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双子の姉、ローナ


 ガタガタと揺れる馬車。そして、何でも話しなさい!と言わんばかりのお嬢様。あの、ここまで気を遣って貰うほどの事じゃないかもです……。お嬢様は座って、外では見ないニコーッとした笑みを私に浮かべてます。可愛い。


「えっと、ですね」

「はい」

「最近、妹と話す時間が無くて……」

「なる……ほど」

「何といいますか、それで……ですね」


 眉をひそめ、もう既に申し訳なさそうな顔をしているお嬢様。いや、忙しいのはそうなんですけど!違うんです!本題はそこじゃないんです!

 

「ずっとダフネと過ごしてきました。でも、関わり方がこれでよかったのかな……って」

「そうねぇ……」


 顎に手をやるお嬢様。生まれた時からずっと一緒でした。実家の商いが上手くいってた時も、潰れてひもじくなっていた時も。そして、ミモザ様に拾われてからもそうです。私が勢いで引っ張って、ダフネが後ろを付いてきてくれる。そうやって、私たちは毎日を生きてきたんです。

 でも、私だけがよかったのかも。不安になったのは生活が忙しくなった上に、部門も変わってしまったから。勿論、夜には毎日話してますけど……。明らかに、関わりが減りました。


「一緒だったのが、ダフネのためになっていたのかって思ってしまいまして」

「……貴女はどう考えてるの?ダフネと一緒だったというのを」

「私は、何度も助けられてきました。ダフネがいなければ、きっと死んでいたと思います……」


 ダフネは凄い子なんです。私が何も考えずに飛び出して、本当に危ないところは止めてくれる。私が適当なことを思いついて、それをどう実現するか一緒に考えてくれる。私も同じように考えるけど、いつもダフネが大事なところは見つけてくれていました。


「ローナとしてはよかったけど、ダフネとしてはどうだったのか……といった感じかしら?」

「はい……仰る通りです」

「なるほどねぇ」

「すいません、贅沢な悩みですよね……」

「いいのよ。一緒に悩ませて頂戴」

「ありがとうございます……」


 正直、贅沢な話だと思います。そもそも過去の話ですもん。今を生きられてる、お嬢様の部下として居られてるならそれでいいじゃないか。とも思うんですけど……これが最良だったのかな、なんて。お嬢様に失礼ですよね、これは。


「そうね……。昔の事を聞いても大丈夫?」

「大丈夫です」

「助かるわ。……前提として、何が一番ダフネにとってよかったと思う?」

「ダフネは読書が好きで、一人で考えるのも好きです。だから、もっと私の居ない自由な時間をあげればよかったのかも」

「……少し時間の整理をしましょうか。今はミモザに拾われる前のお話?それとも後?」

「前です」

「ふむ……話を切ってしまったわね。続けて」


 商いを学んで、何か思いついたことをやる。今考えると、結構変なことばっかりしていました。木の棒を尖らせて槍として売ろうとしたり……。貧民街で宝探しとか、これはダフネに止められましたけど。そう思えば、凄まじく危険な事ばっかりやってました。


「危険に巻き込んだのも一度や二度ではありません。ダフネの本を汚したりもしてしまって……」


 子どもの頃、ダフネが父に貰った本がありました。はい、よだれのシミを付けたのは私です。こっそり借りて読もうとして、途中で寝ちゃったんですよね……。後でダフネにしっかり怒られました。反省してます。お母さんには呆れられちゃいました。


「姉として、酷かったと思います」

「……気持ちは、少しわかるわ」

「そうなんですか……?」

「私にも兄妹が居たのよ」

「……?」


 お嬢様は妹でしたよね?ヒュー様が兄で、お嬢様は二人目。ダフネの気持ちの方が分かるんじゃないですか……?お嬢様は時々、不思議な事をいいますね。居たというのも何か、こう。ご存命ですよね?


「あ……ダフネの気持ちが少しわかるって話よ。兄上に長く会って無いお陰で、変な言い方になってしまったわ」

「……珍しいです」

「ミモザには言わないで頂戴……また怒られるわ」

「勿論です……!」


 困った様にへにゃっと笑うお嬢様。少し情けないような感じでも、美しくて気品がある。私が思わず少し笑ってしまうと、困ったな……と言わんばかりに目を逸らすお嬢様。外では絶対に見られない、私達だけが見られる顔。やっぱり、綺麗で可愛いです。


「本題に戻りましょうか……。妹として思うのは、関わらないとそもそも何も無いって事」

「何もない……ですか?」

「えぇ。兄上とは十年近く会ってないのよ、だから幼い時分以上の思い出が無い」

「そう、なんですか……?」

「今の姿も知らないのよ、お互いにね」


 それは、何とも恐ろしいことのように思えました。兄妹なのに、他人みたいじゃないですか。でも、昔の思い出はあるんですよね?


「昔はどうでしたか……?」

「昔?結構話してはいたけど、ずっと遊ぶとかでは無いのよね」

「なるほど……」

「あぁいや、全く遊んでない訳じゃないわよ?」

「そうなんですか?」

「兄上はチャラックがお気に入りだったわ。ルークの使い方が兄上は上手くてねぇ」


 チャラックですか。あれはダフネの方が強くて、やる度ボコボコにされるんですよね……。楽しいのは楽しいんですけど。姉さんは賭けの一手が多過ぎるってよくダフネに言われます。でも、そっちの方が面白いでしょ……?


「ダフネもチャラックが好きですよ?」

「そうよね、偶に私と打ってるわ」

「そうなんですか!?」


 知らなかったです。いや、私もお嬢様と色々お話するので当然なんですけど。今聞くと何かダメですね。よく分からないんですけど、心が暗くなっちゃいます。


「結構、部下の皆はチャラック好きでね……。まぁ強いのよ」

「お嬢様は強いんですか?」

「一番弱いわ」

「えぇ!?」

「何となく知ってるけど、一部だけ違うってのが一番下手になるのよね……」


 口を尖らせながらさらっと言うお嬢様。普段、信じられないほど凄いのに。意外と繋がらないものなんですね……。そもそも、余り勝敗を気にされてない感じがします。


「ミモザが一番強いわ」

「それは、そんな気がします……」

「よねぇ。ウィザードの使い方が上手いのよ、ミモザは」

「そうなんですか……」


 私はクイーン頼りになる悪癖があります……。やっぱりミモザ様は強いんですね。言われてみれば、たまにダフネが話してたような気がします。あんまり覚えてないですけど。


「……また話が逸れたわ」

「えっと、確か」

「思い出ね。関われば思い出は出来るって言い切る事は簡単。でも、正しいかどうかは分からない」

「なるほど……?」

「難しいわよね。そうね……貴女はダフネに自分を好きか、聞ける?」

「聞けます!」


 勿論です。何て言われても、私はダフネの事が大好きですから。ずっと一緒で、自慢の妹。貧しくなっても、忙しくても。それは変わらない。


「……素晴らしいわね。それが信頼だと、私は思っている」

「これが、信頼?」

「えぇ。積み重ねてきた時間、行動。月並みだけど、一緒に過ごした事実が何よりも強い信頼を成り立たせる」

「一緒に過ごした事実……」

「共有した時間も事実。言うならば、信頼は二人が同じ時間に生きている実感を持つ事なのかもしれないわね」

「そう、なんでしょうか?」

「不安や疑念は避けられないわ。でも、心の底から貴女が悩めばダフネに話すし、ダフネが悩めば貴女に話す。違う?」

「違いません」


 お互いに分からなくても、絶対に話すと思う。例え、綺麗な答えが出てこなかったとしても。一緒に出した答えだったら、きっと後悔はしないから。あ、そうか。


「……気付いたかしら?」

「ダフネも、きっと一緒なんですね?」

「その答えを私は知らない。でも、貴女は聞けるでしょう?」

「……はい!」

「ま、これは私の考えで正解じゃないわ。その先は、二人で考えなさい」

「そうします!!」


 お嬢様は凄いです!私のふわっとした悩みも、綺麗に解決してくれました!暖かい目で見てくるお嬢様。私も嬉しくなって笑ってしまいます。さっきの演説も、今の悩みもなんで解決出来るんでしょうか。本当に凄いです。


「お嬢様!」

「ん?」

「なんで、こんなに解るんでしょうか?」


 私が何となく聞いた瞬間、お嬢様はハッと吹き出した。何か、面白かったでしょうか?よく分かりません!


「……私もいっぱい悩んでるから、かしらね」

「そうなんですか?」

「えぇ、毎日悩んでばかりよ」

「見えないです!」

「正直ねぇ。見えたら、皆が不安になるでしょう?」

「確かに」

「でしょう?だから……」

「でも、それはお嬢様が困ってるからです」

「そうね?」

「お嬢様のお悩みは、私たち部下の悩みでもあります」

「そんな事は……」

「あるんです」


 お嬢様は真面目で、凄い。しかも、この若さで。何でもできるように見せてます。皆、お嬢様は色々出来ないのに完璧なんじゃないかって思ってるはず。でもそれは、凄まじい努力とずっと回していた思考の上にあるんだ。

 でも、やっぱり完璧じゃない。あの異端に喉を焼かれて、演説終わりには咳込んでいる。少し前、お嬢様に聞かれたことを思い出した。


「少し前、お嬢様は私たちに問いかけました。自分が死んだらどうする?って」

「聞いたわね」

「私は変わらず仕事をします、って言いました」

「後、泣いちゃうって言ってたわね。さっきも……涙もろいのね」

「……からかわないで下さい!」


 真面目に話してるんですよ!冗談よ、と手をひらひらさせながらふふ……と笑うお嬢様。でも、泣いちゃうのは本当です。さっきも、少し……いや、かなり泣いちゃいそうになってました。


「それは、お嬢様が作ったものを、守る為です」

「……ほう」

「今は皆、笑ってます。忙しくても、大変でも。お嬢様のお陰です」

「そうなのかしらね……?」

「はい。お嬢様が死んでしまっても、作ったものは消えませんから」

「苦悩と、どう関係が……?」

「悩みを知らないと、どう守っていいか分かりません」

「……なるほど、確かに」

「だから、私たちの悩みなんです」


 もっと頼って欲しいし、教えて欲しい。色々良くなってるのは分かりますけど、どう良くなっているのかを全部知るのはお嬢様しかいないんです。ただでさえ忙しいのに、私たちみたいな分からない人に教えるのは負担なのかもしれない。でも。


「難しい話よ?」

「知ってます」

「面倒よ?」

「当然です」

「暗いわよ?」

「お嬢様、私たちは頑張って目指しますから。同じ景色を見られるように」

「本気?」

「ここに来る前から、ずっと本気です」

「……はは」


 お嬢様の綺麗な瞳を真っすぐに見る。しばらくすると、お嬢様が大きく笑った。しかも、嬉しそうに。伝わったでしょうか、私たちの本気は。


「伝わりましたか?」

「……また、先生に怒られちゃうわ」

「そうなんですか?」

「そうなのよ。ま、追々話すわ。ギルドの件が片付いたら色々余裕が出るでしょうし」

「お願いします!」

「ふわっとしてる内容を固めるために、相談があるんだものねぇ」

「そうですね!」

「貴女もしっかり、ダフネと話してきなさい」

「勿論です!」


 その後も少しだけ、とりとめのない話を続けました。暗くなった空、明るい空気。気がつけば、馬車は屋敷に到着していました。ガタガタとした揺れが、止まります。


「さ、帰りましょう」

「はい!」


 私が扉を開けて、外に出ようとします。しっかり話し込んだせいか、疲れちゃいました。お嬢様もお疲れなのに、色々聞いて貰って申し訳ない気持ちが……。


「ね、ローナ」

「なんでしょう?」

「貴女のような臣下を居る事を、誇りに思うわ」

「……えっ!?」


 バッと後ろを向きます。星に照らされながら、静かに私を見るお嬢様がいました。真剣な顔、無言なのにお嬢様の思いが伝わってきます。今日見た中で、一番美しいお嬢様がそこに居ました。


「さ、帰りましょう。ほら」

「えっ、えぇ……?」


 お嬢様、それはズルいです……!ほら、と急かされてそのまま外に出てしまう私。また振り返って見ると、そこにはいつも通りの薄い笑みを浮かべたお嬢様がいました。


────お嬢様は、私を見てくれているんですね。


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