10.孤独な星たち
2167年 7月22日
「現時点で登録完了は全人口の8割。1割が拒否ですね。予想よりも良い数字と言えます」
補佐官の言葉に大統領は答える。
「ああ、そうだな。心情的には100%の支持を得たかった…これが高望みであることはわかっていてもな」
割り切れれば楽だ。だが、割り切れないから国民が二つに割れる。
補佐官には大統領の言葉が鈍って聞こえた。
「心中お察しします。ですが、我々はこのまま進めるしかありません」
「もちろんだ。最終局面で拒否、無返答の数をどこまで圧縮できるかは希望を持ちたいところだ」
「はい。軍の状況ですが、欧州の編成は終わっております。また南米側の準備も万全です」
「各国の情勢はどうなっている?」
「はい。オセアニアは統合政府に加盟を表明済み、中東諸国は数か国が明確な反対を表明。
ですが、国民感情レベルで説得不可能なのは1か国だけで、他は国内での扇動で十分と思われます。
当面は軍事侵攻せずに内政干渉で押し続け、頃合いを見て軍事侵攻するのがいいでしょう」
「アフリカ諸国は南行けば南に行くほど反発が強いようです。北半球の事情は知ったことではないというスタンスのようですね。
またアフリカ最北端はヨーロッパに対する警戒が根強いようです。ただ、軍部には同調の動きがあるので、軍事クーデターを後押しするのが得策かと。
表立たないように現政権の中枢のみをピンポイント攻撃するのもクーデター支援としては考えられます」
「我々に同調する軍部です。クーデター成功のタイミングで、即座に統合してしまえば混乱は少ないでしょう」
「ロシア、中国は政府として機能していません。各少数勢力が権力争いの真っ最中という感じですね。治安維持の名目で制圧して問題ないでしょう」
「南米のファーストステップに当たる地域では、政府の反応はともかく、国民は圧倒的に大統領の演説を支持している状況です。
主要4か国の首都、それも政府高官を電撃的に拘束できれば、以後大きな抵抗はなくなるでしょう。以南の国は今のところ態度保留を続けています。
最南端の国は我々に対して明らかな反発を見せています」
「インドは態度の表明を保留しております。先の爆発の被害は出ておりますが、国家としては健在ですし、人口が大幅に減ったとはいえ、それでもかなりの国力を有しております。
核戦力や現代兵器も所有しているので、可能であればインドとの直接対決は避けたいところです」
次々と情勢報告がなされていく。
大統領はそれらを聞いたうえで、宣言した。
「まだ軍を動かす段階ではないな。内政干渉をすべきところにおいては情報局を中心に政府を倒す方向で動いてくれ。
態度を明らかにしていない国に関しても圧力はかけたい。
8/1に合衆国政府の統合政府への移行と、統合政府暫定樹立を宣言したいと思う。
意見があれば聞かせてほしい」
「はい。我々の最終通告と受け取られるでしょう。我々に対して先制攻撃を行うようであれば放置はできませんが、現時点でその動きはありません。
8月宣言は当初の計画通り行ってよいと考えます」
「軍は万全の態勢です。地球域の衛星等は宣言と同時に無力化の予定です。
先制攻撃は我が国には決して届かない。それを知らしめるのもありではないでしょうか。形としては反撃ですので、そのほうが世間の受けはよくなります」
「予定通り引っ越しは可能なのか?」
「はい。首都機能をサンディエゴに移管する準備は進んでおります。
ですが完全ではありませんので、先行して大統領に現地に入っていただき、副大統領はD.C.にて指揮を執っていただく形になります」
「そうか。8月宣言がD.C.からだと、格好がつかないと思っていたところだ。
そこも大丈夫そうで安心したよ。
本国の軍は8月宣言開始と同時に南米における排除作戦を開始できるように、準備を進めてくれ。
情勢は刻一刻と変わるだろう。
休む間もないとは思うが、もうしばらく超過勤務に耐えてくれ。
各人全力を尽くしてくれ」
その言葉で会議はひとまず終わった。
当然ながら、それぞれの持ち場で、それぞれの仕事が待っている。
2167年7月30日 10時過ぎ 地球標準時
「船体チェック異常なし。反応炉は起動状態で待機」
「最終確認OKだ。んじゃ、積み荷、お客さんの順で積むとしようか」
フリーダムスター3の制御室に3人の人影があった。
民間船のパイロット2名とトーマス。合計3名が出発前のチェックを終わらせたところだった。
地球側の手違いで定期輸送船の到着が遅れることになり、急遽フリーダムスターのカーゴスペースに居住空間を搭載し、臨時の人員輸送船として運行することが決まった。
その際に、トーマスは輸送船の船長として軍の依頼を受ける形で乗船することになったのだ。
ほかの2名も民間輸送船の船員だが、長距離航行の経験が乏しく、かつ使う船がフリーダムスター3だったので、トーマスに声がかかった。
想定していた形とは違ったが、最初に出る輸送船に乗れるという約束は守られた。
トーマスにしても、慣れ親しんだ船で帰るのは悪い気がしなかった。
地球までの間、退屈を持て余すよりは気分もマシだと二つ返事で引き受けたのだ。
「エンヴィの奴、生きてるかな。軍人って柄じゃないだろうに」
トーマスはポツリと漏らす。
木星を1往復半と2週間ほど前まで、付き合い自体は1年ほどのものだが、なんせ二人で過ごす時間が長かった。
軽くて、正直に言えば少し頭が軽いやつだとは思っていたが、その明るさは確かに退屈な航路の往復をも軽くしてくれていた。
相性自体は悪くない相棒だったと思う。
一応連絡は入れてみたが、コンタクトは取れなかった。軍人になって訓練中だろうと思う。メッセージだけは残した。
この船も3年ほどの付き合いだ。
そんなに長いわけじゃない。
だがこれが最後の航海だと思うと、寂しさは感じる。
このフライトを終えるとこの船は正式に軍の所属となり、軍の輸送船として飛び続けるが、その時はフリーダムスター3ではなくなることになる。
民間の船を軍が接収するなんぞ、世も末だと思う。だが、実際に世も末なのだ。それも理解している。
とりとめもなくそんなことを考えながら、チェックリストに沿って点検を続ける。
「船長、こっちもチェックOKです。荷物の搬入始めます」
「了解。進めてくれ」
船長なんて呼ばれることはなかった。この会社で船に乗り始めて4年。この船になってからは常に二人で運用するスタイルだった。
主に人件費の都合。
民間らしい考え方だが、おかげでよそよりも給料はよかった。
今となっては給料という考え方すらなくなるんだ。
正直言って複雑だ。
この先どうなるのかはわからないが、少なくとも政府の方針に従わなければ生きていくこと自体が難しい。
それは理解していた。
慣れるしかない。
「チェック終了だ。一息入れるよ。荷物の搬入終わったら、乗客の受け入れ開始まで休憩してくれ」
「了解しました」
同船する船員二人もアメリカ人だ。軍にスカウトされなかったのだろうか?国に帰ることを選択したのだろうか?
聞いてみたくはあったが、迂闊なことを口にするのもためらわれた。
狭い制御室の主制御席に座ったまま、息を吐き少し目を瞑る。
この部屋に漂う空気のにおいはいつも通り。わずかなオゾン臭を含んだものだが、それに知らない人間の臭いが混じる。
すぐに慣れることはわかってるが、それでも落ち着かない。
「こちらカリストコントロール。輸送船C7815659、応答せよ」
「こちらフリーダムスター3。カリストコントロール、どうぞ」
「最終確認だ。現在予定通り1200に出発で問題ないか?」
「現在のところ問題は生じていない。予定通り出港予定だ」
「了解した。15分後に乗船を始める。乗客は62名の予定、大半が勤務明けの軍人だ。行儀が良くない可能性があるが、その辺は臨機応変で頼む」
「お行儀の悪い方には、一人で歩いて帰ってもらう予定だ。問題はない」
「そうだな、それがいい。次は最終確認の連絡を入れる、以上だ」
「了解。最終確認を待つ」
管制との交信を終え、時刻を確認する。
最終チェックは終わっているので、船はいつでも出せる状態だった。
「まあ、のんびりと待つさ」
早く帰りたいと気は急くが、急いたところで何も変わらない。
出発時間をただ待つことにした。
「船長より乗客の皆様にご連絡します。当船はこれより出発の最終準備に入ります。ベルトの固定を確実に行ってください。
加速時の衝撃等により負傷された場合でも、誰も責任は取れません。以上」
生まれて初めての「船長のアナウンス」を終えると、それを聞いていたかのように管制から通信が入った。
「フリーダムスター、こちらカリストコントロール。出港の最終手順に入る」
「こちらフリーダムスター3。了解した。こっちはすぐにでも出港可能だ。だが、お行儀よくカウントダウンに入る。カウント同期確認。出港5分前」
「同期確認。どうする?出港はこちらで制御するか?」
「いや、この船の最後の航海だ。こちらでコントロールする」
「了解した。通常出港手順を順守してくれ。カウントダウン進行中」
ここで一度管制との通信が切れる。
「さて。すぐに出発だ。機器の最終チェックを頼む」
「了解」
二人の船員が交互にチェックリストの項目を読み上げ問題のないことを告げて行く。
「反応炉、出力上昇、出力80%。推進エンジン点火準備完了」
「了解。最終準備完了」
「こちらコントロール。船体ロックを解除する」
「船体ロック解除確認」
「フリーダムスター。出港を許可する」
「コントロール、世話になったな」
「フリーダムスター3、良い旅を」
「プラズマ推進、3秒噴射。秒速2メートルで前進」
「推進正常。加速度上昇、2m/sで前進中」
「相対距離10mなおも離脱中」
「オーケー。再度噴射10m/sまで加速」
「船体速度上昇。相対距離40m。50m。60m」
「慣性を維持したまま回頭。水平90。仰角15」
声に出しながら噴射を制御し、船体を木星のスイングバイ軌道に向けて、一度停止する。
「姿勢よし」
「推進エンジン点火5秒前、3、2、1、点火」
「点火確認。推力上昇中」
「推進エンジン40%で安定。船体加速維持」
「予定コースに乗りました」
「推進エンジン停止まで5秒、3、2、1、エンジン停止」
「エンジン停止確認」
「発進完了。20分ほどは気を抜いていいぞ」
トーマスがほかの二人に声をかける。
二人とも手動での出港は初めてだったらしい。後ろから見ていて笑い出しそうになるほど緊張が見て取れた。
ざっくりとシステムを見回して、異常は出ていない。
普段からすると積み荷が人間なこともあり、かなり丁寧な出港だったと思う。何となくだがこの船には似合わない気もした。
「まあ、そういうことがあってもいいか」
そうつぶやく。
このところ独り言が多い気がした。
出港から10分ほど経ち、一人が後ろの仮設客室を確認に行って戻ってきた。
「お客さんたちは今のところ静かですね。初めての船旅って訳じゃないようですし、落ち着いたものです」
「そうか、ご苦労さん。あと10分ほどでフライバイに向けて再加速を行う予定だ。このタイミングで酒でも飲まれたら客室は地獄になるからな。釘を刺しておくか」
そう答えたとき、操作盤を監視していたもう一人が声を上げる。
「センサーに後方から接近する艦艇を確認。衝突コースです。現在のコースだと3分ほどで接触します」
「識別信号は出しているか?」
「はい。合衆国宙軍です」
「軍の船?誰かの忘れ物でも届けに来たかな…。呼びかけてみるか」
そう言って操作盤をたたき、オープン回線で通信を試みる。
「こちら輸送船フリーダムスター3。接近中の宙軍艦、貴艦は当船の進路を妨害するコースにいる。直ちに進路を変更されたし」
呼びかけたが応答はない。
「おかしいな。何か用があるなら呼びかけてくるはずだ。からかわれているのか?それとも何か違う思惑でも…」
トーマスの頭に一瞬不吉な可能性が浮かんだ。
事故に見せかけてこの船を沈めるとか考えていないだろうな…。
「おい。座席につけ。反応炉出力上昇!、推進エンジン起動準備急げ!」
「了解」
とにかく、衝突コースは回避しなければならない。応答がない以上、即応体制を取らねば。
そう考え指示を出す。
それと同時に軍艦からの通信が入った。
「こちら合衆国宙軍第二攻撃隊所属、エンリケス少尉だ。フリーダムスター。再加速地点まで護衛につく」
「エンヴィ?」
その前日 2167年7月29日 14:30 地球標準時
「訓練課程は以上で終了です。少尉殿」
「改まらないでくれるか、ランドウッド軍曹。その何というか、落ち着かない」
「任官の伝達を行った以上、少尉は自分の上官となります。
発言を許していただけるなら、申し上げますが、これはある種の儀式であると同時に、私からお教えできる最後の内容でもあります」
「最後の内容?」
「その通りであります。軍隊という組織は自分よりも若かろうと、後任であろうと、階級により指揮系統が定められております。
それを身をもって理解していただかねばなりません」
「なるほど。理解した。軍曹、最初の命令を与える」
「はっ!」
「俺がオフの時は上官扱いしないでくれ。やっぱ仮にも年上だしさ、何より軍曹は俺が入隊してから最初の先生だと思っているんだ」
「命令には承服しかねます。ですが、善処させていただきます」
「そう。善処してくれるなら、まあ…」
ここは最前線で新兵教育を行う環境は用意されていない。
ランドウッド軍曹は、最低限の軍の規律と、現場で困らない程度の用語、最低限の近接戦闘技術は軍曹が教えてくれたので教官の一人に間違いなかった。
だが、実際のところは教官を務める士官たちとの調整役、連絡役であることが多かった。
軍隊での日常を教えてくれ、多分ではあるがあまり柄ではない鬼軍曹を演じ続けてくれたのだと思っている。
2週間、かなり密度は濃かったと思う。
操船に関しては大きく違いはない。だが、火器を扱うのだ。
心構えに始まり、交戦規定、実際の操作。これは民間船の運航では知ることのない世界だった。
つい先ほど、最終試験と称した模擬戦を終えたばかりで、一息ついたらこの通知が行われたのだ。
「一つ聞いてもいいかな。俺は入隊してまだ2週間だ。それでも今日、士官となった。
正直に言ってくれて構わない。俺は合衆国宙軍の士官としてやっていけるかな」
エンヴィの率直な今の気持ちだ。
軍曹は少し考えた様子だったが姿勢を正し、新米少尉に言った。
「ご無礼を承知で申し上げます。少尉は合衆国宙軍の士官として資質に欠ける点が多いと考えます。
ですが、今後統合政府軍士官として、多くの兵をまとめるよい士官となられると考えます」
「そうだった。合衆国の士官なのはあと数日で、そのあとは統合政府軍の士官になるんだった。
ありがとう。少し自信が持てたよ」
「恐縮であります。小官はこれで失礼いたします」
軍曹は姿勢を正し敬礼する。
エンヴィは敬礼を返す。
軍曹はそれを見て、方向を変えてから、その場を去っていった。
入れ替わるようにエンヴィが所属する小型の宇宙艇で編成される攻撃機隊の副隊長である、ホフマン少佐が歩いてきた。
「よう、新米少尉。調子はどうだ?」
思わず軽いノリで答えようとしかかったが、つい今しがたの軍曹の最後の授業を思い出し、姿勢を正して敬礼する。
「常に万全であります。少佐殿」
「うん、板についているな。軍曹はいい仕事をしたようだ。
一つ覚えておけ。公式な場じゃない、うちの戦隊内では基本無礼講だ。最低限の経緯を示せればタメ口でも誰も怒りはしない」
「はい。覚えておきます。で、任官して早々なのですが…」
「奇遇だな。俺も任官して早々で悪いな、とは思っていたんだ」
「え?」
実は明日、トーマスを載せた輸送船がカリストを立ち、地球に向かうことを知って見送りに行きたいと思っていた。
勤務時間に重なりそうなので、シフトの交代を願い出ようと思っていたのだ。
「明日の哨戒任務をお前に任せたい。飛行プランはこれに書いてある。よく目を通しておけ。
哨戒は単独飛行。推進剤の無駄遣いは厳禁だ。調子に乗ってアクロバットなんぞやったら、誰も迎えにはいかないからな。肝に銘じておけ」
そう告げられ、内心がっくりしながら少佐の手渡したパッドを確認する。
その飛行経路は、カリストを発進し、木星手前で引き返してくるもの。通常の航路を飛行するのと変わらない。
「少佐、これは…」
「相棒が地球に帰るんだってな。見送ってやれ。公式な任務は哨戒だが、護衛と言っても構わん。見栄を張ってこい」
「はいっ!ありがとうございます」
「出発は標準時1215だ。9時には隊に合流しろ。一応ブリーフィングをするからな。今日はこれで上がれ。伝達は以上だ」
そう言って少佐は敬礼する。
エンヴィも慌てて敬礼した。
少佐はそのまま向きを変えると通路奥に去っていく。
その後ろ姿を見送りながら、エンヴィは軍に入ったことが間違いじゃなかったと感じていた。
「…馬鹿野郎!なんですぐに応答しなかった!」
「あ…申し訳ない。もしかして脅かした?」
「当たり前だ!何事かと思うだろが!」
「すまん。いや、普通に応答したつもりだったんだが…回線がオープンじゃなくて軍用回線だった。脅かして悪かった」
「…お前らしいと言えばお前らしいが。にしても護衛とか言って、早々に軍を逃げ出してきたんじゃねえだろうな?」
「こいつは立派な任務なんだよ。ありがたく護衛されてろ」
そう言っている間にエンヴィの操艦する小型戦闘艇は相対速度を合わせ、右前方150mほどで並走していた。
「本当に軍人になったんだな」
「当たり前なことを言うなよ。あっという間に少尉殿だぞ?」
「すごいすごい」
「絶対馬鹿にしてるだろ?」
「そんなことはない。こうやって単独で戦闘艇を飛ばしてる姿を見れるとは思ってなかったからな」
「俺も軍機でフリーダムスターと並んで飛ぶなんて思ってもいなかったさ」
エンヴィがそう答えると、トーマスは操作卓を素早くいじって、そこにあるものを見つけた。
「やっぱ消してなかったな」
「え?何の話だ?」
エンヴィの問いかけに答えず、船のメモリに残されていた音楽のデータを再生した。
そう、エンヴィのお気に入りの曲。嫌というほど聞かされ、時に睡眠を邪魔された曲だ。
遠慮なく制御室内にガンガンに流し始める。
「お、ロンリースターブルースじゃんか。お前もこの曲の良さがわかるようになったか?」
「多分一生わからないだろうよ。だが、こうしてお前とのラストフライトにはこれ以上の曲はないだろ」
「…そうだな」
そこで会話が途切れ、ドライブ感の強いビートのブルースロックが流れ続ける。
Got grease on my fingers — got iron in my soul.
(指先は油まみれ 魂まで鉄の味がするぜ)
Pay come in nickels, Lord — my boots is wearin’ thin.
(稼ぎは小銭ばかり 靴底だけが薄くなる)
I scrub till my knuckles bleed… can’t wash you off no more,
Bar man keep a-tallyin’… while I’m sleepin’ on the floor.
(拳が裂けるほど洗っても 君の気配は落ちない
ツケ帳だけが増えていく 床で眠る夜が増えていく)
If you see my sweet woman, tell her I’m still bound.
Ain’t got no ticket in my pocket — but I’m headin’ for her town.
(もし彼女に会えたなら 俺がまだここにいるって言ってくれ
ポケットに切符はなくても 君の町へ向かってるって)
Go tell my sweet woman, if you happen ’cross her way,
I’m comin’ to her faster than a shootin’ star can blaze,
Tonight I’m still driftin’ ’neath this big black lonesome sky,
Oh— Lonely Star Blues.
(愛しい彼女に伝えてくれよ
流れ星より早く会いに行くって
今夜も一人夜空をさまよう
Oh- ロンリースターブルース)
That wire keep cracklin’ — your voice don’t wanna stay.
(通信はノイズだらけ 君の声が消えかける)
You laugh and say “You hear me?” — Lord, it cut me that-a-way.
(「聞こえる?」って笑うたび 胸の奥が軋むんだ)
Red route-lights shinin’… pretty like a lie can be,
Every time I blink, baby… you feel farther out to me.
(赤い航路灯が揺れる 嘘みたいに綺麗でさ
まばたき一つの間にも 火星のほうが近くなる)
Home ain’t steel and rivets — it’s your name I carry ’round.
When that gate light flicker… I’ll be rollin’ outbound.
(俺の帰る場所は鉄と鋲じゃない 握りしめた君の名前だ
ゲートの灯りが瞬いたら 俺はもう飛び出してる)
Go tell my sweet woman, if you happen ’cross her way,
I’m comin’ to her faster than a shootin’ star can blaze,
Tonight I’m still driftin’ ’neath this big black lonesome sky,
Oh— Lonely Star Blues.
Go tell my sweet woman, if you happen ’cross her way,
I’m comin’ to her faster than a shootin’ star can blaze,
Tonight I’m still driftin’ ’neath this big black lonesome sky,
Oh— Lonely Star Blues.
歌が終わり曲がブルースのお約束のようなエンディングに入る。
「時間か」
「ああ、時間だな」
「ここでお別れだ、エンヴィ、早死にはするなよ」
「じゃあな。トーマス。家族を大切にな」
「加速シーケンスに入る。推進エンジン点火5秒前、3、2、1、点火」
「良い旅を」
フリーダムスターは再び推進エンジンを起動し、加速し始める。エンヴィの戦闘艇の脇をすり抜け、滑るように木星へと加速を続けた。
数秒後、その姿は星の中へと消えていった。
エンヴィは少しの間、星々を眺めてから、コンソールを操作する。
「さあ、俺も基地に帰るか」
姿勢制御のプラズマを少し吐き出し、船体を180度回頭させると、小型艇は推進エンジンを点火し、カリストへの帰路に就いた。




