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私のライジング・フォース  作者: 青葉


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第11話 Get Back The Love!


 結局私の出したバンド名候補は全て不採用という結果に終わった。


「……やっぱり格好良いと思うんだけどなあ、『Lunatic Chaos』」

「それはない」


 帰り道、私の隣を歩く誠二は呆れた顔答えた。やはりこいつは何も分かっていない。ファックだ。


「いいじゃないか、『Junk Rock』ってバンド名。俺は気に入ったぞ?」


 学校から駅へと続く下り坂は、夕焼けで赤く染まっている。西日が少し眩しい。


「悪くはないけどさあ……こう、何かが足りないっていうか、凶悪さがないっていうか」

「別に凶悪さはなくてもいいだろ」


 『Junk Rock』、決定した私達四人のバンド名。確かに悪い名前じゃない。ちなみにこれはマサル先輩の持ってきた候補だった。確かに適度にロックでポップな感じのする良いネーミングだと思う。この名前が一番多くの票を獲得した。ちなみに私が持ってきた数々の素晴らしいバンド名には、私以外の票は一切入らなかった。皆のセンスは間違いなく間違っている。


「でも自分が初めて組むバンドの名前なんだしさ、こだわりたくもなるじゃん?」

「そりゃそうか……って、お前バンド組むの初めてだったのか!?」


 隣を歩く誠二が、急に驚いたように声をあげた。


「ん、そうだけど?」

「あんだけギター上手いのに!?」

「そうだな、私はギターが上手いな」


 ふふふ、誠二のやつ分かっているじゃないか。


「いや、そういうこと言ってるんじゃなくてだな。奈緒、お前これがバンド組むの初めてなのか?」

「ああ、言ってなかったっけか」

「ああ、聞いてないな」

「そっか。まあ、そういうことなの」

「そ、そうだったのか……何か色々慣れてたし、俺はてっきりもう長いことバンドやってるのかと思ってた」

「んなことない。私はずっと一人で練習ばっかしてたんだから」


 そう、私は自分の演奏を誰にも聴かせることなく、ただ自分のためだけに自分の好きな曲だけを好きなように演奏していたのだ。別にそれは悪い時間ではなかった。ギターは一人で弾いても十分楽しい。


「誰かと一緒に演奏したのだって、あんたが初めてだったんだから」


 でも今の私は、誰かと一緒に演奏するという楽しさを見つけてしまった。自分の音と他の音が一つになる心地よさを知ってしまった、今自分のすぐ隣を歩くこの男のせいで。

 こいつがしつこく誘って来なければ、私は今でも一人で引きこもってギターを弾いているだけだったのだろう。そういう意味では、誠二に少しは感謝をしなければいけないのかも――


「へー、そしたら俺は奈緒の初めての男ってわけか」


 ――なんてことは、絶対にない。ファック。ニヤニヤしながら誠二はそんなアホなことを言い放った。


「は、はあ? あんた何言ってんの!? 変な言い方すんなっての!」

「ぬははは、照れてんのか?」

「照れてない、死ね」


 糞、この下手糞ドラマーが調子に乗りやがって。ムカツク。誠二は相変わらず意地の悪い笑みを浮かべて私を見ている。早く話題を変えてしまおう。


「で、あんたはバンド初めてじゃないの?」

「ああ。中学の頃に文化祭に出ようって、友達と組んだのが初めてだな」


 やっぱりこいつもそういうパターンなのか。自分をバンドに誘ってきた中学の同級生を思い出した。


「ちなみにその時のバンド名って何て言うの?」

「ああ、その時は俺が考えたのが採用されたんだけどな。メンバー全員の頭文字をとって……」


 何だその決め方は。悪い予感しかしない。


「『KAISO』っていう名前だったなあ、懐かしい」

「か、海藻……」


 正直、私の想像を上回るダサさだった。ワカメよりは、まだバイクのメーカーの方がマシだ。今回はこいつの考えたバンド名が通らなくて良かったと、私は心からそう思った。








「ただいまー」


 近藤酒店の扉を開きそう告げると、母さんが商品棚の整理をしているところだった。


「あら奈緒、おかえりなさい」

「父さんは?」

「配達行ってるわ」

「ふーん」


 近藤千里、御年四十二歳。アップで纏めた髪に、スラっとしたシルエット。年の割には若くみえ、三十代前半と言っても十分通じると思う。まあ、流石に私の姉というのには無理があると思うけど。細かいシワや肌のくすみは隠せない。


「……ねえ奈緒、あんた何か帰ってきて早々失礼なこと考えてない?」

「そ、そんなことないってば」


 このように、適当な夫に代わってお店の経理全般を引き受けるデキる女だけあって、変な所で鋭い。


「じゃあ、あたし部屋行ってるから。晩御飯出来たら呼んで」

「はあ、またギター?」


 ため息をつきながら母さんは言った。何だ、ギターの練習はいけないことなのか。


「そうだけど、何か文句ある?」

「あんた折角高校生になったんだからさあ、ちょっとはキャピキャピというか、もっと女子高生っぽいことしたっていいんじゃない?」

「……この前父さんにも同じようなこと言われたんだけどさあ。別に無理にそういうことしなくたっていいじゃんか」


 両親はそんなに私のことが心配なのだろうか。全く嫌になる。放っておいて欲しい。


「そんなこと言ってたらあっという間に年取って、あんたは彼氏の一人も出来ずに青春を終わらせることになるのよ? それでいいの?」

「……だからぁ」


 恋愛だけが青春の全てではないはずだ。私にはギターがある。ギターが私の青春で、そして夢なのだ。それでいいと私は思っている。


「だってあんた、今色気づかないでいつ色気づくのよ? このままじゃ、あんたには一生彼氏もできず、私たちは孫の顔も見れず、そして近藤酒店も跡継ぎができないで潰れちゃうのよ?」

「……店は翼が継げばいいじゃんか」


 近藤翼、私の二つ年下の弟だ。


「ダメよ、あの子店を継ぐ気なんて全然ないもの。それに頭悪いし、経営は絶対無理」


 実の息子にここまで酷く言える母親が居ていいのだろうか。まあ、ここに居るから仕方がないのだけれど。


「ギターをやるなとは言わないけど、部屋に引きこもってないでバンドでも組めばいいじゃない。チャラい男の子とバンドやってライブやって、ライブ終了後の火照った身体を持て余した二人は若さ故の過ちを犯せばいいじゃない」

「若さ故の過ちって……」


 このババアは自分で何を言っているのか分かっているのだろうか。自分の娘に不純異性交遊を励行するなんて、親として間違えちゃいないだろうか。


「あら、そんな若さ故の過ちの末生まれてきたのがあなたなのよ。そう、あれは私がまだ二十六のころだったかしら。お父さんも今よりずっとハンサムでね、とってもやんちゃだったのよ。あ、そのやんちゃっていうのは、不良だったとかそういうのじゃなくってもちろん下半身的な意味よ」

「そういう生々しい話はしなくていいから!」


 両親のそういう話は聞きたくない。何だそのうっとりした顔は。


「とにかく私たちはあなたが心配なのよ。どうせ今日も男子と碌に話もしなかったんでしょ? 教室ではずっとイヤホンつけてヘビメタ聞いてたんでしょ?」

「ヘビメタじゃない、ヘヴィ・メタルだ!」

「はいはい、へびいめたるねへびいめたる。で、どうなの? 言い返せないんでしょ? 帰り道も一人だったんでしょ?」


 この糞ババア、私のことを決めつけやがって。こうなったらあっと驚かせてやろう。


「違うし、教室では男子とも話すし今日も男子と二人で帰ったし」


 うん、嘘はついてない。教室では誠二とも佐藤とも話したし、帰りは誠二と二人だったし。まあ、全く全然色っぽい話ではないけれど。


「ええ!? あんた、それ本当!?」


 私の言葉に、母さんは身体をビクリと震わせて大きな反応を見せた。


「別に、そんなに驚くことじゃないでしょ」

「いや、驚くわよ! ビックリよ! 驚天動地よ! 誰、その男の子誰なの!? その子、ちょっと頭おかしいんじゃないの!?」


 酷い言い様だ。自分の娘を何だと思ってるんだこの女は。


「別に、誰だって良いでしょ」

「良くない! あ、分かった、その子あんたと同じヘビメタ好きなんでしょ!」

「ヘビメタじゃない、ヘヴィ・メタルだ!」

「年がら年中黒くておどろおどろしいTシャツ来てるんでしょ、部屋で頭ブンブン振りながら音楽聞いてるんでしょ、モヒカンなんでしょ、トゲ付き肩パッドしてるんでしょ、汚物は消毒するんでしょ?」


 何だこの女のメタラーに対するイメージは。後半はどこの世紀末だ。もう付き合ってられない。


「じゃあ私、部屋行くから……」

「あ、ちょっと待ちなさい! もっと詳しく話を聞かせなさい! ちょっと奈緒!」


 後ろから聞こえる声を無視して、私は階段を登って自室へと向かった。何だか無駄に疲れてしまった。





 ちなみにその日の晩御飯には何故だか赤飯が出た。ファック。

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