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第7話 Babylone

ここにきて初めてメタル以外のタイトルです。

 私は別にギターロックとかポップスとか、そういう音楽が嫌いっていうわけじゃない。それよりもヘヴィ・メタルが私にとっては魅力的だという、ただそれだけなのだ。速くて重いのは、絶対的に正義なのだ。

 だからピロウズのコピーなんて楽勝だし、きっと大して楽しくはないだろうと、そう思っていたのだ。


「うーっし、それじゃあ皆準備はいいか?」


 顔合わせから3日後の放課後、私達4人は相変わらずボロくって設備も最悪の軽音部室にいた。


「オッケーです!」


 誠二はトモ先輩(ちゃらいベースの先輩、こう呼べと強要された。ファック)の呼びかけに元気よく返事をした。ボーカルの津島先輩も声には出さなかったが、頷いてその言葉に返す。


「奈緒ちゃんもオッケー?」


 誰が下の名前で呼ぶ許可を与えたんだ、と言いたくなったがそれをぐっとこらえて、


「……はい、ダイジョブです」


 そう返事をした。誠二が何だか不安げな視線を送っていた気がするが、無視。大丈夫、私はこう見えて結構気が長い方なのだ。


 ドラムの基本リズムが1小節あってから、この曲『バビロン天使の詩』は始まる。特にこの曲でドラムが躓くところは無い。この前やらせたディープ・パープルの方が数段難しい曲なので、誠二についてはあまり心配しなくてもいいだろう。


 だから今回私が気にするべきは先輩2人の力量だろう。軽音学部の部長と副部長という役職にはついているが、それが技術の証明になるとは限らない。特にアレだ、チャラい方の先輩に関しては非常に不安だったりする。


「よし、じゃあ始めます!」


 そんなことを考えていると誠二が開始を宣言してドラムを叩きはじめた。さて、どうなるか。


 まずはメインリフから始まる。このリフは曲中何度も繰り返されるメインテーマと言っていいだろう。難易度は高くはないが繰り返し何度もやるし、特にボーカルは歌いながらコレを退かなければならない場面が何度かある。


 そして1小節が終わって、全員の音が重なる。その時私の耳に飛び込んで来たのは、初めての感覚だった。力強い低音を出すトモ先輩のベース、隙間を埋めるように鳴らされる私とは違う音色の津島先輩のギター、そして基礎を作る誠二のドラム、そこに私のギターが合わさる。



 その瞬間、鳥肌が立った。



 そういえば私はバンドで曲を合わせる、というのが初めてだった。そのことをこの瞬間になって思い出す。この前ドラムのみと合わせたことはあったけど、それ以外は一人かCDの音源に合わせるのがほとんどだった。


 だから私は生バンドの迫力、というのに今はじめて直面したのだった。その音圧に圧倒されて、正直ギターが上手いとか、ベースが上手いだとか、そんなことは分からなかった。ただただ私は自分を包む音に、心を昂ぶらせることしか出来なかったのだ。


 イントロが終わって、Aメロに移る。私のやることはほとんど変わらない、そのままメインリフを弾く。大きな変化は歌が、ボーカルが入るということ。


「は、ははは……」


 ギターを弾きながら、意図せず笑みがこぼれた。ボーカルの音質は最悪だ。ラジカセにカラオケ用の安いマイクを挿しただけの糞みたいな設備からは、やっぱり糞みたいな音しか出ない。


 だけどそれでも、津島先輩の歌は他の楽器に埋もれずに存在した。歌があってこそのバンドなのだと主張するかのように、ロックをしていた。スピーカーの音質とか細かい表現とか歌詞の意味だとかピッチだとか、そんなことは今の私にとってどうでも良かった。ただ歌が楽器に負けずにしっかり入っている、この事実だけで私は楽しくって仕方がなかった。


 そう、楽しくって仕方がないのだ。それぞれの楽器が音を出して、全員で音楽を作り上げているということが楽しくって仕方がない。その一員としてここにいるということが、自分の音がこの音楽を作り上げる一つの部品になれていることが嬉しくって仕方がない。


 高いテンションのままBメロに入る。ここからはストローク、弦楽器隊は休符を合わせる。何てことはない簡単なフレーズが、演奏中に寝てしまうなんて考えていたほど難易度の低い展開が、どうしようもなく心を弾ませた。


 Bメロの最後、曲のテンションは最高潮まで高められ、サビへと雪崩れ込んでいく。ここでも私は簡単なストロークしかしない。速弾きもしないし、アルペジオもなけりゃスウィープもタッピングもしなくていい。一人で練習していたときならこんな曲は絶対にやらなかっただろう。


 でも今は、バンドで合わせている今は、それが楽しい。悔しいけど、楽しくて楽しくて仕方がないのだ。


「…………ファック」


 演奏中だから、絶対に他のメンバーには聞こえない。それでもこう呟かずにはいられない気分だった。ファックだ。全くもってファックだ。最高にファックな気分だ。ファック。


 ふと誠二と目があった。誠二はニヤニヤと少し意地の悪い笑みを浮かべていた。何だかんだ楽しんでしまっている私をからかっているのだろうか。


 何だよ、何か文句でもあるのかよ。ああそうだよ、楽しいよ。私は楽しんでるよ。仕方ないだろ、だって楽しいんだバンドが。


 そんな気持ちを込めて私も誠二に笑顔を向けた。


 ああ、バンドって何て楽しいんだろう。

 ギターロックもまあ、悪くは無い。



先週は体調を思いっきり崩しておりました。また今週から頑張っていきますので宜しくおねがい致します。

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