3話 穴があったら入りたい。
泪も、だいぶ落ち着いてきた。
今は、ちょっとわくわくするくらいだよ。
よし、決めた。
この歌が終わったら、山下に話しかけてみよう。
とりあえず、今はここで、聴いていたい。他には、何もしたくない。
あたしは、補習のプリントを職員室に提出しに行くことなんて、すっかり忘れてた。
まぁ、思い出す気もないけどね。
山下の歌に、引き込まれていく。この声が、一番魅力的だ、と思う。
歌詞にも、耳を傾けてみる。
(すごく・・・切ない・・・・。)
旋律もそんな感じ。
山下の透明な声に混ざって、あっという間にあたしの心に染み渡る。
それがとっても、心地良いんだよね。
昔の歌かな?そう思った。
あたしは、音楽を聴くのが大好きで。
新しい曲が出て、何か良さそうな感じなら、片っ端から借りちゃう。
特にどうでも良さそうな曲でも、一応視聴はする。
どんなジャンルの音楽も、(演歌とか、CMソングとかも。)聞き逃したくないんだ。
ここ4〜5年は、そんな生活をしている。
だから、まぁ、こう言っちゃあなんだけど、あたしが知らない曲って、殆どないと思う。
なのに、山下が歌っているこの曲。聴いたこと、絶対ないし。
でも、やっぱりどこかしらで聴いてそうな感じはして・・・。
嗚呼、矛盾。
なんか、パン食べ過ぎて、胸焼けした気分。(?)
・・・とか思ってたら、終わっちゃったし。
(あっ!!早く訊かなきゃ・・・!)
焦ったあたしは、教室のドアをすごい勢いで開けて、・・・なんと外れてしまった。
「うわ、やばっ!」
これまた焦って、何もないのにものの見事に躓いてしまった。しかも頭打った。
(は・・・恥ずかしすぎ・・・。)
『穴があったら入りたい』とか、何か今のあたしの為に作った言葉?
それくらいの、このピッタリ度。
あぁ〜・・・この後どうしよう?
流石に、気づかれていないはずがないでしょう。
もう泣きたいですよ・・・・・・・・。
「・・・何あんた。バカでしょ?(笑)」
あれぇ〜??
何か今、あたしに追い討ちをかける様な言葉が聞こえたような。
しかも、ちょいと低めな声じゃあありませんか・・・?
恐る恐る顔を上げてみる。
そこには、あたし好みのあの顔が・・・。
「うあっ!!!」
驚きすぎて、即、後ずさり。あたしって、何か・・・変態?
山下は、まだ笑っている。当然って言えば、その通りだけど。
「ねぇ〜、まぢ、何?誰?何でここに居んの?てか、平気?鼻血出てるし・・・(笑)」
山下はそう言って笑いながら、あたしに手を差し伸べた。
すごく馬鹿にされてる。何か悔しい。
でも、同時にこう思う。噂って、当たらずも遠からず。
確かになんか変わってる感じはするけど。皮肉な感じはするけど。
でも、少なくとも、無口ではない。
かるぅ〜〜くで良ければ、優しさも・・・あると思う。
「・・・ありがと。」
あたしは、山下の手をとり、立ち上がった。
時間にしたら、ほんの一瞬だったと思う。
でもあたしは、
そのぬくもりを、ずいぶん長い時間感じていた気がした。




