夜の水、水の神
靖国通り沿い、ミスター・ドーナツの行列を横目に左へ曲がる。
区役所通りから、さらに左、左の方へ。
何度か折れながらホテル街を抜け、大久保公園。
ひと回りして、歌舞伎町へ。
年に何度か歩くコースだ。
昨日は歩かなかった。
夕食後、妙に眠くなって少し横になったせいか、
夜中の3時近くまで寝付けなかった。
学術的なことはわからないが、
自分の感覚では「眠り」と「歩く」はかなり密接だ。
寝不足のまま歩くと、やけに疲れる。
歌舞伎町で最初に通るのは、
今は「シネシティ広場」と呼ばれている場所。
だがオヤジの自分には、やっぱり「噴水池広場」だ。
若い頃、飲んで帰れなくなり、
この辺りをフラフラしたことが何度もある。
今とは違って、終電後の歌舞伎町に女の子の姿は少なく、
タクシーで帰ろうとしているのだろう女の子に、
有象無象の男たちが次から次へと声をかけていた。
ものすごく嫌な顔で無視して歩いていく。
そんな光景を、なぜかよく憶えている。
シネシティ広場付近では、
10人ほどの集まりをよく見かける。
ホームレスほど汚れてはいないが、
キャンプ椅子を持ち込んで座る者、
地べたに直に座る者、
立ったままの者。
年齢も、若いのから、少し髪の薄くなったのまで。
男女の区別もない。
不思議な集団だ。
これが、俗に言う「トー横キッズ」なのか。
……いやいやいや。w
最近増えた歌舞伎町を訪れる外国人には、
彼らはどう映っているのだろう。
自分の目的地は、そこではない。
新宿東宝ビルを左に曲がり、
まだシャッターの閉まっている通りを抜け、
1、2度折れると、そこにある。
「歌舞伎町弁財天」。
この辺りといえば花園神社が有名だが、
自分はこちらの方が好きだ。
雑多な歓楽街の中に、ぽっかりと空いた異空間。
水の神である弁天様が、
この場所にいるのは「水商売」の水つながりなのか。
それとも「弁財天」の“財”のほうなのか。
日本最大の歓楽街と呼ばれる場所だ。
そう考えれば、ここにあって然るべき存在なのかもしれない。
境内に入ると、
左側、隣接する風俗店らしきビルの壁に虎の絵。
右側、シャッターには龍の絵が描かれている。
弁財天に、虎と龍。
水にまつわる龍はわかるが、虎は……んんん?
同じ水墨画風で、向き合うように描かれた龍虎。
後から誰かが描いた落書きだろう、
とは思うが確信はない。
特に調べる気もない。
まあ、そんな距離感だ。
歌舞伎町という場所柄、治安への配慮だろう。
賽銭箱は石造りだ。
右側に、ちんまりと弁天様が鎮座している。
その台座の周りには、
コーヒーやビールの空き缶。
どう見ても供え物ではない。
罰当たりめ、と思いつつ、少し笑う。
奥に祠があるが、
1メートル半ほど高い位置にあり、
赤い鉄の扉で閉ざされている。
なので、石の賽銭箱の前で静かに挨拶。
長居はせず、その場を離れた。
そういえば、伊勢丹の屋上にも弁天様がいるらしい。
だが、そちらへ行くことはない。
貧乏なオヤジには、伊勢丹は少し敷居が高い。
行ったのは、数年前に一度きりだ。
甥っ子に子どもが生まれ、
お祝いに伊勢丹の商品券を、奮発して3万円分送った。
子どころか、嫁もいない。
親戚づきあいも少ない自分が、
その3万円に、どこか意味を求めていたのかもしれない。
たかが3万円、されど3万円だ。
後日、甥っ子からメールが来た。
お礼とともに、
「一ヶ月になりました」という写真。
「可愛い服でも買ってあげて」
「そうします」
ほとんど会うことのない、出来のいい甥っ子。
おじさんの見栄なんて、この程度だ。
話がそれた。
歌舞伎町弁財天を後にして、帰路につく。
西口のガードをくぐり、
初台手前を左へ。
代々木公園の横を歩き、
井の頭通りで渋谷へ向かう。
この辺りで、
「宇田川出世弁財天」に寄るかどうか迷う。
……いや、今日はやめておこう。
少し疲れている。
オヤジに、無理は禁物だ。




