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夜の水、水の神

作者: 52
掲載日:2026/02/01

靖国通り沿い、ミスター・ドーナツの行列を横目に左へ曲がる。

区役所通りから、さらに左、左の方へ。

何度か折れながらホテル街を抜け、大久保公園。

ひと回りして、歌舞伎町へ。


年に何度か歩くコースだ。


昨日は歩かなかった。

夕食後、妙に眠くなって少し横になったせいか、

夜中の3時近くまで寝付けなかった。

学術的なことはわからないが、

自分の感覚では「眠り」と「歩く」はかなり密接だ。

寝不足のまま歩くと、やけに疲れる。


歌舞伎町で最初に通るのは、

今は「シネシティ広場」と呼ばれている場所。

だがオヤジの自分には、やっぱり「噴水池広場」だ。


若い頃、飲んで帰れなくなり、

この辺りをフラフラしたことが何度もある。

今とは違って、終電後の歌舞伎町に女の子の姿は少なく、


タクシーで帰ろうとしているのだろう女の子に、

有象無象の男たちが次から次へと声をかけていた。

ものすごく嫌な顔で無視して歩いていく。

そんな光景を、なぜかよく憶えている。


シネシティ広場付近では、

10人ほどの集まりをよく見かける。


ホームレスほど汚れてはいないが、

キャンプ椅子を持ち込んで座る者、

地べたに直に座る者、

立ったままの者。

年齢も、若いのから、少し髪の薄くなったのまで。

男女の区別もない。


不思議な集団だ。


これが、俗に言う「トー横キッズ」なのか。

……いやいやいや。w

最近増えた歌舞伎町を訪れる外国人には、

彼らはどう映っているのだろう。


自分の目的地は、そこではない。


新宿東宝ビルを左に曲がり、

まだシャッターの閉まっている通りを抜け、

1、2度折れると、そこにある。


「歌舞伎町弁財天」。


この辺りといえば花園神社が有名だが、

自分はこちらの方が好きだ。

雑多な歓楽街の中に、ぽっかりと空いた異空間。


水の神である弁天様が、

この場所にいるのは「水商売」の水つながりなのか。

それとも「弁財天」の“財”のほうなのか。


日本最大の歓楽街と呼ばれる場所だ。

そう考えれば、ここにあって然るべき存在なのかもしれない。


境内に入ると、

左側、隣接する風俗店らしきビルの壁に虎の絵。

右側、シャッターには龍の絵が描かれている。


弁財天に、虎と龍。

水にまつわる龍はわかるが、虎は……んんん?

同じ水墨画風で、向き合うように描かれた龍虎。


後から誰かが描いた落書きだろう、

とは思うが確信はない。

特に調べる気もない。

まあ、そんな距離感だ。


歌舞伎町という場所柄、治安への配慮だろう。

賽銭箱は石造りだ。

右側に、ちんまりと弁天様が鎮座している。


その台座の周りには、

コーヒーやビールの空き缶。

どう見ても供え物ではない。

罰当たりめ、と思いつつ、少し笑う。


奥に祠があるが、

1メートル半ほど高い位置にあり、

赤い鉄の扉で閉ざされている。

なので、石の賽銭箱の前で静かに挨拶。

長居はせず、その場を離れた。


そういえば、伊勢丹の屋上にも弁天様がいるらしい。

だが、そちらへ行くことはない。


貧乏なオヤジには、伊勢丹は少し敷居が高い。

行ったのは、数年前に一度きりだ。


甥っ子に子どもが生まれ、

お祝いに伊勢丹の商品券を、奮発して3万円分送った。

子どころか、嫁もいない。

親戚づきあいも少ない自分が、

その3万円に、どこか意味を求めていたのかもしれない。

たかが3万円、されど3万円だ。


後日、甥っ子からメールが来た。

お礼とともに、

「一ヶ月になりました」という写真。


「可愛い服でも買ってあげて」


「そうします」


ほとんど会うことのない、出来のいい甥っ子。

おじさんの見栄なんて、この程度だ。


話がそれた。


歌舞伎町弁財天を後にして、帰路につく。

西口のガードをくぐり、

初台手前を左へ。

代々木公園の横を歩き、

井の頭通りで渋谷へ向かう。


この辺りで、

「宇田川出世弁財天」に寄るかどうか迷う。


……いや、今日はやめておこう。

少し疲れている。


オヤジに、無理は禁物だ。





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