俺はお金持ち?
おなじみ様の子供たちが帰った後おずおずと女の子が声をかけてきた。
「病気のときに元気の出る飴があるって聞いたんだけどおいくらですか?」
10歳くらいだろうか清潔だが擦り切れた服を着ている。
「10個入りで銅貨1枚だよ」
だいたいの価値として100円くらい、高いものではない。
「半銅貨しかないです。5個でお願いできますか?」
おゃ、めずらしいね。
「いいけど、どうしたんだい。」
後ろにいた男の子が小さな声で呟いた。
「お母さん、熱出したの。パン買って来てって。」
「パン屋さんに行ったら飴のほうが食べやすいんじゃないかって言われたんです。」
そういえば、あのパン屋の親父に薬飴を舐めさせてやったことがあったっけ。
「そうかい、それじゃあ特別におまけして、5個にこれも付けてやろう。水に溶いてあるから飲みやすいじゃろ。それからお母さんにそれを飲ませたらまたここに来てくれんじゃろうか。年をとると足が弱くなってのぅ。お使いを頼みたいんじゃ。」
「分かりましたすぐ来ます。」
「ばぁちゃんありがとう。」
難民の親子だろうか。
俺が始めてこの世界で着いた町も難民であふれかえっていた。
「○×○◇◇○・・・」
「サッパリ分かりません!」
俺に槍を付きつける兵士たちが何か言ってくるが俺にはサッパリ分からない。
そのまんま引きずられて軍の司令官かえらいさんのところに連れて行かれると思ったんだが、ホイと道端に捨てられた。
町から人が押し寄せてあれほど大きかった鯨をあっという間に解体して持っていかれてしまった。
俺の鯨・・
俺の飯・・
残されたのは狼をしとめた触手だけ。
その中でも色の白いのだけが残っていた。
仕方なく俺はその触手をあっただけ引きずって町へと向かった。
「○◇■○・・・」
番兵である。
「俺の鯨返せ~。」
俺である。
ワーワー騒いでいたら高そうな装備をつけた美女が出てきた。
ちょっときつそうな目付きが玉に瑕だが、いいもんはいい。
にこりともせずに、
『何を騒いでおるのか?』
「▲▽○■・・」
「俺の鯨返せ!」
『俺の鯨返せだと?山鯨の死体があれば早い者勝ちだ、遅れたお前が悪い。まして今は近隣の住民が逃げ込んでいる。あきらめろ。遅く取りにいくのが悪い。』
「ちがう!俺がしとめた鯨だ!!俺んだろう?」
『お前がしとめただと?』
「頭の上の空気穴にふたをしてしとめたんだ。俺のだろう。空気穴にしがみ付いてるところを青いマントの兵隊に引き摺り下ろされたんだ。俺の飯返してくれよ。あれしか食べるものが無いんだ。」
「▽■××▲・・」
おい何がそんなに面白いんだ。
笑っている兵隊と憮然としている俺を残して彼女は出て行った。
『おいお前。』
隅で笑っていた男だ。
『そのひげも中の毒袋と管を丁寧に取ってやれば喰えるぞ。乾して焼けばなかなかいけるって聞いたことがあるな。』
喰えるのか、これ。
「教えてくれてありがとうな。」
一応返せと叫んだもののあんな大きいものを処理できるわけも無いし、ちょっとまて、今なんて言ったんだ?
住民が逃げ込んでいる。だと?
「住民が逃げ込んでるって何が起こるんだ?」
『あと4日くらいでゴルドバロウ帝国が攻めてくる。やつら異教徒は一人残らず皆殺しにするからな。近隣の村人が逃げ込んで来ている。食料が足りなかったんでお前の山鯨には感謝する。』
「いえそういうことなら・・」
俺はきちんと頭を下げられると弱い。
強面に迫られるともっと弱いんだが。
『待たせた。山鯨は軍で買うことにした。これだけしか用意できないがそれで我慢してくれ。』
にっこり笑って重い袋を差し出す美女の名前も聞けない俺はやっぱり小市民だった。
この後、第一次テンペルス武装都市攻防戦がパロス王国2万の守備軍とゴルドバロウ帝国17万の軍勢で始まることになる。