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私のライジング・フォース  作者: 青葉


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第32話 Armed And Ready

 私は中1でギターを初めてから今まで、友達もほとんど作らないで、ずっと部屋に引きこもってギターを弾いていた。休みの日も一日中、どこにも行くこともなくギターを弄っていたのだ。だから私には、一般的な休みの日の遊び方なんてわからない。遊び方の他にも、もちろんわからないことがあって――


「はあ? 異性と食事に行くときの服装? ごほっ、ごほっ!」


 そんな訳で唯一とも言える女友達に相談をしてみたのだったが、透子は私の言葉に驚きのあまり飲み込んでいたお弁当をむせてしまった。


「ばっ……透子、あんまり大きい声出さないでよ」


 昼休み時の教室とはいえ、あまり大きな声を出すと周りに注目されてしまうだろうが。念のため周りを見渡す。良かった、誰も特には気にしていないようだ。誠二も今日は放送の当番でいない。


「ごめんごめん、あんたの口からそんな言葉が出てくるとは思ってなくて、びっくりしたわ」


 私だって出来ればこんなこと相談したくないのだ。


「……仕方ないでしょ、どうすりゃいいか分かんないだもん」

「確かにあんたの私服、いっつも真っ黒でイカツいプリントの入ったTシャツとジーンズだもんね。それ以外何も持ってないわけ?」

「バカにしないで、パーカーとかだって持ってる」

「あんたの持ってるパーカーってさっき言ったTシャツと同じようなやつでしょ。大して変わらないわよ」

「ぐぬぬ……」


 確かにTシャツもパーカーもメタルバンドのもので、ほとんどが黒い。


「でも、何でいきなりそんなこと聞いてくるのよ? 誰かとデートでも行くの?」

「ええっと。それは、そのぉ……」

「奈緒から男子を誘うのなんてなさそうだし、あんたを誘うなんていう奇特な男子もそういないと思うんだけど」


 糞、さっきからこの女、私を馬鹿にしやがって。でもしかし、本当のことを言うのは気恥ずかしい。教えたら教えたで、きっと面白がって茶化しまくるに違いない。何とかして本当のことはごまかしながら、情報だけを引き出そう――


「近藤さんは焼肉デートがあるんだよねー」


 ――と、いう目論見はこの一言であっさり打ち砕かれたのだった。


「さ、佐藤!? あんた一体どこから現れたのよ!?」

「ああ近藤さん、それは非常に深い質問だね。僕たちはどこから現れたんだろうか、哲学的なとっても興味深い話だね。自分の人間存在としての始まりはどこからなのか、生命が発生した瞬間からと考えるか、自我の芽生えと共に始まったと考えるか。どちらも反論が可能な難しい質問だよ。宗教的な問題にも絡んできそうだねえ」

「そういうことを聞いてるんじゃなくて、あんたどこから聞いてた?」

「近藤さんが、恥ずかしそうに柳井さんに『あ、あのさぁ、例えばだよ、例えばの話なんだけど……異性と休みの日に食事に行くときって、どんな服装でいけばいいのかなあ?』って言ってるところから」

「最初っからじゃねえかファック!」


 さっき当たりを見回したというのに、全く気が付かなかった。前にもこんなことが何度かあったよな。何なんだこいつは、ニンジャか。ニンジャなのか。いつもなよなよヘラヘラしているが、それは世を忍ぶ仮の姿なのか。実はニンジャだったのか。


「奈緒うるさい。で、佐藤くん。焼肉デートってどういうこと?」

「ん~、言った通りの意味だよ~柳井さ~ん。近藤さんは今週末焼肉デートなんだよねえ?」

「ちょ、佐藤やめ」

「なるほど、相手は?」

「透子、ストップ、私の話を」

「僕が名前を出さなくても、柳井さんなら検討つくんじゃないかなあ。近藤さんの交友範囲ってそんなに広くないでしょ?」

「おいやめろ」

「確かに奈緒って友達少ないもんね。考えるまでもないか」


 こうして私が隠そうとしていたことは、あっさりとその全容を明らかにされてしまった。ファック。


「良かったじゃない奈緒、楽しんでくるのよ」

「……別に楽しむ必要とかないし、楽しみにもしてないし、そして透子は私の質問に答えてないし」

「僕はフリフリのワンピースとかがいいと思うな、色はもちろんピンク」

「あ、それ以外にいいんじゃないかしら。ほら、普段とのギャップっていうの?」

「佐藤には意見を聞いてないし、それに透子も悪ノリはやめて」


 結局この後も特に有用なアドバイスはなく、全く生産性のない昼休みになってしまった。














 透子に相談して解決しないとなると、正直他のアテが私にはない。悔しいけれど佐藤の言う通り、私の交友範囲は広くない。服装のことなんて誰に聞けばいいんだろうか。

 その日の授業が終わってすぐの賑わう校舎を、頭を抱えて一人歩く。

 性別が違うから、トモ先輩やマサル先輩に相談する訳にも行かない。いっそ母さんに相談してみるか、何て考えが脳裏をよぎったがすぐに頭振ってかき消す。あの女に相談したら、面白がってとんでもない服を買ってくるに違いない。ついでにクソオヤジもそれに乗っかって、自体はさらに面倒くさくなることが目に見えている。

 こうなると、もう手詰まりか。もういい、いつもの格好で問題ないな。別に大したことじゃないし、メタルTとジーパンで構わない。


 うん、悩むのにも疲れたし何か甘いものでも飲んで帰ろう。そう考えて、私は自販機コーナーに足を向けた。

 小銭を入れて、ラインナップを眺める。メロンソーダ、オレンジジュース、ミルクティ……どうしよう。お、ミックスジュース、これなんか美味しそう。よしこれにしよう、と指を伸ばして――


「お、奈緒ちゃん。今日もブラック?」

「ええ、もちろん。メタラーですから」


 ――何とか回避してブラックコーヒーのボタンを押す。


「ひゃー、やっぱり奈緒ちゃんは格好良いねえ~」

「……こんにちは、清田先輩」


 突然声をかけてきたのはLeno Weaveの女性ギタリスト、清田先輩だった。


「私は苦いのダメだからミックスジュースにしよっと」


 ガタンという音とともに、私が本来飲む予定だったミックスジュースが落ちてきた。ファック。


「先輩、この前はありがとうございました」


 プルタブを開けて真っ黒な液体を流し込む。苦い。ファック。


「こちらこそ誘ってくれってありがとねー、楽しかったよー」


 清田先輩は缶を両手で持って口許に運んだ。うわ、何だかとっても女子っぽい仕草だ。

 よく考えると、清田先輩って結構女子力高いんじゃないのだろうか。微妙に茶色がかった髪の毛も中々艶があるし、よく見ると薄くメイクもしているようだ。うん、中々だ。


「あの、清田先輩」

「なあに?」


 可愛らしく小首を傾げる清田先輩。


「その……実は、ですね……」


 希望を捨てるのは、まだ早かったのかもしれない。













「は~い、一名様ご案内で~す!! いらっしゃいませー!」

「いや先輩、居酒屋じゃないんですから……」


 事情を話した清田先輩が私を引っ張って来たのは、以前一緒にお弁当を食べた場所、清田先輩の秘密基地、美術室だった。美術室には前回と同じく人気はなく、清田先輩の元気な声に返事はなかった。


「はいは~い、それじゃあ奈緒ちゃんここに座ってねぇ」

「わ、分かりました」


 案内されるがまま、私は椅子に腰掛けた。そしてすぐ隣に先輩も座る。なんか、距離が近い気がする。


「んでんで、奈緒ちゃんはどんな服が着たいの?」


 目を輝かせて清田先輩は、ずいとこちらに詰め寄る。何だろうか、この圧迫感は。


「えっと……どんな服が着たいっていうか、そもそもどんな服を着るのが普通なのか分からないっていうか……」

「ふむふむ、奈緒ちゃんはストリート系とか似合いそうだよねえ。でもここは敢えてフリルブラウスとかフレアスカートとかで、フェミニンな感じを目指すっていうのも普段とのギャプが出ていいかも。いや、やっぱりさっぱりとした大人感をだすのにシンプルなトップスにレーススカートを組み合わせてキレイ系ってのもありだと私は思うんだけど、奈緒ちゃんはそこら辺どう思う?」


 何だこれ、呪文か? 清田先輩の言っていることのほとんどが、私には理解できない。


「……ちょっと何言ってるかよく分からないんですけど」

「うーん、そしたらこれでも見ながら一緒に考えよっか」


 私が正直に白状した所、清田先輩はおもむろに雑誌を机の上に取り出した。

 表示には着飾った薄着の女性。見出し記事には『夏のおしゃれ着100選!』『センスのいいモテカワ小物で彼の視線を独り占め!』『7つのアイテムで広がる夏の着回し』などなど。


「こ、これは、もしかして……ファッション誌というやつ!?」

「え、奈緒ちゃんこういうの買わないの?」

「ええ、雑誌はヤンギとバーンぐらいしか買ってないです」

「ギタマガとかロキノンじゃないところが奈緒ちゃんらしいね!」


 私は戦慄しながら、その雑誌の表紙を開く。


「お、おお……」


 ページをいくら捲っても着飾った女ばかりだ。当然ながらイカツイ男は登場しない。ギターやエフェクターなどの機材の宣伝もなく、アクセサリーやバッグなどの広告が目に飛び込んでくる。


「ぐ、うう……」


 なんだろう、この感覚。変な緊張感というか、お腹の奥がくすぐったくなるような気持ち悪さというか、非常に居心地が悪い。手が、震える。


「奈緒ちゃん、どしたの? 具合でも悪い?」

「いえ、別に、体調に問題はないのですが……」


 紙面で笑う女の表情が、私の精神にダメージを与えてくる。


「……辛いです、この雑誌を見続けるのが」

「な、奈緒ちゃん大丈夫!? しっかりして!」


 メンタルを削りきられた私は、雑誌をパタンと閉じて机に突っ伏した。











 苦しみながら、私は清田先輩と雑誌を眺めた。その結果方向性としては、『思いっきり女の子女の子したものは避け今のイメージを維持しながらも、ところどころに男の子のハートをがっちり掴む可愛らしさを盛り込む!』(清田先輩談)という方針となった。まあ、その清田先輩の言葉だけでは私には全く何が何だか分からなかったのだけれど。


「よし、それじゃあそうと決まったら早速洋服屋さんに見に行こうか! ショッピングの時間だよ奈緒ちゃん!」

「ちょ、引っ張んないでくださいよ。ってか部活いいんですか? 美術部は」

「いいの、いいの。今日は奈緒ちゃんのために使うって決めたんだから!」


 ありがたいことに違いはないが、やはりこの人はいつもハイテンションで強引で圧倒されてしまう。


「服の他にも、メイクとか髪とかおしゃれには色々ポイントがあるからいくら時間があっても足りないんだよ、奈緒ちゃん?」

「は、はあ」


 そんな私のゲンナリした様子を悟ったのか、清田先輩はニヤリと笑った。これってひょっとすると、おもちゃにされてたりするんじゃないだろうか。先輩は何だかすごく楽しそうだ。


「うんうん、奈緒ちゃんの髪は長いし結構綺麗だし、これは中々弄りがいがあるねえ」

「髪、ですか……」

「例えばツインテールとか」

「それは絶対に嫌です」

「じゃあ奈緒ちゃんはどういう髪型にしたいっていう希望はある?」


 廊下をずんずん進みながら、先輩は問いかけてきた。


「別に――」


 別にこれといった希望はないです、と言いかけて止めた。


『あれ、そういや奈緒』

『ん、何?』

『髪、結んだんだ』

『え? ああこれね。何か暑くて』

『それ、似合うな。ポニーテール』

『……ああ、うん。そう』

『おう、良いじゃん』

『……そ、そっか』


 このやりとりが、ふと脳裏をよぎったからだ。本当に、別にあいつのためにこの髪型にしている訳ではない。ないのだけれど、


「……いえ、出来れば髪型はあんまり変えたくないです」


 でもあいつと出かけるからと言って特別に髪型を変える必要だってないはずだ。うん、きっとそうだ。


















 そしていよいよやって来た週末、土曜日午後五時十分。待ち合わせ場所は水ノ登駅北口ペデストリアンデッキ上の大時計前。ちなみに待ち合わせ時間は二十分後だ。何となく、早く着いてしまった私は手持ち無沙汰に周りを見回した。この大時計前は水ノ登駅の定番待ち合わせスポットで、私のように誰かを待っている人がちらほら見えた。そんな人の中で私は浮いていないだろうか、場違いな感じはしていないだろうか。そんな不安が頭をよぎり何だかとっても落ち着かない。

 こんなにも落ち着かない原因は、やはりひとつしか考えられない。


「……この格好、やっぱり慣れない」


 改めて、今日の自分の格好を見直してみる。トップスはマイケル・シェンカー・グループの黒のTシャツ……ではなく、清田先輩に選んでもらったノースリーブのブラウス。色はいつもと同じ黒だけれど、袖口なんかにレースがついていてヒラヒラしている。パンツもいつも履いているような適当なジーンズ、ではなく白のショートパンツ。選んで貰っておいてこういうことを言うのも何だが、露出が多くて少し恥ずかしいし、防御力だって低い。足元のサンダルだってヒールは特に高くないけれど、歩きなれないから不安定だ。


 少し歩いた先のショーウィンドウの前に立って、映った自分の全身像を確かめる。

 いつもの自分と比べるとどうみても変だけど、他の人と比べるとそこまで変じゃないというか……不思議な感覚でやっぱり落ち着かない。髪も念のため確認する。


「……よし、特にハネてないな」


 ここのところすっかり結い慣れたポニーテールにも異常はなし。いつもゴムで結っているだけだけれど、今日は清田先輩のアドバイスでシュシュを使っている。これくらいは、まあ良いだろう。

 心を落ち着かせるため、一度深呼吸をする。大きく吸って、少し待って、肺の中の空気を全て吐き出す。


 オーケー、問題なし。オールオッケーだ。大丈夫、私は大丈夫だ。たとえ誠二と二人きりだっていつも通りにしていればいい。ラーメンや牛丼なら何度も二人で食べに行ったことがあるじゃないか。それに今日行くのだって焼肉だし、別にそんなに色気があるものじゃないし。


『ちなみに、焼肉に行くカップルは既に肉体関係にあるって話を良く聞くよね~。そこんとこどうなの、近藤さん?』


 ふと脳裏にそんな佐藤の台詞がよぎるが、


「……アホかっての、ファック」


 そう吐き捨てて否定する。全くあのニンジャ野郎はいつもいつも馬鹿なことばかり抜かしやがって。いつか火口に落ちて刺に貫かれて死ね。


「いや、いっそ誰かの手を借りてトライアングルドリーマーで身体を縦の真っ二つに……」

「何物騒なこと呟いてんだ、奈緒?」

「……誠二、あんたももしかしてニンジャなの?」

「はあ? 何言ってんだ?」


 いつの間にか私の待ち合わせ相手、誠二がすぐ隣にやって来ていた。

 誠二は薄い青の半袖シャツにジーンズというシンプルで無難な出で立ちだった。いつも通り、何の気負いもなく私の隣に立つ。


「それにしても悪いな、待たせちゃったみたいで」

「べ、別に特に待ってないけど」


 うわ、このやりとり、とってもソレっぽくてムズムズする。糞、なんかムカツク。


「あれ、奈緒……」

「な、ななな、何!?」


 何かに気がついたかのような誠二の表情に、緊張が走る。いや、まさか、そんな少女漫画みたいなことあるわけがない。そんなテンプレ通りなラブコメ展開が、この私に訪れるはずはないのだ。誠二は気が利かない馬鹿だし、アホだしマヌケだし空気読めないこと多いし。


「今日の服、さ」

「ひゃ、ひゃい!」

「なんかいつもと雰囲気違うけど似合ってるな。いいんじゃないか」


 心臓が、大きく鳴った。顔が熱いし、自分でも赤くなってしまっているのを感じる。ファック、ファックだ全くこれはファックだ。誠二の顔をまっすぐ見られない、視線を向けられない。顔だって隠してしまいたいくらいだ。そのくらい、恥ずかしい。それでも黙っている訳には行かない、沈黙はもっと気まずい雰囲気を産んでしまう。何とかいつもの空気に戻したい。そうしなければいけない。そうしないと変に思われてしまう。


「えっと、その、まあ……」

「ん? どした?」

「は、腹減った! 腹減ったから早く行こう! ね?」

「お。おう」

「最初はタン塩ねネギタン塩。んでカルビね、ロースね、ハラミね! もちろん全部タレだから通ぶって塩とか言ったら殺すから! あ、私白米は頼まない派なんだよね! その分肉食いたいっていうか、白米に胃袋のスペースを奪われたくないっていうか!」


 こうなったら勢いで持っていくしかない。そうだもう勢いしかない。今は顔も見られないし、もう勢いで焼肉屋へ向かってしまうしかない。


「よ、よし行こう誠二!」


 そうと決まれば早速行動に移そう。方向も分からないけど、私はとにかく歩き出す。


「あ、ちょっと待てって!」

「ひゃ!?」


 誠二の手が、私の腕を掴む。意外に大きくて、力強い感触、思わず変な声が出る。


「な、なな、なななな何!?」


 ダメだ、止めろ誠二。今の私に触ってはいけない。


「なんかよく分かんないけど落ち着けよ」


 絶対にダメだ。このままはマズい。


「お、お落ち着いてるっての、だからその……は、放してよ」


 だって放してもらわないと聞こえてしまうかもしれないじゃないか。


「お、おう分かった。取り敢えず放すぞ」

「は、早くしてってば」


 私のこの、五月蝿いくらいに鳴っている心臓の音は、誠二だけには絶対聞かれたくない。


「はぁ……はぁ……な、何よ急に掴んだりして」

「ああ、悪い悪い」


 そんな軽い謝罪で納得出来るかっての。こっちは凄くビックリしたんだからな。ああ、糞、誠二が掴んで部分が熱くなってしまっている気がする。仕方がないので私は誠二を威嚇するように睨みつけた。


「うお、中々の迫力……でもちょと待ってろっての」

「……待つって、何を?」


 私の言葉に誠二はキョロキョロと周りを見回して――


「そろそろだと思うんだけどなあ……お、来た来た。こっちでーす!」

「は?」

「おう坂本、奈緒ちゃん! おっ待たせ~」

「悪いね二人共。トモが髪の毛中々決まらなくてさあ」

「俺のせいにばっか済んなっての、マサルのウンコだって長かったじゃねえかよ!」

「お前ウンコとか大声で言うなよ、恥ずかしいなあ」


 ――そしてやって来たのは、金髪と地味の見慣れた二人組。


「トモ先輩、マサル先輩、お疲れっす」

「うおっす、いや~俺も焼肉久しぶりだし楽しみだな~」

「坂本、ライブの打ち上げ企画してくれてありがとう」

「いえいえ~、最初は奈緒が食べたいっていう話から始まってですねえ」

「………………ねえ、誠二」

「お、どした?」


 万感の思いを込めて、私は誠二に言い放つ。


「……楽に死ねるとは、思わないことね」

「は、はあっ!?」

「行くわよ、焼肉に!!」


 とても殺したくて、とても死にたい。

 とにかく、今日は、食べよう。

 きっと肉が、脂が全てを忘れさせてくれるだろう。


 そう、信じよう。


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