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次はギルド、また会議


「仕事が多いよ……多過ぎるよ……」


 またまたまた馬車の中で、誰にも聞こえないからと愚痴を漏らす。教会が片付いたから、体感楽になると思ったのに……。

 今度はギルド切り崩しの為に、市場や金融、経済で色々やる事が激増してます。めんどくせぇ~。統制経済敷いちゃダメ?成長が死ぬ?管理が無理?そうですね……。やればいいんでしょ、やれば。


「首の傷、実家に怒られるわよねぇ」


 ちょくちょく引き攣ってウザい首の傷、ぶっちゃけ私が舐めプして出来た奴。予想よりも大事になってます。なんで?別にあんま見えない顎の下と首ですよね?

 絶世の美少女とか柄じゃないし、実家の嫁入りサブプランを壊せるしいいか~位の気持ちだったんです。結果として屋敷の皆は教会に殺気立ち、民衆に至っては石を投げそうなレベルに反感高まってるって言う。

 ちな教育の話を教会に持ち込んだ日、先生の様子は普通だったんですけど……。後でさ、アイヴィー泣かすなって、冒険者のダリアからお気持ち手紙貰ったって話もあって。泣いたの!?って私もビックリだよ。


「嫌われ過ぎでしょ……」


 しかも、直衛は私を守れなかった無能って言説が、銃兵や常備軍の一部から湧いてるらしくて……。直衛の皆も真面目だから、ヤバい目で修練やってるらしい。ちな直衛も含めた屋敷の皆、私の前では憤怒や憎悪やヤバい目を一つも出しません。めんどくせ~。誰に似たんだか。

 これで直衛解雇して、教会取り潰したら私の努力が水泡行き。誰が私を守って、街の文化的支柱やるんだ。いずれ不必要になる教会ですけどね。まだ科学無き世界、神は必要なんですよ。ほんと。


「今日は高炉視察……か」


 窓から外を見る。木々に暖かな緑が映えていた。少しだけ春が近づいた、そう感じられる景色。まぁ、高炉と試作コークス炉の煙で割と台無しなんですけどね。あ、街の外です今日は。

 公務は多いが、街の外には色々あって出にくい私。まぁ流石に炉の視察、労いとかやらないとだからね。後、近所だからマシってのもある。働くってのは辛いからね、私はしっかり前世でそれを味わったから……。 今はもっと大変なんですけどねまぁ。


「はぁ」


 溜息だって出ます。命の危機は脱したものの、暗殺とは違う方面で気が休まらないというか。民衆や部下から気を遣われると、その分疲れるタイプなんですよ私は。貴族で公爵家だからマシとは言え、別に疲れるのは疲れるの。

 とか考えながら馬車に揺られていると、工場っぽい風景が目に入ってくる。高炉、私が抱えてる工房、外れにある酒場含めて工場町みたいになってますね。都市計画も考えないと……。うぐ。

 しばらくして、馬車が止まった。着いたか。扉が開けられるのを待っていると、キィィと誰かに開かれた。


「到着しました」

「えぇ、行きましょう」


 開かれた扉の先にはロブ、いつもの感じですね。腰を上げて、外へ出る。目に入って来たのは、煙を上げる高炉と木工場、鍛冶場、石工場。てんこ盛りですね。カンカンシャリシャリ加工の音が聞こえてきます。

 全く来てない訳じゃないけど、最近は来れて無かったからね。書類上で大きくなったのは知ってても、目の当たりにするとやっぱり違うわ。


「お嬢様!お待ちしておりました!」

「ご苦労様、ローナ」


 カツカツ言わせて馬車の階段を降りていると、声を掛けられた。ミモザの部下にして、内務補佐のローナですね。いずれミモザの役割を担って貰うんで頑張って欲しいところ。

 内務も前まで、ミモザと私が全部やってたんですよ。私働き過ぎ問題、ミモザの老いもあって内務の再編を前にやりまして。ざっくりミモザをトップにして、ローナが行政、ダフネが屋敷担当的な感じになってるはず。多分これで合ってる、多分。


「準備は?」

「炉長、鉄工長、木工長、石工長、皆さんお揃いです」

「よろしい。案内よろしく」

「はい!こちらです」


 元気よく返事を返してきたローナに連れられ、工場を歩く。シリッサ土着の手工業ギルドとはまた違った空気感。まぁ、私の道楽や試験施設みたいな感じで運営してるから、のびのびやってるんですよね皆。こう言っとかないと、直ぐ既得権益に抵触してギルドと揉めるからね、仕方ないね。技術者や職人を集めるの大変だったんだよほんと。


「調子は?」

「私ですか?」

「えぇ」

「忙しいですけど、元気です!」

「それは良かった。悩み事も大丈夫?」

「そうですね……」


 歩きながらローナと話す。前を歩く彼女の、赤い髪がゆらゆら揺れる。結構色々背負わせてる自覚はあるんで、悩みとかあったら聞いときたいんだけど。相談されないにしても、こういうのは聞くのに意味があるんです。ちょくちょく聞いてれば、いつか一回ぐらいは本音を出してくれると思う。多少ウザくても、えぇ。


「仕事と生活、一つずついいですか?」

「えぇ、勿論」

「ありがとうございます。仕事なんですが……人が足りないです」

「そうねぇ……それは私も同意見なのよ」

「文官、難しいですか?」

「手は尽くしてるけど、中間層が一番難しいの」


 人が足りないのは非常にそう。私も文句言いたい。幹部層と新人はいるんですけど、中間層が一番少ないんです。機密扱えるレベルの信頼、ある程度の実務能力が担保の幹部層。実務出来るけど信頼無し、信頼あるけど実務がおざなりの新人層。無理くり新人を上げても、潰れるか漏れるからなぁ。過渡期のベンチャー企業みたいで嫌になりますね。


「そう、ですよね」

「今の新人層が形になれば、少しは楽になるはず」

「ですね……」

「取り敢えず、ミモザや先生と話してみるわ。少しだけでも、負担が減らせるように努力するわ」

「ありがとうございます!」

「無下にはしない。吉報を待っていて」

「はい!」


 どうしようかねぇ。まぁ後で考えよ、どちらにせよ避けては通れない話題だ。さて、生活のお悩みはなんでしょうかね。私的には、仕事よりも生活のお悩み相談してた方が楽しいんだけど。


「あ、着いてしまいました」

「会議後に聞くわ、覚えておいて」

「はい!」


 会議や商談で使っているであろう堅牢な建物、その扉の前へと辿り着いた。聞きたかったなぁ、生活のお悩み。後で聞けるからまだいいか。

 ローナが扉を開き、ロブとデレクが無言で先に入る。さて、行くかぁ。私も続いて建物の中へ入った。


「「「「領主様!お疲れ様です!」」」」


 声でか。野太い男の声に、響く女の声も混ざっている。元気があってよろしい。計四人の男女が、椅子の横に立って私へ頭を下げていた。


「ご苦労様。座りなさい」


 全員が座ったのを見届けて、私も椅子へと座る。長机の上座、扱いに慣れてる自分。教会は静かでしたけど、こっちはやっぱ皆強そうっすね。ぶん殴られたら普通に死にそう。私。あーだこーだ言ってるから、いつか殴られそうな気もしなくも無いんですよね。こわ。


「生産量や成長に関しては書面で見てるわ。よくやってくれてる。今回来たのは半分労い、半分相談ね」

「ありがとうございます。それで、相談と言うのは?」


 鉄工長のアーヴィンが詳しく聞いてくる。元流れの職人で、顔に傷のある茶髪で厳ついおっさんです。優しいかと言われると知らないですけど、縦の関係はしっかり守るタイプっすね。助かる。


「考え、悩み、提案。何でもいいわ、貴方達の考えと私の考えの擦り合わせね」

「なるほど」

「何でも良いのであれば、リードラル卿へ私的な質問をしてもよろしいので?」


 色ボケかお前は。ふざけた事を言うのは木工長のジェフリー。若いをちょっと超えた辺りの男で、灰髪で緩い顔、女好きそうな感じ。こいつはフェロークから引っ張ってきました。態度は微妙だけど、アイデアと技術はしっかり凄いのよね。じゃなきゃ拾ってないか。

 冗談言うのは私的にはいいんですけど、直衛とローナの空気がピリつくんでやめてね。重苦しくなるんで……。ジェフリーが私にこんな口聞くのも、距離感や寛容さをまだ探ってるからだろうし。


「そういうのは宴席で、今じゃないわ」

「宴席ならよろしいので?」

「内容次第かしらねぇ……。一応言っておくと私、一途な男の方が好きなの」

「そうでしたか……非常に残念です」


 適当にあしらいますよこんなの。んで、遊びすぎるなよって釘を刺しますと。こっちはその辺含めて把握してますよ。でも冗談レベルってのを伝えとけばいいかな。

 案の定、ジェフリーは頭かいてますね。でも表情は楽しそう、めんどこいつ。取り敢えずローナと直衛の溜飲も下がったかな。こんなんでキレてたら、よくある高慢貴族と思われますからね。まぁ線引きはあるけど。


「で、どうかしら?」

「では私から。よろしいですかな?」


 手を挙げたのは優しそうな感じで白髪の目立つ、初老手前の男。石工長のハドリーです、彼は耐火レンガの件で私の傘下に入りまして……。身辺調査は白、彼自身今の石工ギルドは好きじゃないって明言してたしまぁ味方ですね。

 ハドリーは一応周りを見回すが、誰も何も言わないのを見ると口を開いた。


「今後の増設計画についてお伺いしても?」

「高炉は据え置き、コークス炉は増、後は石工ギルドに投げるわ」

「よろしいのですか?」

「えぇ、仕方ないもの」


 受注を石工ギルドに投げれば、向こうが潤うってのはそうなんですけど。下手に藪をつつくと、都市全体の工事や計画が止まるから……。こっちの方が教会よりも支持率、民意にクリティカルなんですよね。


「動く時期は計ってる。これで伝わるかしら?」

「承知いたしました。でしたら構いません」


 動くタイミングは常に伺ってるってので、一旦勘弁して頂ければと思います。既存ギルドは親方が腐敗と搾取に溺れてるとは言え、一気に引き抜くには準備が必要なんです。港湾の元締めギャングから先に潰したろうか……。でもアレ、ゴミ掃除なのよね。制圧やるには武力、武力増強には生産、生産を高めるために改革、改革するために支持が要る。全部ですね、南無。


「次、何かある?」

「では、アタシからいいですか?」

「えぇ、構わないわ」


 次に声を挙げてくれたのは炉長。くすんだ金髪に勝気な顔、妙齢の女の方ですね。名前はザラ、魔法使いにして冒険者上がりの人です。火入れや土関連もやってくれます。先生が引っ張って来ました、流石っすね。身辺も白、よかったよかった。


「……その前に一つよろしいですか?」

「いいわよ」

「ジェフリーお前、余り領主様に舐めた口利くな。『火よ、放たれよ』」

「あっちぃ!」


 ジェフリーの方を向いたザラは、隣りに立て掛けてあった杖で小さな火を彼に放つ。それと同時に、ロブとイリルが私を庇いに動いた。私ごと椅子が引かれ、二人が前に出る。火は無事に、彼の手に着弾した。熱そ~。

 てか、カバーが手厚すぎて怖いんですけど。前ならここまで直衛が動かなかったはず。安全を確認すると、二人はまた戻っていった。過保護!工場の四人もビビってるし。安心させるために、四人へと手を軽く振る。


「……悪かった。反省してるよ」

「アタシにじゃないでしょ」

「……大変失礼いたしました、領主様」

「謝罪を受け入れましょう。冗談なのは理解してるわ」

「ありがとうございます」


 ハドリー、アーヴィンのおじさん二人組は頭抱えてますね。そらそう。ま、本当に気にしてないんでいいよ。他の貴族の前でやったらどうなるか分かんないけど。


「で、本題は?」

「はい!」


 勢いよく返事をするザラ。そして発された一言が、否応なくこの場の緊張感を引き上げた。


「ギルドはいつ、潰すんですか!?」


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