

 ここは僕が答えようか。


「そうですね。余り気にしなくていいと思います」


「悠斗から話しは一応聞いているけど、実際どんな者なのかは、俺はわからないからな」


 突如義彦に殴りかかったマサ。

 僕は彼の突然の行動を止める事が出来なかった。

 しかし、マサは簡単にあしらわれる。

 一瞬で背後に回った義彦。

 彼に床に押さえ付けられていた。


 余りにも一瞬の出来事。

 その為、僕は何が起きたのかを瞬時に把握出来ない。

 正嗣も、何が起きたのかわからないままのようだった。


「何やってんの?」


 小気味良い音が部屋に響く。

 最初に我に返った有紀。

 彼女がマサの頭を叩いた音だった。

 予想外の人物からの攻撃。

 思いっきり顔を顰めるマサ。


「いやだってよ・・・」


「相手の実力を知りたいと思うのも当然だろうからな。気にしなくていいんじゃないか?」


「でも義彦さん、いきなり殴りかかるのはやっぱり」


「それでもあしらわれたんだからな。もう挑もうなんて思わないよ」


 まるで降参ですと言うかのようだ。

 両手を上げて苦笑いするマサ。


「義彦、一瞬とは言えそんな激しく動いて大丈夫なんですか?」


「そうだよ。怪我人なんですよ?」


「え? 悠斗、愛菜ちゃん、それまじで?」


「本当だよ」


「正嗣君、馬鹿」


「義彦さん、本当ごめんなさい。怪我人なんて知らなかったとは言え、この馬鹿が殴りかかるなんて」


「すいません」


 馬鹿馬鹿と言われてるマサ。

 殴りかかったのは事実だ。

 彼は何も反論出来ない。

 ただただ縮こまっているみたいだ。


「まぁ、気にするな。とりあえずこれで認めてくれたと考えていいのかな?」


「も・もちろんです。本当すんませんでした」


 有紀に説教され始めたマサ。

 二人の遣り取りを聞いている義彦。

 苦笑しているみたいだ。


「そう言えば、義彦。集まるなら義彦の部屋の方が良かったんじゃないんですか? 怪我の事もあるし」


「いや、俺の部屋にすると柚香や吹雪が来るかもしれないだろ? 六人目をどうするかも決めてないからな。そこらへんも話しをした上じゃないとな。先に聞かれると色々と面倒な事になるかもしれないし」


「なるほど。一理あるかもしれませんね」


 少しだけ、首を傾げた愛菜。


「考えすぎだと思いますよ」


「そうだといいけどな。こないだの一件もあるし。それでとりあえずリーダーは悠斗でいいんじゃないか? 俺達は悠斗を介して接点を持ったわけだしな」


「私は賛成です」


 最初にそう言ったのは愛菜だった。


「正嗣君と有紀はどう思う?」


「俺も賛成だ」


「馬鹿正嗣が賛成するなら、私も異存はありません」


 突然話しを振られた二人。

 僕の予想に反して、まさかの即答。


「馬鹿馬鹿言うなよ」


「怪我人に殴りかかったし、実際馬鹿でしょ?」


 有紀の言葉に、マサはぐうの音もでないようだ。


「え? 僕? なんで僕?」


 賛成する皆に、僕は戸惑ってしまう。


「たぶん一番全員の性格とか把握してるだろう」


「え? いや、そうですけど」


「ゆーと君、よろしくね」


 愛菜、そんな風に見つめないでくれ。

 断るという選択肢。

 選ぶ事が出来なくなるじゃないか。


「わかったよ。リーダーなんて出来るかわからないけど、そもそもリーダーが何するのかもわかんないけど。やってみるよ」


「うん」


 結局引き受けた僕。

 愛菜がとても愛らしい笑顔をしてくれている。

 だから、僕はリーダーでもいいかと思ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ