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話せる事、話せない事


 陽の射す中庭、凍る双子、無言のミモザ。そして、溜息を吐く私。聞いといてそれは酷くない……?と、まぁそうかの二つが心に渦を巻く。

 傘を身体に立て掛け、ぼーっと空を見上げる。三年前からの既定路線だったけど、動き出すと虚しいものだ。水面下の争いは凄かった分、余計ね。


「……お嬢様」

「何かしら?」

「仰られたのは……消そうかどうか悩んでいる、でしたか?」


 ダフネがおずおずと問いかけてくる。その段階だったら、話してないかな……。全部始まっちゃったから、悩んでるのよ。


「違うわ。消すから、って言ったの」

「追放って、ことですか?」


 今度はローナが問う。手、震えてるわよ。追放だけで済めばどれだけ楽だったか……。無理だったからこうなっちゃったんですよ。

 正直な所感としては、ミモザが私に何でか星を見ている様に、クレアは何かを私に見ちゃったんでしょ。これだから信仰者って奴は……。


「それも違う」

「……」


 ミモザは静かに私を、無言で見続けている。ただ、何も感じさせない真顔で。流石にヤバかったら全力で止めるでしょ。分かんないけど。

 冷たい風が吹き、薄紫の長髪が後ろに流れた。私は表情が三人に見えないよう、日傘を前に傾ける。……流石に、早かったか?今更過ぎるけど。


「正直、私もやりたくないの」

「では、なぜ」


 ダフネが真っ当な疑問を投げてくる。とりあえず、丸く収める方向にシフトするかぁ。

 ここまでビビられるとは、正直思わなかった。まだ序の口なんですけど……。ミスミス、私のミス。そういう日もあるよね。


「司教は、私を殺す気だから仕方ないのよ」

「どうして!?」


 ローナが心底驚いた声で言う。なんでなんでしょうね、初めて会った日から虚空扱い。どうなってんだ。

 あの司教、民衆にはしっかりいい顔してるから困る。初日の失礼と、裏で異端審問官を呼んでなきゃスルーだったでしょうね。私じゃなきゃ普通に殺されるわ。


「何故か、会った瞬間から異端扱いでねぇ……」

「"星彩"なぞに頼り、常識外なら異端。心底、愚かな話です」


 ミモザの表情は変わらないが、ムッとしてるのは声色から伝わる。祈禱も魔法もズルいわねぇ。前世の知識がある分、私が一番ズルいのはそうなんだけど。

 祈祷は詳しくないけど、絶対ロクでもないのは間違いないね。私を異端扱いって全く。教会行事はしっかり参加してるぞ、貴族だからね。


「"星彩"ですか……」


 ダフネが考えるように、小さく言った。


「前提として……セントロー公会議以降、"星彩"での異端判定は教会法違反ですので」

「前に言ってたわね」

「はい」


 ミモザのかんたん教会法解説を聞きながら、顎に手を当てて何ともなく考える。

 教会法は専門外だからなぁ。王国大法なら分かるんですけど。フェロアオイ家は代々当主が法務卿をやってるのだ。私も当然、あの適当な法を覚えている。王権対貴族対教会の中で生まれた地獄法。これが三権分立……?


「無論、他にも色々理由はある。でもね」

「お嬢様……」


 ローナも整理しきれてないんだろう、息をつくように声が漏れた。


「神敵と言われてしまえば、争う以外に道は無い。残念だけど」


 終わらせに掛かる私、沈黙する双子。分かって頂けましたか?どうやっても対立しか無いってのが。交渉しようとはしたんですよ、ほんとに。まぁ躱されましたよね、社交辞令でしかない会話を延々と巡るっていう。


「そう、だったんですね」

「教えて頂き、申し訳ございません」

「いいのよ。聞いて貰って気が楽になったわ」

「……よかったです!」


 謝ってくるダフネに少し嬉しそうなローナ。ま、これぐらい話しておけば信用してる感は出る。んで、情報を絞ってる感じは出ないはず。実際、異端の話は結構な機密ですし。

 本音で話すってのは、こういう意味で危険でもある。人間は本質的に、理解できないものに恐怖を抱く。だから内容を絞っても仕方ないですよね?


「……そろそろ戻りなさい。貴女達も風邪を引いてしまうわ」

「はい!」

「承知しました」


 双子の返答を聞く。元気でよろしい、私はもう少しここでぼんやりしてようかね。


「私は少し残ります。二人は全体の作業進捗を確認し、後で報告を」


 綺麗な礼で答える双子を尻目に、ミモザの様子を見る。その雰囲気は、どこか寂しそうに見えた。


「……あの、お嬢様!」

「?」

「私達、何があっても信じてますから!」

「姉の言う通り、信じております」

「その信頼、覚えておくわ」


 何となく察しちゃったかなぁ。別に信用してない訳じゃないのよ。だた、今の貴女達には重すぎるかなって。物事には順序があるのよ。発端は私のせい?はい……すみませんでした。

 私のレベルが高いとかの話じゃないんだけどね。ただ、分からない。どこまで話していいのか、何が不味いのか。これは前世からの膨大な失敗から、パターンを生み出してるに過ぎない。不安定になるとすぐ忘れるし。

 双子は屋敷に戻り、私とミモザだけが残る。私は言葉もなく、しばらくボーっとしていた。ミモザはそんな私を、静かに見ていた。


「……駄目でしたか」

「恐れは裏切りの種。まだ、受け止められないと判断しちゃった」

「左様で」

「ごめんなさいね。余計な事を」

「後で調整しますので、問題ございません」


 肩を少しだけ落としているミモザに、謝る私。ほんと頼りになるなぁ。私になってから、こういうのは減ったはずなんだけどね。まだまだ十九の子どもだし、仕方ないのか。


「三年も掛かったわ」

「三年しか、掛かってないのです」

「どうだか……」

「目まぐるしく、街は変革を遂げております」

「ほぼ変わってないわよ」


 蒸気機関はどうか知らないけど、産業化に何年掛かるかって話なのよね。未来の景色を知っているが故に、この程度出来て当然だと思ってしまう悪癖は治らず。だから、呆れた顔で見ないで頂戴。


「しかし、解せない事が」

「ん?」

「なぜ、教会に三年も掛けたのです?正当性を持っていながら、どうして」

「あ~、そうよね」


 なんて説明しようかなぁ。色々関係しまくってて難しいぞ。てか、やっぱり気になるか。正直、武力使えば一瞬だし。異端審問官も初期の段階で掌握してたから、正当性も申し分ない。なぜ寝かしたのか。


「殉教者になるのを回避する為。というのは理解できますが、それ以上は」

「大きな理由ね、それも」


 そこが分かってるのは流石というか、信仰者なだけあるわ。目に見えて強権的な動きは、激しく敵対層を生む。それはあらゆる改革の邪魔になるし、資源の浪費を発生させる。

 私が人気のあった司教をいきなり異端扱いして、処刑する。異端審問官と枢機卿のお墨付きがあるとはいえ、これまで救われていた層は私に怒りを持つだろう。共通の怒りは、反乱勢力を生む。んで面倒ごとが倍増。終わりです。


「後、幾つか理由があってねぇ」

「教えて頂けますか?」

「えぇ、勿論。二つ目は炊き出しを質で潰したから」

「救貧事業ですか」

「あれも、私が慈悲だけに目覚めた訳じゃないって事」


 ミモザは内務もやってるから察したみたい。二年ほど前からインフラ人員を一部、救貧事業へと向かわせていた。外壁修復、掃除、炊き出し、職業紹介と色々手を出していたのだ。理由は単純、教会やギャングの力を削ぎ、治安をマシにする為。労働力は徹底的に吸い上げ、教会よりも質の高い福祉で権威を喰う。


「突然、大鍋を作ると言い出したのも?」

「高炉で鉄は増えたし、象徴が欲しかったから」

「なるほど……」

「それに、輪栽式の試作品を流せたのも丁度良かった」

「農法ですか」

「そうそう。市場に出すにはまだ実験段階だったし……」

「そこまで、考えて」

「これぐらい普通でしょ」


 感心するミモザに突っ込む。まぁこれぐらい考えてないと、統治なんてやってらんないですからね。影響のバランスを取り続けるってのが、非常に大切なんですよ。


「最後は、教会の離間が通ったからね」

「離間工作を?」

「別に特段、何かした訳じゃないわ」

「では一体……?」

「教会行事、真面目に出てるでしょ」

「シリッサに来られてから、そうですね」

「ミモザなら分かるでしょ?教会で発言力を上げる方法」

「あの出納は、そういう事でしたか」

「そ」


 教会行事に参加して、聖遺物の奉納や寄付を継続する。やっぱり金だな!貧者救済に手を貸したい私、でもクレアに渋られる私。それを見てしまう教典派の皆さん。

 後、見えやすい位置で聖女派の聖職者に嫌な態度を取られたりしてました。クレアはその辺分別があるけど、周りは違うからね。ちょっと煽ったら所構わず怒ってくれる、ありがてぇ。


「分断はどうやって?」

「聖女派の正当性を削いで、利で教典派を取り込んだって感じ」


 んで発言力を高めつつ、教典派と聖女派を分断させると。そうすると、バラけてた教典派も纏まりますと。共通の敵にしたからね、お互いを。フィグラスが私と組んだのも、下から突き上げられたってのが大いにある。大変っすね。

 え、財源?鉄と都市銀行になりつつある公庫のお陰で、少しマシになりました。実家からそれなりに借りてるけど、まだ大丈夫。確か。


「そして、粛清に踏み切ったのは……」

「全部、終わったから。後は中央にクレアを異端扱いさせて、消せばいい」


 ミモザでさえ唖然とするのか……。これぐらいやってまぁ、ギリ及第点かなって感じでしょ。教典派に内部は纏めさせて、貧者救済は共同でやれば不満も少ない。何より、教会と費用を折半出来るからね。

 後、基礎教育にも切り込めるし。一番これがデカいかもしれない。ま、利用価値は非常に高いって話です。上手くいけばいいね、本当に。


「これは、あの子達には聞かせられないかと……」

「あ、やっぱり?」

「正しいと、受容できるかはまた違った話ですので」

「これでも一番慈悲深い道だと思うんだけどねぇ」

「それは……」


 中途半端な慈悲が、統治の崩壊を招く。あの双子達も、それを分かってくれる日が来るのかね。ミモザでさえこの有様だし。


「……話が逸れたわ」

「結局、何にお悩みだったのですか?」

「そうねぇ……」

 

 何だったかな。クレアを消すってなって、面倒だな~って。まぁ結局、悩みとして言うなら。


「人生、ままならないなって」

「まだ十九でしょうに」

「それもそうかぁ……」


 再び、空を眺める。その瞬間、少しだけ傾いた日が私の目を焼いた。眩しっ!


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