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わかば

卒業式の桜って、なんであんなに切なくなるのでしょうね。

 無意識に口ずさんでいた歌に気付いて、小さく苦笑を零す。

 もう解散した女性ユニットが歌っていたあのやたら明るい失恋ソングは、こういう時にぴったりだ。



「じゃーね、バイバイ」


 そう言って別れた彼はもう居ない。

 もう見えない。



 卒業後の進路が違った時点で、遠くない未来に別れが来るだろうことは予想が付いていた。

 遠距離恋愛なんて私達にはきっと無理。寂しくて、寒くて、きっと傍の温もりを求めてしまう。

 遅かれ早かれ自然消滅したことだろう。

 だから、さっさと決着をつけた。

 きっぱりはっきり自分自身に引導を渡すために。

 遠く離れた地でメールの返信がだんだん無くなっていくのに怯えたくなったから―――。


 貴方と私は、今から無関係の他人同士です。


 無関係の他人だから、メールが無いのは当たり前。

 無関係の他人だから、電話が無いのは当たり前。

 無関係の他人だから、会えないのは当たり前。



「ああ、じゃーな」


 そう言って別れた彼はもう見えない。

 もう会えない。



 振り切るように、空を見上げる。

 薄っすらと霞みがかった春の空から、白い花弁が降るように舞う。


「さよなら……」


 強がって、平気な振りをして。

 でも、結局言えなかった言葉をそっと唇に乗せる。


 歪んで行く視界に瞬く。

 今日が雨なら良かったのに。

 今、空から降って来るものが水の滴だったら良かったのに。

 そうしたら、最後まで強がれたのに。


 溢れて止まらない温かな滴を、男の子のようにぐいっと制服の袖で拭う。


 三年間、ずっと見てきた制服。

 三年間、ずっと彼の隣りに在れた制服。


 ダメだ、もう止められない―――


 私の視界の中をぼやけた緑に染める今は、若葉の季節。

 今は、別場【わかば】の季節。

いつかまた会えたなら。

今度は強がりじゃなく笑えるから。

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