28.村への帰還①
「さて!帰りますか~!!」
あれから。予想していたあの研究員関連の事情聴取などはされることなく、魔道具の展示も無事開始されたので、私はポッシェ村に帰ることになった。
ここで知り合ったクラウスと別れることになるのは少しだけ悲しかったが、昨日既に別れも済ませた。昨日で別れを済ませたのは、今日会ってしまうと寂しい気持ちが溢れてしまいそうだったからだ。次会えるのがいつなのかわからないというのも大きいが、ここまで会えなくなって寂しいなと思える人は初めてだった。
元々荷物もほとんど持ってきていなかったので、帰りの準備の方は1時間もあれば完了した。そして専用に用意された魔導車に今、乗り込……んだのだが。
「やあ!遅かったね、フィーア」
「すまない。本当にすまない。俺ではこの生き物を止めることができなかったんだ」
「……なんで乗っているんですか」
驚きのあまり、出たのはそんな言葉だけだった。
乗っていたのはやっと別れられると思い、別れの言葉すら告げに行かなかったこの国の第二王子と、いつかの再会を待ち望んでいた人。正直、後者に関してはこんなにすぐに再会することになるとは思っていなかったが。
「僕たちもポッシェ村に行くことになったんだ!ずっと忙しかったからね、ちょっとゴネたら長期で休んでいいっていう許可をもらえたんだ」
「俺はこいつの護衛だ」
「理由はわかりました。でもその休みを過ごす場所は別にポッシェ村じゃなくても良いはずですよね?」
「僕、この間ポッシェ村に行った時に、あの村とっても気に入っちゃったんだ。あの穏やかで素朴な感じの村。ああいうところ好きだなあ。だから次の長期休みはあの場所で過ごすってもう決めちゃってたんだ!!」
「……同じ魔導車を使う必要はな――」
「僕の長期休みといえど、国費を使っての移動はどうかなって思っちゃって。少しでもそこを削減するためにも、このポッシェ村行きの魔導車に乗せてもらうことにしたんだ~。君と一緒に旅をできるっていうメリットもあるしね。僕って真面目!!」
悉くふざけたような内容で疑問を返される。
もうこの男に何を言っても無駄だろう。強制的に着いてくるに違いない。テレポーテーションの魔道具がもしここにあれば、この魔導車からすぐにでも抜け出すことができるのに、と考えるが、そんなことは不可能だ。
なにせテレポーテーションの魔道具は国の機関によって既に回収済みだからだ。曰く、ポッシェ村に帰り次第、結界と同じように論文を提出してほしいとのことだ。これはこれで別口で発表され、次回のフィオレント魔法技術トーナメントにも提出されるらしい。だから現在手元になく、使用することもできない。そういう経緯で私専用に誂えられた魔導車が1つ用意されたというわけだ。
今後いつでも自由に使用して良いらしい。中身も無駄に豪華な装飾が施されており、正直中に設置されたソファに座るのすら傷をつけないようにと気を遣うので、断ろうとしたのだが、それを既に国の偉い人は見越していたらしく、断るのを断られたといった展開だ。
さっきも外で、この魔導車を運転しているトーマスにも「よろしくお願いいたします」とニコニコと声を掛けられ、『いらない』だなんて言うわけにはいかなかった。
私は今後、彼らの商業を潰す存在になりうるというのに、なんだか申し訳ない気持ちになった。でもこの厄介な男を先に乗せていたのだ。そんな申し訳ない気持ち、今後一生感じることはないだろう。
「それじゃ!またしばらくの間よろしくね!フィーア!!」
「……この男の凶行は出来るだけ止めるように努力する。すまないが、今しばらくの間、付き合ってくれ」
「はあ。仕方ないですね」
「やったー!!ありがとう、フィーア!!この期間で、今度は君が王都で働いてくれるように勧誘活動を頑張るよ!」
「どれだけ勧誘されようとも、私の心は揺らがないので、早めに諦めてください」
いつも通りのサミュエルに呆れる。
しかしながら、こんな賑やかな日々をもう少し過ごすのも悪くないと、心の隅では少しだけ思っていた。絶対にサミュエルには言ってやらないが。




