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私のライジング・フォース  作者: 青葉


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第22話 Into The Fire


 試験の出来は散々なものだったけれど、その代わりギターは絶好調だった。

 運指もピッキングも今日は何故だか非常にスムーズにいく。攻撃的なリフにも感情が乗って、何だかとってもロックな感じに仕上がった。


「ヒャッハー! オラオラ誠二、ちんたらタム回してんじゃねえ。もっと速く! 強く! 重く!」

「何か急に元気になったな奈緒」

「うるせえバーカバーカ!」

「馬鹿は奈緒なんじゃ」

「あぁ!?」

「な、何でも無いです黙ってドラム叩きます」


 全てを忘れるため、一心不乱にギターを掻き鳴らす。誠二の若干引いた顔など関係ないのだ。


「うっし、それじゃあ誠二4カウントでシンバルミュートよろしく! 行くぜ、ウィーアーザファイヤ!」


 テストで燃え尽きた心にもう一度火をつける。テストなんて糞ったれた制度よ燃えろ。特に数学、派手に燃えろ。古文も燃えろ、爆発しろ。化学は景気良く散れ。










「おじさん、チャー定のチューシューとライスの大盛り2つ!」

「あいよっ!」


 練習終わりにやってきたのは駅前のラーメン屋、味吉。かなり古いお店で店内の設備もボロボロだし、壁にはられたメニューも黄ばんでいる。そしてオマケに肝心のラーメンも味が濃いばかりであまり美味しくない。ラーメン屋としては致命的、最低だ。では何故そんな店にわざわざ来るのかというと、それにはもちろん理由がある。この味吉はラーメン屋としては下の下だが、しかしラーメン以外のメニューにこの店の強みがある。それがこのチャーシュー定食だ。


「……はあ、今月もうピンチだな」

「とか言いながら誠二もばっちりダブル頼んでんじゃ~ん。チャー定、チャー定、らんらんら~ん」


 チャーシュー定食、通称チャー定。ライスとスープ、付け合せのもやし炒め。そしてこの定食の象徴であるチャーシュー盛り。決して高級な肉を使っているわけではない。でも美味い。単なるチャーシュー炒め。でも美味い。美味いは正義だ。豚肉最高、豚最高。

 私と誠二は年季の入ったカウンターに座ってチャー定の到着を待った。


「さて、それじゃあ反省会でも始めましょうかね。今日の誠二の演奏はとってもグダグダだった訳だけど」

「うぐ……やっぱお前容赦ないよな」

「当たり前でしょうが、あんなので合格が出せる訳ないでしょ?」


 今日の誠二との練習を振り返って見る。課題曲として誠二に練習させていた曲、TriviumのANTHEM ( We Are The Fire)。ミドルテンポながらもエッジの効いたリフでゴリゴリ押していくハードなナンバーで、まあそこまで難しいという曲ではない。しかし今回の練習で誠二は何と、見事に、迷子になってしまった。


「迷子なんて冗談じゃないっつーの。何、あんた素人?」


 迷子というのは、演奏の途中に曲の構成を見失ってしまうことだ。今演奏しているのが曲中のどこの部分かわからなくなって、結果曲中のキメもシンコペーションもズレてしまうしリズムもぶれてしまう。間違いなく最悪の部類に入るミスだ。


「まあ、実際素人に毛が生えたようなもんだけどな」

「練習、あんまりしてなかったの?」


 もしテスト勉強が理由で練習時間が足らなかったというなら餃子も追加で注文してやろう。


「それなりにはやったんだけどなあ」

「んだったら何であんなに酷い出来だったのよ?」


 私の問いに誠二は少しの間考え込んだ後、


「やっぱりさ、洋楽っていうか……メタルとかハードロックって覚えづらくないか?」


 こうのたまったのだった。


「は? ジャンルによって覚えづらいなんてあるの?」

「うん、多分それが関係してるんだと思うんだよなあ」


 誠二は自分の発言に自分で納得するように頷いた。


「一人でうんうん言ってる所申し訳ないけど、ちょっと私には意味が分からない」

「じゃあ奈緒はいつもどうやって曲覚えてるんだ?」

「どうやってって言われても……普通に、聞いてだよ」


 何回か聞けば、大体の構成やどんなプレイをしているかは理解できる。ギターソロなんかも、大体はそれで覚えられる。


「奈緒と俺じゃあきっとその普通の聞き方っていうのが違うんだと思う。俺は基本的に歌をメインにして曲を聞いて、それを中心に覚えていってるんだよな。だからメタルとかは覚えにくいんだよ」

「う~ん? いまいち分かんない」

「メタルとかハードロックってさ歌がメインにある曲もあるけど、今回やった曲なんかは歌よりもギターリフとかソロとか、そういうのが歌よりも展開に関わってくる感じじゃないか? だから歌で覚えようとすると上手く行かないし、実際演奏してても構成を見失っちゃうっていうかな」


 ふむ、確かにメタルやハードロックは歌メロディよりもリフなんかをゴリ押ししていく傾向が強い。誠二のような覚え方は合っていないかもしれない。


「だから奈緒はどうやって覚えてるのか気になってさ」

「言いたいことは分かったけど、そう言われても私も無意識でやってるからなあ……」


 プログレとかじゃない限り、構成は意識して覚えようとしなくても自然と頭に入ってくる。それを人に説明するというのは難しい。


「まあ単にそういう音楽を聞いてる量が足らないってだけかもしんないけどさ」

「だな、結局あんたはまだまだメタラーとしての修行が足りないってことだ! 好きになれれば自然と覚えられるって」


 それでも、そもそもこいつはメタラーじゃない訳だし、誠二のためになるような情報がないか少し考えてみようと私は思った。


「また来週テストするからその時までにしっかり解決しとくのよ? ダメだったら今度はどこで奢って貰おうかなあ……」

「やっぱり奢りは譲らないのか」


 でも、だからといって甘やかすつもりは全くないのだけれど。


「ヘイ、チャー定大盛り二丁お待ち!!」

「待ってましたあ!!」


 そして待望のチャー定が私達の目の前に湯気を上げてやってくる。うん、タレの甘い匂いが食欲をそそる。早速いただこう、と割り箸を割ったところで胸ポケットの中の携帯電話が震えた。まあ後で確認しよう。今はメールより何よりチャー定だ。


「ん~、美味い。ご飯が進む!!」


 早速チャーシューを一口。うん、美味い。こりゃあいい。


「おい、奈緒」

「何だよ誠二? お前も食えよ、折角の奢りなんだから」


 味の染みたチャーシューと、一杯の白米を一緒に口の中へ突っ込む。最高だ。


「俺のな……メール見たか? トモ先輩から、次のライブの話だってよ」

「んぼっ!? おはえ、ほえをはひにいへほ!!」

「口の中のモノを片付けてから喋れって……」

「んぐっ、んぐっ……ぷはあ! お前、それを先に言えって!」


 誠二の手から携帯をぶんどって画面を確認する。


 差出人:古田友宏

 件名:速報!

 本文:ライトニングの倉田さんから連絡ありました! 来週末のライブの枠に急に空きが出来たらしくて、今出演できるバンドを探してるんだって~。出演できるかどうか、今日中に返信よろっ★



「待ってましたぁ! よし誠二、すぐ返信だ出演だ曲決めだ練習だ」

「そうだな……っておい奈緒、明日もテストなんだけどそれは?」

「初日がここまで糞だったんだから、もうこれから何やっても無駄だって。それよりバンドだよバンド」


 これが私の青春だ。つまらないテストなんかお呼びじゃない。やってられるか、滅びろ。今日も帰ったら勉強なんかせずギターの練習をしてやる。熱く燃えるような音楽の炎の中こそ、私のあるべき場所だ。


「まあ、奈緒がそれでいいなら俺から言うことはないけどさあ」

「よし、食うぞ誠二!」


 チャー定は美味いし次のライブも決まったし、気分は最高だ。



新作上げてます。SD小説新人賞一次落ち作品です。本作とは大分感じが違いますが、読んでいただけると嬉しいです。


タイトル:幼馴染は突然にっ! ~ハルカ昔ノ約束~

N0582BY


毎日19時に更新してます。よろしくお願いします。

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