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オモイノ・シリーズ

オモイノタネ 6 下

作者: 風紙文

オモイノタネ 6 その続きです。

こちらを読む前に、オモイノタネ 6 上 をご覧ください。

恵里さんの案内をしながら、私は公園を目指しています。

「なるほどね…アンタの兄が作った発明が原因と」

「おそらくですけど…先輩も持っていましたし」

ビーケさんにも慣れました。

「ふむ…どう思う、エリ?」

「……多分。このまま行くだけでは、ダメだと思う」

「そうよね…」

「え…ダメなんですか?」

「いや、完璧にじゃないけど、まぁ…半分ぐらい?」

「半分ぐらい…ダメなんですか?」

「う…まぁ…多分…」

「では…どうすれば…」

「……大丈夫、半分でも…意味はあるから」

「は…はい…」

「そういや、アンタは持ってないの? 発明の種」

「いえ、私は前に……あ」

「どうかした?」

「…私は」

思い出しました。私が恵里さん達に会うのは、これで三回目です。

二回目は先輩が風邪の時にもう一人の先輩に会いに…そして、一回目は…。

「…恵里さん、覚えてますか? 私…前に恵里さん達と会ってるんですよ?」

「え?」

「……会ってたっけ?」

「…覚えてなくても仕方ないですよ…私も変わりましたし」

「……ゴメン。いつの事だか教えてくれる?」

「はい…私は…」



私は昔、病弱でした。

学校にも行けずに、病院と家を往復する方が多かったほどです。

そんな時、「発明の種」は売り出され、お母さんが一つ買ってきてくれました。

毎日欠かさず水をあげる。それが私の楽しみになりました。

…ですがその頃、病気の発作は時間を問わず、深夜でも起こりました。

その為眠れない日々が続き、具合は悪くなる一方でした。

…そんな時に、発明の種は輝きました。

そして出来上がった物は、


思いが現実のまマクラ


という物でした。

このマクラで眠ると、その夢の中で見た事が現実になるという物で、

つまりこれを使えば、私が夢の中で元気になれば、現実で病気が治るという事。

私は直ぐに使おうと思い、その日からそのマクラを使い始めました。

…ですが、無理でした。

発作によって眠れず、使えないままで時間が過ぎました。

…そんな、ある夜の事でした。



「……思い出した」

「あの時の女の子か、本当に変わったわね」

「あの時…私に言ってくださった事…覚えてますか?」

「うん…夢を見るのは自由でも現実との違いは、つけないといけない…」

「現実ってのは、そんなに甘くないって事よ」

「はい…そしてあの時私は言いましたよね…一日だけ、待って下さいと」

「うん…一日待った」

「あの後私は…寝る努力をしたんです…夢と現実の違いをするように言われた後でしたけど…それで、ようやく…」

「それで…直ったのね」

「はい…あの時は…言いませんでしたけどね」

「……別に秘密にする必要は無かったなのに…」

「何故でしょうね?何でか秘密にしないといけない気がして…」

「そんな事はない…でも…役にたったのなら良かった…おめでとう」

「はい…ありがとうございます…あ! ここです」



「お兄ちゃん!」

「お? 真菜じゃないか、どうしたんだ?」

今日の分を全て売り切ったと思われる兄は、後片付けをしていました。

「ところで、隣の子は友達かい?」

「初めまして…貴方にお願いがあって来ました」

「僕に? アレなら今日はもう売り切れだよ?」

「……違う…売る事をやめてほしいの」

「売る事? この露天をやめてくれって事かい?」

「そう…貴方の売ってる物、それはいけない物だから」

「いけない? アレのどこがいけない物だと言うんだ」

「…お兄ちゃん、アレの材料はどこから持ってくるの?」

「え? いや…あの…」

「……貴方も発明を持っているね?」

「発明…アレの事か…」

「……私は発明を回収…分解して回っている者…だから、渡して」

「う…だ…駄目だよ…アレが無くなったら、もう作れなくなるよ?」

「構わない…販売もやめて、一石二鳥」

「君にとってはだろ? 僕にとっては、損しか残らないじゃないか」

「貴方は知らない…買って行った人がどんな目に遭っているか」

「な…どんな目に遭っているというんだ?」

「……コレ」

恵里さんが取り出したのは、数枚の紙。それを見ながら恵里さんは内容を読み上げていった。

「……必ず当たる筈の物が当たらなかった……何かしら言われなくてはいけない場面で何も言われなかった……必ず会えていた人に、急に会えなくなった……等々」

「う…」

「分かる? 必ず起こっていた事が、起こらなくなってるのよ」

「うわ! 箱が喋った!?」

「細かい事は気にするな! とにかく今のが分かったかどうかよ」

「う…でもそれが全て僕の原因とは限らないだろ?」

「いいえ、全部アンタが、正確にはアンタが作って売りさばいた物が原因よ」

「僕の?」

「アンタの作った物、というか材料としている物には思っている通りにならない効果があるのよ」

「その材料が…発明から出来上がっている」

「う…」

「確かに世の中は思い通りにならない事が多い……でもその中で起こる些細な幸せさえ、貴方の発明は無くしてしまう」

「……」

「…お兄ちゃん」

「……叶う夢も…叶わぬ夢もあるけれど…それは人々の行動によって変わるもの…貴方が決めてはいけないの」

「…分かったよ、もう露天はやめる。発明も渡すよ」

「お兄ちゃん…」




思い通りにならナイロン


それが兄の発明の名前。正確には、ナイロンを作る製造機の事でした。

「なるほどね…売れないと思えば、逆に売れてしまう。思い通りにはならない、か」

「……それはつまり…逆に思えばいいのかな?」

「コレは必ず起こらない…とか? ただのネガティブ思考じゃない」

「でも…物は使いようって言うよね?」

「まぁね」

「あ…あの…恵里さん」

「何?」

「あ…ありがとうございました…兄を助けてくれて」

「……助けたつもりはない…ただ発明を回収しただけ」

「あ…す、すいません…そうでしたね…」

「……でも…どういたしまして…」

「…まだ、続けるんですか? 発明の回収を…」

「……勿論。その先に…私の夢があるから」

「恵里さんの…夢…」

「私も貴女のように…夢を叶えられるように頑張る。貴女も新な夢を見つけて、それに向かって頑張ってね…夢が叶うのは…それに向かって、努力している人だから」

「…はい」

「それじゃ…」




その後、私が恵里さんと会う事はもうありませんでした。

ですがきっと…あの人は夢を叶えた筈です。

私はそう…思っています。


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