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11.流転


 2167年8月1日


 この日、アメリカ合衆国とヨーロッパ連合。そしてオセアニアの国々は消えた。

 合衆国大統領は地球連邦暫定政府の発足を宣言する。この時より政治の中心はサンデイエゴに置かれ、彼は自ら初代の首席となった。

 まだ彼が主席を務める議会は存在していない。


 同時に北アフリカ諸国で軍事クーデターが起き、あっけなく政権が変わり地球連邦への加盟を表明。

 それを受けて旧ヨーロッパ連合の軍隊を中心に編成された連邦軍が北アフリカに進軍。そこに拠点を置き、周囲に対しての進軍準備を始める。

 同時に主に北欧諸国からの移住のためのコロニーの建設が始まった。


 同日。南米赤道付近の国々に、旧合衆国軍により編成された連邦軍が進軍を開始。そのタイミングに合わせて政権中枢を狙ったピンポイント攻撃が行われる。

 翌日には連邦軍が進軍し、ゲリラ化して抵抗を続ける旧政府軍の一部と、武装勢力との戦闘になるが、一方的な蹂躙となった。

 現地一般人が率先して連邦軍を誘導したこと。そして連邦軍は一般市民に対して極力敵対しない姿勢を貫いたことが、功を奏した形となる。

 3日目には制圧が完了した。


 同日。

 中東諸国で民衆の一斉蜂起が起こる。

 地元の複数の武装勢力が、既存政府の打倒に成功。地球連邦政府への参加を表明。

 その背後には旧合衆国の特殊部隊が投入されて、政治指導者数名の暗殺を行ったという憶測も飛んだが、事実としては確認されていない。

 現地武装勢力は自らの手柄だと主張した。

 だが、武装勢力は非武装化に抵抗。

 連邦軍の部隊との戦闘に発展する。

 市街地や山岳地帯において、ゲリラ化した武装勢力を排除。

 都市部にも強行突入し、最小限の被害でこれを制圧した。

 一斉蜂起の1週間後のことだった。


 この戦いで最も戦果を挙げたのは、一度廃止された機械化兵による部隊だった。

 機械化兵はコストの悪さから、すでに現役を引退し、ほかの兵器への転用を待つだけとなっていたのだが、再整備され、この戦線に投入された。

 地球連邦政府は経済政策を転換したことにより、自由主義経済を凍結し資源の一元管理を行うことで、コスト高をある程度は容認できたのである。

 被弾を恐れる必要のない機械化兵は撃たれたら打ち返す、というスタンスでいられる。

 これは民間人を誤射するリスクを大幅に低減した。

 結果民間人の殺害は主にゲリラや武装勢力により行われたもので、連邦軍は解放軍としてこの地域に認知される。

 作戦の第一段階は、ほぼ完全勝利と言えた。


 これを機に、中立的立場を維持しようとしてきたかなりの数の国は、地球連邦への加入を申請することになる。


 申請をした国には軍の先行部隊が駐留し、駐留と同時に現地軍の解体が行われた。

 ただ、南米も、中東も、そして中央アフリカ諸国も、ゲリラ化するものが後を絶たず、やがて戦闘は泥沼の様相を見せ始める。






 2167年8月9日


「今日も平和で何よりですね。想像していたよりもお客さんたちは静かにしてくれてますし」


「ああ、そうだな。平和なのが一番だ。退屈しない毎日を喜ぶ奴の顔が見てみたいよ」


 この旅を続ける二人の乗組員と会話をしながら、トーマスはエンヴィの顔を思い浮かべた。

 当直の交代の時間だ。

 3人いるので3交代なのだが、時間は均等ではなく、トーマスは一日のうち4時間を担当し、あとの二人が10時間ずつ当直を務める。

 これは何か起きた際に手動操船できるのがトーマスだけなので、そういうシフトになった。


「それじゃ後は頼む」


 そう言い残して自分の船室に引っ込もうと席を立った時だった。

 

「航路の後方信号途絶しました。前方からの信号は届いているんで、船の故障ではなさそうです。衛星の故障ですかね?」


 それを聞いてトーマスは少し嫌な感じを受けた。

 少なくとも彼が船を飛ばしているときに、航路を指示する衛星が故障したという話は聞いたことがない。

 すぐに操作卓に戻り、いくつかの確認を行う。


「航路ネットワークのリンクが落ちてる。衛星が機能してないってのは間違いないな」


 その時、警報がけたたましく鳴り響く。


「航行シールド消失。回路がダウンしています!」


「減速開始!客に伝えろ!すぐに急減速を実施する!」


 センサーが捕らえるサイズのデブリは回避もできるが、小さなものは検知できても近距離になってからで回避はできない。

 小さかろうと、こちらはそれなりの速度で飛行している。何かに当たって船体を損傷してからでは遅い。


「急減速する!シートに間に合わないようなら何かにつかまれ!」


 トーマスは反応炉の出力を上げると同時に船体を180度回頭させる。

 タイミングを見計らって推進炉を点火。一気に1Gの減速を開始する。

 数秒間1G減速を続けたのちに、1.5Gまで推力を上昇させた。

 後ろの客室の状況がわからない以上、これ以上の減速は船の中で事故が起こる。

 進行方向に推進剤を撒いている状況なので、正面からデブリなどに衝突する確率は低いが、まずは停船させなければ。

 そう思っているところに通信が入る。


「航行中の輸送船に告ぐ。直ちに停船せよ。臨検を行う。先ほどの射撃は警告である。指示に従わなければ船体を破壊する」


「こちら輸送船フリーダムスター。何のつもりだ!こっちは手順通りに飛んでるだけだぞ?なんの権限があって臨検なんて!」


 へたくそな英語でそう言ってきたのでトーマスが応答するが、それ以上向こうは答えない。

 どのみちシールドが落ちているので、このままで航行はできない。停船させるしかないのだが。


「センサーに船を検知。識別は不明。識別コードを出していない模様」


 つまり公の手順に沿って運航されていない船であるという事だ。


「この時代に海賊船かよ」


 トーマスは通信を行う。


「こちら輸送船フリーダムスター。当船は地球に向けて、人員の移送中だ。何が欲しいのか知らないがあんたらの必要なものは積んでいない」


 オープン回線を使ったその通信に相手の船は答えなかった。


「不明船接近中。こちらのインターセプトコースで接触する模様です。どうします?」


 不安げな船員の声に、トーマスはどうするべきかを必死になって考える。

 海賊相手。逃げるべきか?いや、次は船体にダメージの出る攻撃を受ける。最大加速しても敵の射程から逃げるのに何秒かかるかわからない。

 ましてやシールドのない状態での航行はそれだけでリスクが伴う。


「何があった?トラブルか?」


 制御室の扉が開き、後ろの臨時キャビンにいるはずの男が入ってきた。


「船員以外は扉は開かないはずだ、どうやって入ってきた?!」


「この船はすでに軍の指揮下にある。俺は軍人でつまりこの船のオーナー代理ってところだ」


 トーマスの問いにその男は平然と言った。

 男は必要ならこの船の制御権をトーマスから奪うことができるのだろう。


「どこのどいつかわからんが、どうも長距離での攻撃を受けたようだ。臨検すると言っている」


「それでおとなしく減速して船を止めるのか?」


「最初の攻撃でシールドをやられている。飛行を続けるのは危険だ」


「なるほどな。ちょっと席を借りるぞ」


 そう言って空いている操作卓に座ると、何やら情報を確認し始めた。


「あー。そういう事か。ありゃロシア艦だ。ストリチナヤ級巡航艦、木星宙域から逃げたやつだな」


「どういうことだよ?!」


「木星宙域は合衆国宙軍…今は連邦軍か。外国船籍の船はとにかく一斉に拿捕だほしたんだ。その時に取り逃がしたやつだ」


「一斉拿捕?!なんでまた?いや、それは今はいい。どうすりゃいいんだ?奴らの狙いはあんたたちか??」


「多分だが、連中が欲しいのは主に食料。あとは推進剤か。いずれにせよこの船からとれるもんは全部取ろうって魂胆だろうよ」


「そうか、連中は補給が受けられていない…」


「ああ、だから足がつくのを覚悟のうえで、航路の監視があるにもかかわらず出てきたんだろうよ」


「なら、食糧を渡せば、解放されるな」


「おめでたいな。連中は飢えてるんだ。この先も飢えない保証はない。食料になりそうならなんだって食い物にするだろうよ。言ってる意味は分かるな?」


 その言葉に背筋が寒くなる。


「どのみち食料と水、推進剤を奪われれば、俺たちは詰みだ。カリストか、ガニメデに戻るにしても、その前に干からびる」


「お手上げじゃないか」


「そうでもない。積み荷は聞かれたか?」


「聞かれてないが、こっちはお宝は詰んでいないといった。人員の輸送中だと」


「半分ネタをばらしちまったのか。だが、この船を民間船だと思ってるんだよな?」


「多分な。俺ですら民間船だと思ってたからな。発信してる識別も民間のもののままだし」


「そうか。それは運がいい」


「どうしたら運が良いになるんだ?」


「連中はこの船をピザのデリバリーか何かだと思ってやがる。接触までどれくらい時間がある?」


 男の声に船員の一人が答えた。


「現状の速度で接触まで25分」


「そうか。ならドッキングまで30分くらいはあるな。ギリギリ間に合うか」


「間に合う?何が間に合うんだ。その距離で救助に来る軍艦なんてないだろ?」


「船長さん頭が悪いな。連中はこの船の鼻っ柱を折らなかった。船ごと接収するつもりだろうよ。コントロールを奪うために乗り込んでくる。

 あのクラスの船は通常は20人程度で運用している。多く乗っていても最大50人。勝算は十分あるさ」


「勝算ってまさか…」


「ああ、多分そのまさか、だ。俺たちがなんであんたに船を飛ばしてもらっていると思う?俺たちは軍人だが、船乗りじゃないからだ。わかるか?」


「海兵隊…」


「ご名答だ。最低限の装備しかないが、向こうはこっちに戦闘要員、それも専門家がいるとは思っていないだろう」


 男は余裕の笑みを浮かべる。


「わかった。どうしたらいい?」


 トーマスはそれが唯一の方法だと理解し、協力をするしかないと覚悟を決めた。


「作業のできる船外服を5着ほど都合してくれ。カーゴの貨物ブロックで荷物を取り出す。あと、乗客は俺たちだけじゃなく民間の技術者も10人ほどいる。そいつらはいったん船のキャビンに移らせたい。なに寝泊まりするわけじゃない。問題ないな?」


「ああ、問題ない」


「オーケー。んじゃ早速始めるか。っと、俺はフレッド・バーグマン。合衆国…連邦軍大尉だ。よろしくな」


「トーマスだ」


 短く告げ握手を交わし、二人はすぐに臨時客室に向かった。


 程なく、船はオートコントロールで静止した。




 トーマスはキャビンに移り民間人を貨物室の臨時キャビンから船体側へと誘導する。


「仕事の時間だ。超過勤務だがボーナスは固いぞ。野郎ども、気合を入れろ!」


 バーグマン大尉はそう叫ぶと、兵士たちにてきぱきと指示を飛ばしていく。

 すぐに5名が船外服に着替えて、臨時居住区の後方からカーゴルームへと移動していった。


「船長。カーゴ内に作業用の電源はあるか?」


「ああ、2か所ある。一か所はこの居住ブロックに接続されているから使えないが、もう一か所は使えるはずだ」


「どの程度の出力を出せる?」


「正確な定格はわからない。だが、作業用の大型アームを動かすくらいなら問題はないはずだ。ただ、融合炉の出力を上げないと」


 その言葉を聞き、大尉は少し考えてから、トーマスにもう一度聞いた。


「いまリアクターはどれくらいの稼働率だ?」


「船体のメインシステムと生命維持と姿勢制御用のプラズマ推進用、ざっくりだが出力40%のはずだ」


「ゆっくりと50%まで出力を上げてくれ。電力を少し使いたい」


「向こうからモニターされている可能性があるぞ?」


「向こうがモニターしていたとして明らかに出力が上がったとは思わんだろ。システムをまだ掌握されていないからな」


「わかった。5分で出力を10%ほど上げる」


「そうしてくれ。追って指示を出す。船長は制御室で待機しててくれ。

 おっと、これを渡しておく。部隊用の通信機だ。この船のオープンな回線で連絡するわけにはいかないからな」


 大尉が手にしていた通信機をトーマスに手渡す。

 トーマスはそれを受け取ると、制御室へと戻った。


 操作卓につくとすぐに通信機から大尉の声が聞こえてきた。


「船長。向こうの進路から船のどっち側に接舷するか予想できるか?」


 トーマスはロシア艦の進路を計算して、状況から返答する。


「まだ断言はできないが船の右舷側の可能性が高い。恐らく右のエアロックから中に入ってくるはずだ」


「そのエアロック前はそっちのキャビンから隔離はできるか?」


「ああ、緊急用の隔壁を降ろせば隔離できる」


「オーケー。その隔壁を降ろして、エアロック前と、後部キャビンの空気を抜いてくれ」


「そんなことしたら、あんたたちは?」


「大丈夫だ。全員宇宙空間での活動準備はできている。隔壁は降ろしておいて、合図を送ったら真空にしてくれ」


「了解した」


「あともう一つ。ドッキング時に制御を渡せと言われたら、すぐには渡すな。何とかしてドッキング完了まで時間を稼げ。

 アームがつながり、奴らが乗り込んでくるタイミングで制御を渡せ、ただし、接続先をD-2127回路に指定しろ」


「そんな回路は、この船にはない」


「あるんだよ。これから準備する。いいな?D-2127だぞ。間違えるな」


「わかった」


 なんのことだかわからないが、従うより他はない。

 深いグレーの流線型の船体がかなり接近してくるのが目視できる。

 トーマスは通信機を手に、大尉に伝えた。


「ドッキング開始まで10分を切っている」


「連絡ありがとうよ。心配するな。お出迎えの準備は間に合うからな」


 通信が切れる。二人の船員は恐怖で押しつぶされそうになっているようだった。


「そう緊張するな。大尉が大丈夫だと言っているんだ。後は任せよう」


 ロシア船から再び通信が入った。


「これよりドッキングし臨検を行う。船の制御を遠隔に切り替えて、こちらに渡せ」


 トーマスは一つ息を吐いてから、通信に答える。


「こちらフリーダムスター。さっきの攻撃で、回路が一部焼けている。現在船は手動制御しか聞かない。

 手動操船でドッキングする。臨検には協力する。これ以上の乱暴はやめてくれ」


 トーマスがそう告げると、一息間をおいて返事があった。


「了解した。手動でドッキングしろ。くれぐれも妙な真似はするな。照準は合わせてあるからな」


「フリーダムスター、了解」


 データ通信でロシア艦からドッキングに必要な相対位置データが送られてくる。

 トーマスはそれを確認してから、姿勢制御を始めた。位置はこの船の右舷側にロシア艦がくる形。想定通りだった。

 係留用のアームが横に広がり、フリーダムスターの上部に伸びてきた。


「相対速度、.05。クランプ確認、4、3、2、1、クランプ接続」


 ゴン。と鈍い金属音が船体に響き、わずかな振動が伝わる。


「悪くない、おとなしくしていればすぐに終わる。心配するな」


 ロシア艦からそう通信が入ると、移動用のチューブがクランプ沿いに延ばされ、右のエアロックに固定された。


「エアロックハッチのロックを解除しろ」


 トーマスはその指示に従いロックを解除すると、外から開閉が行われたことが操作卓に表示される。

 そしてロシア艦に通信を送る。


「修理中だった制御系が一部復旧した。メインに直接は接続できないが、C-2127回路経由でコントロールを譲渡できるはずだ」


「C-2127?オープンになっていないぞ?すぐに回線を開けろ」


「オープンになっていない?そんなはずは…ああ、すまん。俺の勘違いだ。Cではなく、Dの回路だ。D-2127,これが正しい」


「D-2127だな。確認した。接続する」


 思わず汗が噴き出す。

 沈黙が続く。


「いい子だ。制御をこちらに移した。乗員はその場で待機してろ」


 操作卓上は制御は移っていない。

 当然だD-2127なんて回路はそもそもこの船に存在していないのだ。

 静寂が制御室を包む。

 この時すでに、作戦は開始されていた。


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