1.序章
二つ一組の巨大なリング状の建造物が、木星の光を浴びて鈍く輝く。
一回り大きなリングがほのかに赤く輝き始めると、そのリング内に幾条かの光が走り、リング越しに見えていた星々の輝きが消えて闇が現れた。
そこに向けてもう一つの一回り小さいリングがゆっくりと進み始める。
小さなリングは大きなリングの内側へと進み、闇に沈むように消えた。
程なく赤みを帯びたリングは元の鈍い輝きを放つと、リングの奥に星々の煌めきが蘇る。
そこには一回り小さなリングは存在していなかった。
「ゲート2コントロール。現状を報告せよ」
近くに待機していた宇宙船からの呼びかけに、こう答えてきた。
「こちらゲート2コントロール。通信状況良好。ゲート2βとのリンク良好。ゲート2β側の静止信号受信。成功したと思われます」
宇宙船の管制室に歓声が上がる。
口々に、ついにやったぞ。今度は成功した。固唾を飲んで状況を注視していた乗組員たちからそんな言葉が口々に発せられた。
司令官と思われる人物が歓声をよそに、マイク向かい話しかける。
「ゲート2コントロール。まずは第一段階はクリアだ。すぐにゲートの再起動準備に入ってくれ。観測機を向こう側に送る。解放半径は予定通り25mで頼む。
連続稼働になるから、出力の安定には十分注意してくれ」
「了解。観測機投入に向け準備を始めます。システム再起動まで約2分。カウントダウン0で観測機の射出をお願いします」
「了解した。事前の手順通り観測機を射出する」
そう言い終えると、その男は小さくつぶやいた。
「うまくいきそうだ。だが、最後まで気は抜けないな」
誰もその声を聞いてはいなかったが、乗組員たちは仕事の手を止めてはいなかった。
そう、成功が本当に確認されるまでは、まだ喜べない。
一同はすぐに緊張感に満ちた空間でそれぞれの持ち場で作業を続けていた。
西暦2154年。人類は外宇宙へと続く扉を手に入れた。
4年前の初号機の失敗を踏まえ、2番目のゲートがはるか遠くへと一瞬で移動する道を作ったのだ。
国際協調という言葉が意味をなさない時代に、アメリカ合衆国はほかには真似できない技術を完成させた。
原理は直接干渉を及ぼさない上位次元に接続する穴を開け、紙を折り曲げるようにその次元の空間を畳み、最後に出口を開ける。
こうすることで数光年の物理的距離をほぼ0に圧縮するという技術の結晶がゲートである。
膨大なエネルギーが必要で、かつ周囲への影響や重力などの干渉を防ぐ目的で、木星軌道の外側にゲートは設置された。
失敗に終わった最初のゲートと違い、このゲートは安定稼働した。
最初にこのゲートを通過した船の乗組員たちはそこにαケンタウリの光を見ることになる。
こうして、アメリカ合衆国による、他星系の調査及び資源探査が始められる。
時代が一歩前進した瞬間だった。
2156年、第3ゲートがバーナード星系に接続。以降、4番目のゲートがラランド21185へ。
5番目のゲート、6番目のゲートがそれぞれエプシロン・エリダニ、ロス128へと接続された。
順調にゲートは開かれ、異世界とも思えるほど遠い地域の探査開発が進んでいった。
2167年、第7のゲートが接続されることになる。
それは人類の行く末を大きく左右する禁断の扉となることをまだ誰も知らない。




