俺はおもちゃ屋?
何日か姉弟に働いてもらっているうちに、母親、アイシャが送り迎えに付き添って来るようになった。
母親が元気になると子供たちに笑顔も輝きを増し、店も明るくなって僅かながら売り上げも伸びた。
子供二人とはいえ人手が増えたので、簡単なおもちゃも作って置く事にした。
福笑い、カルタ、メンコ、ベエゴマ、中でも鍛冶屋に作らせたベエゴマは大人気なのだが、ちっとも生産量が増えない。
「エィッ!またぼくの勝ぃ。」
「くそぅ、もう一回。」
鍛冶屋のゴンザレスがはまってしまって仕事場を放り出していりびたっている。
どうしてもリュウに勝てないらしい。
「でかいのがそんなところにおったんじゃ子供たちの邪魔じゃ。はよ帰れ。」
「ばぁちゃんまだ改良の余地があるんだともうちょっとなんだ。」
「二人とも使っている独楽は同じもんじゃろう。はよ帰れ!」
「後一回だけ。」
「ほんとにもう、なんてやつじゃ。」
これらの遊びは国境を越えて広がることになるが、福笑いだけは帝国に根付かなかった。
片方の眉を取って”帝国兵”こんなことをするのがいたからの。
要塞都市での攻防戦の中で、俺は言葉を覚えた。
この世界の住民は何がしかの魔法を使えるが念話の使えるものはそれほど多くない。
必要に迫られてのことだがすぐに日常会話に困らないようになった。
体も目つきも精悍になり、、”山鯨のタロ”としてすっかり兵士の中に溶け込んだ。
篭城が長くなるにつれて人も減り正規軍とその他の境もなくなってきて俺もいつの間にか正規軍一部隊の指揮をとるようになっていた。
工兵だけどな。
そんな生活が一年ほど続いたある日の夕方、あいつがやって来た。
「やぁひさしぶり。」
うろこのような黒ずくめの軽鎧に身を固めた男、人に化けたアシュタールだった。
非番だった俺はきがつけばアシュタールと酒の匂いをぷんぷんさせながら、あいつもそんなに強くなかった、肩を組んで歩いていた。
そして
「よっしゃまかせておけ。」
にたっと笑ったあいつはそういって来た時同様ふっと消えた。
なんだったっけ?
兵舎に戻った俺は部下の声でたたき起こされることになる。
「帝国兵が撤退してる。」
城壁に上った俺は夜明けの薄明かりの中、大急ぎで引き上げていく帝国軍を見た。
『タロの考えることは面白いねぇ、ちょっと用ができた。またな。』
アシュタールは何をしたんだ?
俺は何を考えたんだっけ?
帝国軍の将兵全員の片眉が一夜にして剃られていたと聞いたのは半月後のことだった。
俺たちは笑ったがやつらはよほど怖かったんだろう、いつでも殺せるぞと証明されたようなものだから。