俺は屯田兵
「ばぁちゃんこれおいしいね、おかわりある?食べたこと無いけど何?」
「チビイヌマメダマシのスープじゃ。」
「うげぇ。」
「なんじゃ、うげぇって失礼なやつじゃな。リュウのおかわりはない!」
「ばぁちゃん、なんでお鍋かくすんだよう。もっとおくいれよ。」
「うげぇ、なぞと言う罰当たりにはやらん!これはワシとリンシャの分じゃ!」
「だってチビイヌマメダマシってよっぽど食べ物に困ったときしか食べちゃいけないって母さん言ってたんだもん。少しだけど毒があるって。」
「ハハハこれはのう、正確にはチビイヌマメダマシモドキという豆なんじゃ。」
「ばぁちゃんのうそつき。」
「それはちょっと違うんじゃがのう。お代わりはたんとあるからたくさんお食べ。」
「ばぁちゃん意地悪なんだからもう。」
「はっはっは。その通りじゃ。」
チビイヌマメダマシモドキは非常に美味である。
これは毒のある雑草チビイヌマメダマシにまぎれて稀に収穫される美食家の貴族が好む食材である。
帝国兵が去っていくと俺たちは軍から放り出された。
勝ったと言え、全く得る物がなかった国に俺たちにかまう余裕は無かった。
しかし、武装した俺たちをそのまま野放しにも出来ないし、帝国軍の再侵攻の危険もある。
「屯田兵なんていいんじゃないか?」
おれは怪しげな女たちのいる酒場で知り合った正規軍の士官ゴルドバーグにそう漏らしたことがある。
次の日から俺たちは荒野に散った。
土地は予想以上に痩せていてチビイヌマメくらいしか育たない。
しかも毒のあるチビイヌマメダマシが雑草としてまじる。
おいしいチビイヌマメダマシモドキが混じることもあるが。
俺は豆の選別を手伝った経験から、チビイヌマメダマシモドキはチビイヌマメとチビイヌマメダマシの雑種だと見当つけていた。
ビーカーもフラスコも無いこの世界で俺の大学での化学の知識はまだ役に立たず、意外にも高校で習ったメンデルの法則が役に立った。
2年目において、チビイヌマメダマシモドキの量産に成功した俺は喜び勇んで要塞に戻り、そこでひとつの絶望というものを経験した。