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双子問答


 翌日、私は中庭でぼんやりと考え事をしていた。わざわざ厚着して、日の当たる場所に椅子を置いて座ってます。執務室で考え事するって気分じゃないのよね。

 考え事は一つ、教会の件。フィグラスを取り込んだ。つまり、クレアは潰さなきゃならなくなった。妨害や嫌がらせはしてたけど、内々の話だったからね。外部に計画を話した段階で、もう終わりです。


「やだなぁ」


 別に嫌いじゃないんだけどなぁ。貧者救済の意識高いし、こっそり祈禱を使うぐらいには抜け目もない。今回は運が悪かったというか……私が変な背景持ち過ぎなんですよね。転生者読みで祈禱外してくるとか無理でしょ。しかも、私の見た目はちんまい令嬢だし。不気味欲張りセット!


「……風邪を引かれますよ?」

「日の光が何とかしてくれるでしょ」

「……はぁ」


 視界の右奥からミモザの声が聞こえたけど、日光を正面から浴びてるせいで見え辛い。手でひさしを作るも、やっぱ見え難いわ。ま、いっか。


「どうぞ!」

「あらどうも」


 適当に返してぼんやりしていると、ミモザとは別の声が聞こえた。同じタイミングで目の前にニュッと手が出てくる、なんかシュールね。その手には日傘が。受け取って、傘を差す。


「……どうしたの、三人で」

「お嬢様が珍しく、中庭に居られましたので」


 日傘を差すと、ようやく周りが見えた。何となく声を掛けると、これまた落ち着く感じの声が、別から返ってきた。

 右奥にはミモザが立っていて、横には新顔が一人。濃い青の髪に薄い赤目の若い女性。はい、デカめの身長が羨ましい、ダフネです。私を見ております、じろっと。今返答して来たのは彼女ね。


「わざわざ三人で?」

「はい!」

「そう、元気でよろしい……」

「ありがとうございます!」


 んでさっきから元気な声で返してくるのが……。赤髪に薄い碧眼、こっちも若い女性。身長は私よりちょっと大きいぐらい、親近感の湧くローナですね。ニコニコ私を見ております。

 一年程前かな、ミモザが育成枠で昇進させた双子です。姉がローナ、妹がダフネ。まぁ、任せてる業務量とか含めると若くて双子がいいのかなぁ。曰く、先を考えると最低二人が必要との事。見込まれてんな~私。


「で、用事は?」

「ダフネの言う通り、珍しく中庭に居られましたので」

「確かに、寒空の下だものねぇ」


 ぼんやりと空を見る。傘のお陰かほぼ見えねぇな。ま、わざわざ冬の空で日向ぼっこする奴も変っちゃ変か。特段理由もないのにね。間違いない。


「御身体に障ります」

「風邪でも大事になっちゃいます!」


 二人にやんわりと窘められる。まぁそう、風邪ひいたら色々止まっちゃうし、医療的にもちゃんとヤバいからね。祈祷も万能じゃないし……。てか、教会に駆け込むとか無理だし、この情勢で。


「ま、その内戻るわ」

「……左様で」

「お嬢様は何をされていたのですか?」

「そうねぇ。悩み事」


 何となく聞かれて、何となく返す。今後やることは何となく決まってるけど、実際にやるのか~ってなるとちょっと悩んじゃうのよ。どうにもねぇ。司教も手落ちはあるし、ポンコツ寄りだけど悪って訳じゃないってのが悩ましいよね。


「二人を下げましょうか?」

「居ていいわ。中枢に入れる予定なんでしょ?」

「仰る通りですが……」


 渋るミモザ。双子はすっかり真面目な顔をして、静かに佇んでいる。いや、私的には緊張感を出したい訳じゃないんだけど。

 言いたいことは分かる。これから話す内容は漏れると結構良くない。実質、暗殺計画だし。そもそも採用したのはミモザでしょ?まぁ、ミモザで駄目ならどうにもならんでしょう。前邸宅からの継続組だし、大丈夫じゃない?


「ダメ?」

「そう言う訳では……」

「じゃ、ちょっと二人に質問しましょうか」

「何でしょうか?」

「何でも大丈夫です!」


 テストって訳じゃないけど、少し問うてみるか。ミモザがめっちゃ渋い顔してるわ。こっちの方が珍しくない?私の日向ぼっこより。と思ったものの、双子は何が来るのかと戦々恐々ですね。はは、別に大丈夫だって。


「一つ目。私の好きな食べ物は?」

「カシリスのソルベです」

「……正解」

「私も分かってました!」

「そ、そう……」


 私が適当な質問を飛ばした瞬間、爆速でダフネが答えてくる。ほぼ間が無かったんですけど。嘘でしょ?ローナも分かってたっぽい。え、そんなに露骨?夜な夜なソルベを作って喰ってるの、バレてる?


「料理長がよく言っておりますので!」

「あ、そうなの?」

「はい。悩んだらこれを出すようにしてる、と」


 流石料理長、私のことがよく分かってる。適当に甘い物出しとけば、ぶっちゃけ私はニコニコ食べてるからね。だから元気ない日に出てくるのか、アレ。

 夜中摘まんでる方は大丈夫か、まぁ別に怒られるって事も無いか。内政で大変なんだから、いいでしょまぁ。


「お嬢様」


 黙っていたミモザが、ふと呼んでくる。


「何?」

「料理長より……夜中食べられた分は朝、伝えて下さいと」

「……はい」


 ミモザのジトっとした目が突き刺さる。ですよね、はい。すいませんでした。在庫とか狂っちゃうよね、屋敷の誰かが摘まんでたら問題だし……。これまでは当直が伝えてくれてたのかな、申し訳ない。


「……気を取り直して。二つ目、私が複式簿記を導入した理由は?」

「不正防止の為です!」

「うん、正解」

「事業単体の状態が見える。というのもあるかと」

「それも正解よ」


 どっちも正解ですね。ローナが不正防止といの一番に言い、ダフネが負けじと事業の可視化と言ってくる。ま、両方正解っすね。パッと出てくるのはいいこと。

 シリッサにおいては不正防止が大事だったけどさ。今後を考えると事業が見えたり、ミスが少ない複式を入れとかないと大変だからね。また腐敗するとか勘弁。


「ちゃんと理由を把握してるのは、いい事ね」

「ありがとうございます!」

「当然の事です」

「謙虚でよろしい」


 軽く褒めると、ちょっと嬉しそうな二人。見ているミモザも、安心したようで顔から力が抜けている。別に言えなかったとて何もないっすよ。知ってるでしょ。


「じゃ、最後の質問」

「はい!」


 なんにしようかね。私と実務は聞いたし、何か最後は捻りのある質問がしたいよね。信頼感が見えて、どうする気なのかを今知りたい内容は……。あ、一個あるわ。めちゃめちゃ答えにくい気がするけど、気になるから許してね。

 二人の目を一度見て、軽く頷く。キョトンとしてて可愛いっすね、二人とも。よし、聞くか。


「……私が死んだら、どうする?」

「……!」


 空気が一瞬で張り詰めたのが分かった。やっちゃったかもしれない。いや、本気で言ってないから。シンプルにどうするのかな~って思っただけで。

 視線が私に集中する。全員、私を見ながら何かを考えてるみたいっすね。まぁそうか。


「お嬢様、その質問は」


 ミモザが真剣な雰囲気を出し、聞いてくる。本気で死ぬとか思ってないことはないけど、まぁ厳重に守られてるから。


「ちょっとした思考実験よ。本気じゃないわ」

「ですが……」

「で、二人ともどう?」


 すっかり黙り込んでしまった双子に対して、声を掛ける。別にどんな返答でもいいぞ。先にローナが、何か言おうと口を開いた。


「変わらず、仕事をします」

「何故?」

「誰かが、仕組みを回さなければならないので」

「ほう……素晴らしい」

「ありがとうございます……!」


 ローナはこういうところ、しっかり見えてるからいいよね。元気だけじゃない、責任の視点もしっかり持っている。

 さて、ダフネはどうかね。彼女を見ると、しっかりとした視線でこっちを見ていた。何すか。


「答えは出たみたいね?」

「……何も、出来ないと思います」

「なるほど?」

「質問の意図から外れてしまっていれば申し訳ございませんが……。ただ、何も出来ないのだろう、と」

「外れてないわ。……制度がどうこうの話じゃないものね」

「はい。心が止まってしまうかと」


 組織として麻痺するってだけじゃないのね。心が止まるってマジかよ、そんなに私のバリュー高いの?いや転生者で色々知識とか持ってるから高いか。でも、人間的にはロクでなしですよ私は。

 マジ?って思いながらミモザとローナを見てみるが、二人とも神妙な顔をして頷いていた。おおん……?


「……そんなに?」

「お嬢様、自身を軽く見積もり過ぎです」


 ミモザが代表する感じで伝えてくる。いや、ちょっとは悲しいと思うよ?人が死んでるからね。でも、上司が死んだだけというか……。改革が成功した後、とかなら分かりますけど。何も成し遂げてないぞ。アワアワ言いながら人消してるだけやぞ。……好かれるような、人間じゃないぞ。


「お嬢様。私も仕事をするって言いましたけど……」

「……?」

「泣いちゃいます、絶対に」


 ローナが神妙な顔で伝えてくる。質問、間違えた気がする……。こう、もっと軽い感じのアレだったんですけど。重さと、神妙さが相まって物凄いっすよこれ。圧、圧が強い!


「ねぇ、ミモザ」

「何でしょう?」

「もしかして、継続組は皆?」

「同じ心持ちです」


 冗談ゼロの顔で言われてしまうと、何も言えんぞ私は。わ、分からん。この話、やめとくか……。少なくとも忠誠は伝わったし、これで裏切られてるなら名演技過ぎない?


「悪い質問だったわね。謝るわ」

「大丈夫です!」

「気にされずとも、大丈夫です」


 すいませんでした、はい……。脱線しまくったけど、話してもよさそうっすね。どちらにせよ幹部候補生だろうし、いずれ知る話だからね。


「本題からブレたわね」

「……悩み事というのは」

「伺っても良ければ!」


 何となく距離が近くなった気がする双子を横目に見つつ、私は静かに口を開いた。


「司教を消すから、悩んでたのよ」


─────緩くなっていた空気が、また重くなってしまった。やってらんねぇ。


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最後の爆弾が大きすぎるw
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