俺はつりえさ?
硬くなってきた飴を力を入れてかき混ぜていると玄関の呼び鈴がなった。
誰だ?こんな時間に。
『ばあさん巡視だ~開けてくれ。』
今素顔を晒している。
本来ならば大慌てをするところ。
「巡視ありがとうございます。異常ありません。今、飴を火に掛けてますので手がはなせません。」
俺は念話が出来ないので声を出して巡視の兵士に読み取ってもらっている。
この世界では念話では嘘がつけない。
ことになっている。
俺は日本人なので嘘の思考をすることは得意なのだが、出来るだけつかないようにしている。
『すまん、実は買い物したいんだ。娘の誕生日に何か買って帰ってやりたくてさ。』
そんな理由なら仕方がない。
「ちょいとおまち。」
『すまない。』
俺は火を止めてマスクをかぶり手袋をつける。
着替えないでいて良かった。
門を開けると大柄な人のよさそうな兵士が入ってきた。
「ありがとう助かるよ。」
「娘の誕生日を忘れるなんて最低なおやじだねぇ。」
俺は口の悪いばぁさんでとおっている。
「忘れてたんじゃないんだ。山鯨が出て討伐に駆り出されていたんだ。ここなら作り置きの飴があると思ってさ。」
「お嬢ちゃん用ならちょうどいいのがあるよ。店の飾りにしようと思ったんだがねぇ。
俺はとっておきの飴細工を取り出した。
お姫様の周りをかわいい動物たちが取り囲んでいる。
「こ、こいつはすごいが、今持ち合わせが・・」
「何言ってるんだい。お嬢ちゃんのためだ。ど~んと銅貨5枚出しなさい。」
「そんなんでいいのか?」
「飴は飴さね、その代わりいつもあるとは限らないよ。」
「ありがとう。あいつ喜ぶよ。」
山鯨と戦って怪我でもしたのだろうか、帰っていく兵士の後姿は軽く右足を引きずっていた。
山鯨は巨大で凶悪なモンスターだ。
煙突のようなものをつつくこうとすると、
ガギャウ!キャウンキャウン!!
獣の悲鳴が巻き起こった。
俺を中心にして半径20メートルくらいのところで狼たちが地面から伸びた茶色い鞭に絡みつかれ締め上げられている。
15匹ほどいるだろうか、地球の牛ほどあるその黒い狼たちは断末魔を上げつつ地面に引きずり込まれている。
俺の灰色の脳細胞は全力で働く。
この地面の下にいる巨大な何かが狼を食べた。
少なくとも半径20メートル以上の大きさがある。
するとこの煙突はそいつの呼吸器官だろう。
そいつは俺を餌にして狼どもを捕まえた。
そして俺の灰色の脳細胞は間違った結論に至る。