いろうつり
探す、探す、探す。
走る、走る、走る。
あの人は何処だろう。
走っているのに追いつけない。
探しているのに見つからない。
卒業の日、あの人がこの学校の生徒でいられる最後の日。懐かしさにもう一度校舎に戻って行った彼を追って、私も校舎に足を踏み入れた。
三年間受け入れた生徒を送り出した校舎は、何処が誇らし気で、それでいて余所余所しくて、判然としている。時折瞬くフラッシュはカメラだろうか。校門の前でも今だ多くの卒業生が別れを惜しんでいる。同じく、部室に、教室に、自分の席に、愛着を持って接していた卒業生が、最後の別れを告げにもう一度訪れているのだろう。きっとあの人も、そんな卒業生の一人として寂しさと誇らしさの促すまま、徒然に彷徨っているに違いない。
階段を上る、階段を下りる。
廊下を進む、廊下を戻る。
あの人は何処だろう。
廊下を走っても見つからない。
階段を探しても―――
開けられた廊下の窓から吹き込んだ薄紅の花弁が、舞い踊る雪のように一瞬私の視界を遮る。思わず腕で庇って背けた視界に掠めた見慣れた背中。階段の手摺から身を乗り出し、ゆっくりと階段を下りていた先輩に向かって叫ぶ。
「先輩っ!!」
居た。やっと見つけた。跳ぶように駆け下りた私を、先輩は階段の踊り場で待っていてくれた。そんな何気ない優しさが嬉しい、愛しい。でも、こんな姿も明日からはもう見れなくなるのだ。
不意に心を締め付けた感情の名前をもう私は知っている。
だって、この感情を私に教えたのは先輩だから。
だって、私を『染めた』のは先輩だから。
だから、私は先輩を想って『咲いた』のだ。
「先輩、私、宣言しますっ」
行き成りの私の言葉に目を丸くする先輩の目を真っ直ぐに見返し、私は選手宣誓のように右手を指先までピンっと伸ばし、きっぱりと想いの丈を込めて宣言した。
「私、先輩と同じ大学に行きます。来年の春には先輩と同じ場所に居ます」
何かを言いかける先輩の言葉に被せて言い切る。
「もう、決めましたから」
黒い眼に映る碧い眼。
私に移った貴方の熱。
貴方の色が、私に移る。
私の色が、貴方に映る。
どこまでも、追いかけて行くって決めたんです。
そして、この『熱』を移し返してみせます。