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俺はばぁちゃん?

**現在


 薄暗くなってきた駄菓子屋の店内、グリム童話に出てきそうな魔女、そんなばあさんが店番をしていた。


「プルルばぁちゃん、こんにちは。水飴ください。」

「ぼく麩菓子(ふがし)~。」

「ちょっと待っておくれよ。これっ!!そこは覗いちゃいかん!」

仕事場を覗き込もうとした男の子の襟をつかんで引き戻し、しかりつけた。

「ワシの仕事場は危険じゃから覗いちゃいかんと。魔法がいっぱいかかっちょるんじゃ。」

まったくもぅとぼやきながらワシは姉のほうに水飴の入った小さなつぼと麩菓子の入った袋を渡し、しわだらけの手で銅貨を受け取った。


「気をつけて帰るんじゃぞ~。」

「またね~。」

西の丘にそびえるアイングラッドの城の尖塔に夕日が懸かっている。

もうこんな時間か、店を閉めよう。

中世ヨーロッパ程度の文明であるこの国では明かり(ライト)の魔法を使えるものはこの町にも十人に一人くらいはいるが、それ以外の者にとって明かりはコストも手間もかかるもので日が落ちかけると一気に人通りは少なくなり家々は門を閉ざす。


ふぅ、ワシは曲げていた腰を伸ばし、かぶっていたベールを取り、ゴムのマスクと手袋を脱いだ。

ワシいや俺は地味なスカートと白いエプロンのまま木の歯車を固定してあった(くさび)を抜き、炉に火を入れた。

水力で小麦を粉にし、食塩水で練ったものを水中で濾してでんぷんとグルテンに分け、でんぷんを糊にして麦芽の汁で糖化して水飴を作る。

グルテンは煮たり揚げたりして麩を作る。

この世界で甘味料は砂糖が無く、蜂蜜や樹液から作るシロップで癖がありそこそこ高価である。

パン職人やクッキーやビスケットを作る職人の腕もの良いのが多いが貴族向けである。

なので下町で子供たちが欠けた銅貨を一枚持って買うことが出来る思いっきり安価な麩菓子を作って生活の糧としている。

孤独な逃亡生活の中で子供たちの笑顔は俺の心の飯である。


嗜好品としては麦芽からウイスキー?も作っているのだがここにあるものはまだ樽詰めして一年もたっておらず、まだ物にはなっていない。

ウイスキーは高く売れるはずなんだがあくまでも個人用である。

魔法が生活や学問の基盤にあるこの世界ではものづくりの工程を魔法でちゃっちゃっと省略してしまうため蒸留などの科学的な作業で作られたものは存在しない。

だから造って売れば大いに儲かった……過去形。

ワインのような果実酒や日本酒のような穀物酒しか存在しない世界でアルコール度の高い酒は酒のみの魂をわしづかみにする悪魔の嗜好品だったのだ。

蒸留酒の醸造法を秘匿したまま逃亡した俺、官憲以外に呑んべどもまで血眼になって探しているのだ。

だから売りに出せない。


 こんなところでくすぶっている俺、実は魔王を倒して大国を影から支配したなんて武勇伝を持っている。

こんなところでこそこそ隠れて駄菓子屋を開いているばあさんの与太話、ほんとばかばかしい話だが誰かに聞いてほしくて仕方がないんだ。


 あれは俺が二十歳になってすぐのハロウィーンの日に遡る。



**過去


 その日まで俺は一流とは言えない私立大学で化学を学ぶ彼女いない暦生まれてからずっとのわびし~い男子学生だったんだ。

名前を佐藤太郎という。


たまたま日曜と重なったその日、おれはボランティアをしている福祉施設のパーティで魔女の扮装をして、手品を披露した。

就職のためのエントリーシートの空白を埋めるためにはボランティアも必要だからで、決して社会のために!とかで始めたのではない。

しかし始めた動機は不純でも意外と俺の性にあっていた。

職員さんたちにも溶け込んで打ち上げの飲み会にも誘われた。

そこで、生まれて初めて酒を本格的に飲んだんだ。


 アルコールも水のうち、トイレ!

男子トイレのドアを開けたつもりだった。


「失礼しましたっ!」


 目が合ったのはきれいな女の人。

慌てて反対側のドアを開けた。

・・・・

が、ドアらしきものをくぐって出た空間では巨大な二つの目がまっすぐ俺を見下ろしていた。







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