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誰が悪い?

────聖女派蜂起、同日夜。


 私は目を閉じたまま、目覚めた。背中側のどっしり感、上側の毛布。ベッドの上か、私は。

 大聖堂で事件が起こり、私は首をバーベキューみたいに焼かれてしまった。死ぬかと思った。ほんとに。

 それでフィグラスに治療されながら、私は意識を失った訳だ。多分。寝てたってことはそうなんでしょ、知らないけど。


「んん……」


 疲れた。二度寝するかと意識を飛ばそうにも、一度回り始めた頭が止まってくれない。ベッドの上で無駄にモゾモゾするも、眠くなし。疲れだけが残る最悪のパターン。

 一日にあっていい情報量じゃないわ。礼拝、異端審問、扇動、蜂起。どうなってるんだ……。ま、私が蒔いた種といえばそうなんで何とも。

 

「……夜か」


 目を開くと、月光と星空が映った。いい景色なんだけどね、事件のせいで複雑だ。てか、ここどこなの。搬送先なのは間違いないけど。


「……ヒェ!」

「お嬢様……」


 身体を左に捩じり、逆側を見た。そこに座っていたのはロブであった。ぱっと見で分かるぐらいに顔が死んでるわ。それもそうか、三年前の感謝が伏線になっちゃったもんね。何なら直前の決意もフラグになったし。恐ろしいね、リアルってのは。


「酷い顔ね」

「お嬢様も……その」


 ロブは私の首を見る。あ~残っちゃった感じ?触って見ると、膨らんだ感じにピリピリとした感覚。鏡見るのが怖いやこれ。

 

「名誉の負傷よ。気に負うことは無いわ」

「ですが……!」

「まぁ、ねぇ。しょうがないの」

「……我々が。いや、私が悪いんです」


 下を向いてしまったロブの声はとてつもなく暗い。初めて聞くわ、この暗さ。別に死んで無いんだから、上々だと思うんだけどね。でも、気にするよなぁ。私がロブなら絶対気にするもん。どうしよっかな。


「全力だったでしょ?」

「……それは、勿論です」

「なら、しょうがないじゃない」


 偶然とはいえ、条件は揃っていた。壁際の直衛、クレアに接近した私。そして本人の暴発。部下が勝手に暴れるとか、参列者が帰った後の暴発は見てたけどさ。あの司祭が衆目の中で私に手を出すのは、正直予想外だった。三年間、私にクソみたいな態度取ってた割に、民衆には真摯だったからな。ぶっちゃけ、追い込んだのは私。


「やれた事は、あったはず」

「危険に身を晒したのは私、違う?」

「ですが」

「あの一瞬でどう守るのよ」

「それは……」


 自責あるあるの無茶な仮定。私を守れなかった後悔から来てる分、私がどうこう言うのもアレな気がする。でもねぇ、私自身が直衛に対して怒ってないからなぁ。

 出来る限りこっちから手を出させないようにしてたし、演説の時に護衛を間近へ立たせるのはちょっと。イメージと威厳的にめちゃめちゃ弱くなるのよね。後、普通に失礼。クレアでさえ護衛立たせてなかったし、余計ね。


「色々重なっちゃったから。仕方ないわ」

「それでも」


 まだ言葉を重ねようとするロブ。こりゃダメだ。他四人も同じぐらいの落ち込み様なんだろうなぁ。どうにも気が滅入るな……。


「ねぇロブ」

「……はい」

「他四人は?」

「別室に」

「呼んで」

「……承知いたしました」


 私が命令を下すと、ロブは部屋の扉へと向かった。そして扉を半開きにすると、外に向かって声を上げる。お目覚めになられたぞ!皆をお呼びだ!と、私の起き抜けイヤーに響く声。大丈夫なの、そんな大声出して。

 木が軋む音が少しだけ聞こえ、やがて四人が部屋に入って来た。私を寝かすからって急造されたであろう病室は、五人揃っても広々としている。若干寒い。

 

「「「「失礼いたします」」」」

「ん、ご苦労様」


 ひっどい顔だ。全員。私の葬式みたいになってますけど、生きてるからね?

 五人揃って私の横に立ち、何も言わずに留まっている。どうしようかね。


「反省会、しましょうか。私が首を焼かれた原因は?」

「我々の怠慢です」


 デレクが間髪入れずに答える。いや、自責するのはいいんですけど。生産性の無い自責はちょっと。


「当時の状況を整理しましょうか、まず。後、その感じで来られると反省にならないわ」

「……失礼いたしました」


 デレクが謝る。やりにくい。余りにも。ま、続けよう。整理するのは大事だし。


「状況は異端審問後。私が聖卓の前で話してた時、皆の配置は?」

「勝手口側、壁際です」


 主観の入らない話をしよう。その意図でロブへと会話を投げる。流石に主観は入らないよね。うんうん。


「はい。で、私の所まで何秒かかる?」

「……十数秒です」

「クレアが私を捕まえるまでの時間は?」

「数秒です」


 まぁ無理でしょ。十秒はデカいよ。私がご都合魔法かフィジカルを持っていたら、そりゃ余裕でしたけど。何もないからね、家柄以外カス!

 そう考えると私、貧弱過ぎない?まぁちびで可愛い令嬢ちゃんですからね。今や首輪がついちゃって、いよいよペットだよ。は~あ。

 

「軍人として答えて。無傷で私を守るのは可能?」

「…………不可能です」

「その場合、誰の責任?」


 ロブは答えない。私が他の四人を見ても、同様に答えない。暗い上に何とも言えない顔で私を見返すのみ。なら、言ってあげましょう。


「言えないわよね。責任は、指示を出した指揮官にある」

「違います」


 イリルが真顔で言う。違わない。私は自身の身体や生命を危険に晒した、それも政治の為に。だから、悪いのは私。保ちたかった指導者のイメージ。そして、クレアの暴走を見誤り過ぎた。愚かだねぇ。


「……貴君らの忠誠に背いたのは、私だ」

「違います!」


 同時に五人から発された声が、まるで一人の声のように重なって聞こえた。こんなに皆を不甲斐なくさせたのは、どうやっても私以外いないんだよね。


「心から謝るわ。不甲斐ない主人でごめんなさいね」

「それを言うなら……我々は、怠惰な兵士です」

「ね。私達は、まだまだなのよ。こう言うと、怒られちゃうかしら」

「とんでもございません」


 ロブが心痛そうに言い、皆が頷く。駄目ね、これ。どこまで行っても暗くなるわ。

 一度、皆から視線を外して窓の外を見る。綺麗な星空、何度見ても飽きないわ。結構救われてるのよね、この空に。皮肉過ぎるか。よし!明るい話しよう!


「言っても、悪い事ばっかりじゃないわ」

「本当ですか?」


 今度はシーラが食い気味に答える。心なしか、顔が近い。てか、皆なんか近いね。数年前見たく、また潰されるの私?やめてね~冗談にならないからね~。


「私は今回、幾つか大きい利を得たわ」


 私は指を三本立てる。多分こんくらいでしょ。


「一つ。教会への大きい貸し」

「それは、当然ですね」


 モーリスが自分の顎を人差し指と親指で挟みながら言う。でしょ。


「単純に大問題。私に対しての蜂起、しかも完全に向こうが悪い」

「数年単位で、強く出られると?」


 ロブが真面目に言う。まぁ、外れては無いけど。ちょっと違うわ。強く出られるのはおまけ。


「それもあるけど。一番は……私がシリッサの教会を掌握しても、中央は強く出られないこと」

「そうなんですか?」


 イリルがシンプルに問いかけてくる。大義があるのよこっちには、一番大事な奴。このために教会で、クレアの問答にわざわざ応じてやったんだ。何も無ければ暗殺してた説はある。身内もビビっちゃうからやんないけど。


「教会の治安維持。大規模な介入も、これで言い訳が効くのよ」

「なるほど……」

「だから、教会が取ってる税に介入してやるわ。こっちの資金注ぎ込んで、依存させてやる」

「……流石です」


 ビビり過ぎじゃない?まだ一つ目ですけど。教会の十分の一税、ウチの雛型銀行経由で受け取るようにしてやろ。そもそもクレアのお陰で教会は赤字だし、私側で立て直したら依存するでしょ。


「二つ、大衆の支持」

「間違いないかと」


 デレクが深く頷く。何ならこれが一番大きいかもしれない。悲劇の令嬢、正義の統治者。私のイメージが恐らくこの一件で、かなり強固になった。粛清が、やりやすくなる。一度固まった正義は、大抵のことで揺らがない。


「民衆が改革の痛みに耐えるには、正しい事をしている自覚が要るの」

「それを、今回で得たと?」

「えぇ、素晴らしい成果。ギルド潰しも、港湾の掌握も格段にやり易くなる」

「……」


 軍人の皆に話しても仕方ないんですけどね。悪い事ばっかりじゃないってのは知って欲しいからね、仕方ない。


「ま、ここまでは予想通り」

「……確かに、一部は聞いておりましたが」

「それで、最後」


 ロブが頭を掻きながら言う。全部想定通りなら、ここまでだったというか。偶然の産物が一個だけある。


「この傷よ」


 私は顎を上げ、首を指差した。調子乗った罰ですね、南無三。直衛の皆の顔が、また少し暗くなる。


「未婚の長女が顔に火傷。首と下顎だけとは言え、酷いものでしょ」

「それは……」


 正直、本当に気にしてない。男と結婚とか全然嫌だし、むしろ清々してる。てか嫁入りしたら、統治とか絶対にやれないし。いや、統治をやりたい訳じゃないんだけど。こう、なんというか。人生、生きる意味を失いそうなんだよね。ぶっちゃけ今でさえ、やけっぱちになってないと言えば嘘になるし。


「だからこそ、象徴になる」

「…………?」


 伝わりにくいよね。ごめんなさいね。


「不完全は時に親しみを生む。後、威厳もね。矛盾しているようで、意外と成り立つのよ」

「ですが……」

「全ての何かに価値はある。人間の頭じゃ、見つけられないだけで」


 そう言ってないと普通に萎えちゃうからね。実際、色々考えてみればこれだけ利益が出てるし。そも私は美しく在る事に、そこまで価値を見出してないから……。


「……ありがとうございます。お嬢様」


 ロブが言うと共に、全員が敬礼を向けてくる。内容がややこしかったとは言え、励まそうとしてるのは伝わったか。よかった。


「皆は私の命を守った。いい仕事よ」


 しばらく私と皆が見つめ合う時間になる。五対一だからめちゃめちゃ圧。こわ。熱気強いし。でも、やっぱり頼りになるのよねぇ。

 よし。私も起きたし、直衛とも話せたし。次にやる事。いや、私がやりたい事か。


「……クレアはどうしてる?」


 直衛の顔が強張る。仇みたいなものだし、それもそうか。


「牢に捕らえております」

「扱いは?」

「教会からは破門。民としては反逆者です」

「処刑は?」

「明朝と聞いておりますが……」

「手続きが早いわねぇ」

「当然かと」


 なんかもう伝わって来たわ。ボルテージの高さ、怒りの強さが。ハイペースにも程があるんだよね。まぁ罪状的には残当なんだけどさ。


「よし。行こうか」

「どちらへ……?御身体はまだ」

「寝てたら会えなくなっちゃうもの」

「……まさか」


 冗談だろ?と言わんばかりのロブ。他の皆も露骨に行きたく無さそう。はい。でも行きます。


「クレアに会うわ。馬の準備、お願いね」

「……承知いたしました」


 このまま、何も話さず殺しちゃうのは勿体ない。というか、一回ぐらいちゃんと話したいし。流石に本音とか聞けるでしょ、多分。


「これで最後ね。本当に」


─────夜空には変わらず、幾つもの星が瞬いていた。


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傷が残っちゃったか。まだ若いのに
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