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星の知らせ


 今日も今日とて、朝から執務室でダラダラ書類捌き。年中無休で一挙手一投足が仕事。字面だけ見れば、究極のブラック企業……。ちな裁量は全部私。余計怖いね。

 でも悪い所ばっかりじゃないんです。休憩は好きな時間に取れるし、お茶とかお菓子も出てくるし。部下の皆も、私を信じてくれてるし。最近は、マジで私が適当なこと言っても信じそうで怖いけど。


「盲信されるのが一番困るのよ……」


 書類にサインを書き込みながらも独り言は止まらない。いや、外にはちょくちょく出てるんですけど。最低限の付き合いだけだからな……。てか、統治関連でやることが多すぎるって話で。

 三年かけて色々進めました。でも近代化は未だ遠い。このペースだと、上手くいって二十代後半とかにまぁ形になるかってとこ。上手くいけば。ま、疫病は教会のお陰で、前の近世よりかはマシ。飢饉と災害は……輪栽式と官僚制でどこまで対応できるかね。現代でもぶっちゃけ厳しいんだから、近世なら終わりだよ。


「考えるのや~めよ!」


 仕組みは作る。それでよし。他領から知識層吸い取ってるし、少しずつ文官の層は厚くなりつつある。てかフェロークに知識層が滞留してたのがデカい。彼らは自由で、頭を活かせる場所を求めていた。

 私はアイディアはあるけど、詳細が弱い。向こうはアイディアを形にするのが上手い。私個人で高炉、輪栽式農法、官僚制、複式簿記その他を全部やるとか無理ですからね。工学、数学、農学、商学、余りにも求められる学が多すぎる。公爵家令嬢として一通りは抑えてるけど、専門家には勝てない。誰がシリッサ周辺の気候、土質、種の選定を知ってるのかって話なんですよ。私には無理。


「優秀ならやれるんだろうけどねぇ」


 出来ない出来ない、しょうがない。神になるなって言われたもんね。別に、転生したからって神になるとかないし。生まれ以外何もないぞマジで。いや、なんか貰ってるかもしれないけどさ。まぁ身分チートではあるか……。

 クソどうでもいいことを考えていたら、扉がノックされた。誰だ?


「入りなさい」

「……失礼致します」


 入って来たのは大柄の男。銀色の鎧を黒のマントで包み、頭には泣いた顔をした兜を被っている。はい、“泣き顔”の方ですね。実は、フェロアオイの諜報ネットワークをちょっとだけ借りておりまして……。まぁ、密書の輸送係みたいになってるけど……。両親に感謝っすね。金も出してくれるし。ま、向こうにも思惑はめちゃめちゃあるだろうけど。


「ご苦労様、用事は?」

「こちらです」


 差し出されたのは教会印で封をされている、一枚の手紙だった。あぁ、中央教会からか。受け取って、ナイフで適当に開ける。書かれていた内容は……はぁ、来ちゃった。

 内容はシンプルに、異端審問官を派遣するって話。つまり、クレア司教の要請を通したって事。ということは、彼女を失脚させる舞台が整ったって事になりますね?


「ねぇ」

「はい」

「両親は何て?」


 男が僅かに驚いた、ように思えた。よく訓練されてる密偵だから、ちょっとしか分かんないのよね。名前も知らないし。


「……」

「言えないならいいわ」

「……奥方様からは、後始末はしっかりやりなさい。と」

「母上らしいわね」


 後始末ねぇ。聖女派は旗印を失って、やがて消失するでしょう。フィグラスと解体の段取りも話しとかないとな……。なんだかんだ"星彩"を使えるのは、高位聖職者かつ結構な信仰がいるって話なんすよ。クソ祈禱ですからね。間違いない。

 フィグラスとは私優位の協力関係にあるし、他の教典派は利益と拡大にしっかり踊らされてくれてるから助かる。向こうは利益が入るし、私は福祉基盤が手に入る。う~ん、ウィンウィン!


「当主様からは、容赦は不要。と」

「言われずとも」


 流石父上。法務卿やってるだけあるわ。教会法と王国大法の折り合いが全然悪くて、中央の聖女派とは仲良くないからな。敵の敵は味方理論、貴族側に食い込みたい教典派とは仲いいって話で。

 聖女が動かないのも、枢機卿が抑えてくれてる部分が大きい。あの辺は結構ややこしくて……。


「万事恙無く。両親にそう、伝えておいて」

「……承知いたしました」


 深く一礼して、部屋を去る男。それを見送ってから、部屋の鏡に向けて手招きをする。直衛の私見守りマジックミラーシステムも移植済みです。便利でよろしい。流石にずっと同室されるのは気まずいし、向こうも大変なんでね。


「お嬢様。お呼びですか」

「えぇ」


 今日はシーラか。色々会議しなきゃならないことが出来ちゃったよ。とりあえず、全員集めるか。当直の誰かはいいや、後で共有してもらえば。


「交替のタイミング……昼過ぎでいいわ。当直以外、ここに全員集めて」

「了解です」

「よろしく」


 そのまま部屋を出ていくシーラ。軍系は後で会議だな。ミモザに教会の話をもう一回……。もうしばらくでお茶淹れに来るか。それまで書類やっとこ。

 静かになった部屋、再び私のペンがカリカリ音を立てる。十九にやらせる職務じゃないっすよ、しかも女ですからね。


「……これは」


 しばらく捌いていると出て来たのは、コークス炉作成の許可確認。いけそうか、よかった。高炉操業やってるのはいいけど、今後を考えたらマジで木炭からコークスにシフトする必要が……。森が無くなっちゃうよ。


「当然許可……と」


 他は目立たない決裁、承認、収支報告書とかっすね。少しずつ数字はマシになってるけど、借金考えるとまぁ綱渡り。ま、領地経営で黒字出し続ける方が変だし……。黒字分だけで投資するってのは、こう、改革方面だと死ぬんですよね。動きが遅すぎて。


「お嬢様。よろしいですか?」


 ……ノックに気付かなかったわ。来るのちょっと早くない?まぁ丁度いいんだけど。


「入って」

「失礼致します」


 入って来たのはミモザ。双子はいない。察しがいい、流石。


「察した?」

「泣き顔の姿が見えましたので」


 私の方へと近づいてくるミモザを眺めながら、何から話していいか悩んでいる。いつもの奴ですね。教会関連の前提から擦り合わせるか。


「……異端審問官の派遣、確定したわ」

「時期はいつに?」

「再来週」

「なるほど」


 まぁまぁの時間というか、順当って感じ。着いてすぐ審問に入るって感じだろうなぁ、滞在すると政治に惑わされるとか言いそう。最初から私側の審問官なんですけどね、まぁ。正直、クレアとしっかり話されるのはあんまり良くないし、むしろ助かる。


「ま、向こうの政治が終わったんでしょ」

「その辺りは何と?」

「陽座と話は付いてるって。表向きは私が貧者救済の善行やってて、司教が“星彩”使用の教会法違反だから」

「裏はどのように?」

「教会の教えをベースにした基礎教育計画が、お気に召したみたい」 

「よろしいので?」

「最初は教会の文化が必要になるし、いいのよ」


 それ以外にも粛清時に回収した聖遺物とか出してますけどね……。ま、傷口は浅い。向こうの過失がデカすぎるからこの程度で済んだってのはある。

 まず聖女派自体も一枚岩じゃないし、聖女が三人いるからね。陽座、星座、月座の三人。因みに頂点は教皇ですね。威光を持つ聖女、実権を持つ枢機卿団、教えの主たる教皇。なんかそんな感じだったと思います。


「今の中央教会はどのような形なのです?」

「あんまり詳しくないけど……。枢機卿側が優勢のはず、七大と組んでるし」

「聖下の方はどうなっておりますか?」

「ミモザの方が詳しいんじゃない?」

「もう関わっておりませんので……特に中央は」

「そうねぇ……」


 正直私もよく知らないと言えばそう。王都に顔出してないっすからね、シリッサに来てからは特に。興味ないし、今は。


「ご存じなければ構いませんので」

「また聞いておくわ、言われてみると気になるわね」

「ありがとうございます」


 そっか、現在の話を当然ミモザは知らないんだった。ちょっと掘り下げてみるか、時には昔の話を。


「ミモザが居た頃はどうだったの?」

「一言で言えば……“混迷”でした」

「ほう?」

「神学論争全盛の中、教皇が空位となり、当然争いに」

「今の聖下が、教皇になる前?」

「その通りです」

「どれだけ酷かったの?」

「祈っている最中に、敵対派が雷や炎の祈禱を投げ込んでくるのが普通でしたね」

「嘘でしょ……」


 そう考えると、結構弱体化したって気がするな……。流石に今は王都も落ち着いてるし。多分。教会と七大の対立がヤバかった頃かなぁ。


「しかし、今の貧者救済や神学が花開いた時期でもあるのです」

「ほんと皮肉なことに、闘争は進化を生むのよねぇ……」

「仰る通り。効率的な炊き出し、孤児院運営が誕生したのもこの辺りです」

「聖下はどうやって教皇に?」

「詳しくは存じませんが……。七大と枢機卿団の融和で生まれたらしく」

「御祖父さんも関わってるんだろうなぁ……」

「実際、先代様は枢機卿団との融和に努めておりました」

「なるほどねぇ……」


 御祖父さんは結構ガチの信徒だったってのは聞いてるけど、そうだったのねぇ。じゃあアレか、父上はその頃のコネを使ってるって感じなのかな。公爵家になってくるとコネが多すぎて出所が分からんのが多いって話もあるんですよ。


「それで、どうされます?」


 ミモザが問いかけてくる。あ、そっか。本題めちゃめちゃ忘れてたわ。昔話聞くの、転生する前から好きなんだよね。人の歴史は被らないから。

 まぁ過去の話、多分何度か聞いてるんですけどね。毎度嫌な顔一つせずに話してくれるから助かる。今聞くと、余計に実感を持って理解できますね。嬉しくないことに。


「多分、礼拝に被されてるはず。じゃないと正当性が弱くなる」


 ペラペラとメモを捲るミモザ。私も何となくメモを捲る。あ、書いてたわ。やっぱり礼拝に被ってる。


「……礼拝ですね」

「こっちにも書いてたわ」

「そうでしたか」


 ジト目が痛い。把握してないというか、こう、そういう日もあるんですよ。直近で必要ないから紙に残してるって話で。


「なので、聖句や作法含めて思い出しておきたいわ。時間取れる?」

「勿論です。予定を擦り合わせても?」

「まだ時間はあるし、やりましょう」


 こういうの思い出しとかないと、本番で大変なことになりますからね。公の礼拝だし、住民も集まる会になる。ここでミスったら求心力ガタ落ち、何なら教典派との関係にヒビが入っちゃうからね。

 さて、行事の準備はこれでよし。後は、警備や戦闘の準備しないとなぁ。やること多すぎて嫌になっちゃう。まぁ、やるんですけど。


──────信仰か、怪物か。決着の時が来る。

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