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ファースト・パージ


「何から話そうか……」


 う~んと宙に視線を投げながら、顎に指を当てて考える。話すべきことは結構あるんですけど、どうしようかな。

 まぁ順当に産業から行くか。一番明るくて、それなりに全員関係あるし。視線を下に戻す。


「じゃ、産業から話すわ」

「お願いします!」


 ウキウキワクワク、先生が楽しそうにいった。元気で大変素晴らしい。というかよくそんな元気ありますね。シンプルに羨ましいんだけど。


「まず、試験段階だけど耐火性の高炉が出来たわ」

「……鉄の奴ですよね?」

「そう」

「装備は?」

「集産化出来れば。その内更新するわ」

「楽しみにしときます!」


 まずこれが出来ないと何も始まらないからね。インフラで動員した人的資源の貸出、舶来品の贈与、一部税制優遇と条件は付きまくったけど、陶芸ギルドから耐火レンガを引っ張ってきたわ。絶対後で解体してやるからな。覚悟しとけよ。これも反射炉とコークス炉への布石……。でもコークスまで走らないと森が無くなっちゃうんだよねぇ。

 冒険者ギルド以外はそれぞれ親方が支配してるからね。全部解体する予定だし、多少の譲歩はまぁいいでしょ。ロブが一番嬉しそうね。装備の更新は……早めにやるわ。


「次に、輪裁式農法の試験を始めてるわ」

「例の新農法ですか!」

「実家の伝手で、学者の方を呼べまして」

「ご飯が増える!素晴らしいです!」


 今度は先生が食いついた。食い物の話だからね、一番平民の先生が食いつくのも当然か。ロブはちょっと考え込んでる様子、兵站でも考えてるのかな。まぁいいや。

 人口を増やすのも大事だし、そもそも食える飯増やさないと今の平民が大変だからね。福祉やるにも食糧は必要なのだ。バリエーション増やすために、外から種持ってこないとなぁ。後はこっちで育ててみて……やる事が多い!


「えぇ、その内増えると思います。多分」

「やった!」


 まだ先と言えば、先の話なんですけどね。いきなり導入するのは愚の骨頂ですからね。合う土地とか、生育条件も詳しく検討しないと。学者もまだ足りぬ……。実家から借り過ぎるのもねぇ。こんな街の統治を十六のか弱い少女に任せてんだから、多少はいいか。う~ん難しい。


「後は……都市公庫の中央銀行化も、ちょっと進んだわ」

「具体的には何が進んだのでしょうか?」

「帳簿整理と振替の基盤作りです……」

「ほう」

「十分だと思わない?」


 ミモザの表情は読めない。これぐらいでも頑張ってるんですよ!金融と経済はデリケートなんだから!金準備高とか、信用とか色々あるの。いやほんとに。そも、清算機関を作るのが難しくて……。


「……流石です」

「そう言って頂けて、嬉しいわ」


 褒めるんなら素直に褒めてくれよな。ミモザはこういうとこあるんだよねぇ。他二人はこの辺明るくないし、何だかんだ分かった上で褒めてくれるのは……悪い気はしないっす。


「産業はこんなとこ」


 三人の得意分野が一個ずつ進んだ感じか。色々進んでるけど、明確に言えるのはこの三つかな~。ぶっちゃけ置いて行ってる感はある。私が誇りたいからね、技術系は。でもなぁ、進めていいのかどうかは悩んでます。進めないと死ぬからやってるって話はそう。

 産業は打ち止め、次は……。


「文化系の進捗も話しとこうか」

「ふむ」

「おぉ!」

「あんまり進んでないけど」


 ミモザが瞠目し、先生が色めき立つ。そんなに期待されても……。数ヶ月で文官レベルの知的階級が集まるか、元々居ればどれだけ楽だったかって話なんですけど。シリッサ、人はいるんですけどねぇ。教育するのにはコストが掛かるんですよ。教師、教科書、場所。負担多すぎじゃない?やっぱりさ。


「新技術と自由な研究を餌にしたお陰で、少しずつ集まってはいるんだけどね」

「その内、大学も作れますか?」

「多分」

「軍学校も出来るんですか?」

「多分……!」

「神学校は創学されるので?」

「多分!!」


 知らねぇ!これから為すこと上手くいけばできらぁ!……まぁ、実際のところ出来るとは思う。粛清完遂、黒字化が前提条件だけど。金も人も、学もねぇんだ。少しずつ積み上げていくしかない。

 どれもこれも、政治が上手くいく前提で組みあがってるから難しいんです。色々もう既に、ボロしか出てない気がするし。ちみっこい私は、ただでさえ力は無いのに……。因みに威厳もない。


「結局、人集めの段階です」

「残念です……」


 先生は肩を落として、他二人は肩をすくめている。そんな感じで言われてもねぇ。どれもこれもないない尽くしなんで。まだ数ヶ月、これからっすよ。じゃなきゃ死ぬだけだし。

 無いに等しい、文化のお話が終わりましたと。ぶっちゃけしがらみが無かった場合、地球の音楽を口ずさみながら適当に絵を描いたりしてただろうなぁ。へったくそだけど、絵。歌は馬鹿にされないぐらい、普通。

 

「以上、文化系です」

「本当に進んでないっすね……」

「我ながらそう思う」


 よし、本題やるか。今、一番大事な部分。話すことはそれなりに多いぞ。ややこしくても付いてきて下さいな。


「じゃ、政治行こうか」

「……はい、お願いします」

「……お手柔らかに」

「…………」


 次はこの場の皆さんお待ちかね、政治関連か。私のお綺麗な顔、雰囲気が変わったんだろうな。この場にいる三人の表情に、少しだけ畏れと敬意が混ざる。ビビらないでよ~。


「まず貴族。全体的に証拠は集まりつつあるわ」

「お嬢様なら、無くてもやれるのでは?」

「殺れるけど、正当性が大事なのよ」

「なるほど」

「一応、王国大法があるし。貴族を落とすには違反がいる」


 正当性って大事なんすよ。誰が見ても悪人ってのが、何より処刑の口実になる。民からのウケも違うし。旧体制が壊れて、新しくなりました。この印象がキモ。西方鎮圧でよく使った手だ。


「もう逮捕しては?」

「空席を埋める人員がいない。上は特に」

「必要なので?」

「椅子争いでまた荒れるのは勘弁。後、固まられるからね」

「左様ですか」


 これも難しい所で。上に手を出しませんって顔して、一気に同じ場所に集めてお掃除するのがポイントですね。てか人材不足で空けた椅子に座らせる人間がいないっす。

 まぁでも、取り敢えず下からお掃除していくぞ。下は消えても困らない割に迷惑度が高いからね。治安は大事、ある程度の恐怖があってようやく統治は成立するのだ。多分。恐怖無しで統治するのは無理じゃない?徳で治めるとかギャグでしょ。


「ま、放置はしないわ。目立つのはリストに纏めてるし」

「そうでしたか」

「反抗の方も、内通者と疑心を撒きまくったお陰で混乱してるから大丈夫」


 ふむ、と一言だけ残したミモザ。組まれた両手からは感情はやっぱり見えない。残り二人は何とも言えない顔してますね。先生はぶっちゃけビビってそうな雰囲気。別に私もやりたい訳じゃないんで……。

 偽報、内通、恐怖。内通者の報告や、捕まえた貴族の証言を聞く限り効いてるからしばらくの間は大丈夫そう。やっぱ恐怖の力は偉大だなぁ。


「次、ギルド。冒険者ギルドの方はダンジョン利権の解放、インフラ投資で下級も何とか食えるラインには乗せたわ」

「ありがとうございます!」

「彼らは労働者層としての未来があるからね」

「そ、そうですね……」


 未来がある労働者層。こんなに素晴らしい人たちがあるのか。働けて、人口を増やすこともできる。勉強も叩き込めば何とかなるし、最悪動員も出来る。万能でしかない。まぁ仕事が無いと干上がって、ろくでなしになるんですけどね。これは正直、統治者側の問題だけど。


「あ、商業ギルドはいずれ解体するから。よろしく」

「……本気ですか?」

「やれるんで?」

「産業と人が育てば、順当に発言力は落ちるだろうし」

「確信がおありで?」

「育たなきゃ終わり、分かりやすいわね」


 意外と後は無いぞ。統治をしくじったら今のリードラルは解体の上、私は政略結婚行きです。嫌が過ぎる。何が悲しくて男と付き合わねばならぬのか。因みに男は精神が拒否して、女相手は身体がまるで反応しないっす。もう人としての機能は終わりです。てか一回死んでるんだから、今更言われても……。まぁいいや。


「ギルドはこんな感じかな」

「なるほど」


 奇妙な沈黙。お、皆察した?最後はもちろんあの話だぞ。


「最後。教会について話そうか」


 沈黙が、更に重くなった。別にそんなテンションで聞く話じゃないんですよ?日頃の会話、その一つだと思って頂ければいいのに。なんでよ。


「……状況は?」

「悪い。司教は私を異端だと思ってる」


 あ、ミモザの機嫌が悪くなった。まぁトップが異端者だって言われたらそりゃ不機嫌になるか。ただでさえ深い皺が、更に深くなってるわよ。そんなにキレなくてもいいのに……。


「あの醜態で、敵対を?凄いっすね」

「でしょ?中央教会と連絡取ってるし、しっかり黒。笑えるわ」

「司教補佐は?」

「あれは白。ただの苦労人」

「最悪手前って感じですか」

「そうね」


 司教補佐も終わってたらどうしようかと思いましたけど、白でよかった。てか聖女派と教典派、考え方が違い過ぎるわ。当然仲も悪くなるよね。しかも両方一枚岩じゃないし、バラバラ。彼も教典派で一番有力ってだけみたいだし。

 一旦司教は消すけど、その後は彼に任せるか。現実と理想を理解してるってのがよろしい。現実に縛られるタイプですね。気持ちは分かる。


「消しますか?」

「向こうは伝手を使って、異端審問官を呼ぶらしい」

「どうするので?」

「逆手に取る」


 向こうが呼んだ異端審問官は、実はこっちの影響下でしたって奴。嫌に動きが速いし、私が引っ越す前から動いといて良かったわ。その時に知り合った枢機卿達に働きかければ何とかなるはず。司教数人が何だぁ、こっちは枢機卿だぞ。まぁ、敵対派閥だもんね。私の知り合いは教典派です。よかった。

 

「向こうが司教なら、こっちは枢機卿に働き掛けるわ」

「流石の人脈ですね……」

「無いと死んでるから」

「笑えませんよ……」


 先生が引いてる。クソ質問した時とはまた違った感じだぁ。幹部会議始めてからよくこんな感じになる、ロブみたい。ロブは菩薩みたいな顔してるから慣れたんでしょうね。


「で、これ関連なんだけど」

「はい?」

「そろそろ始めようかな」

「……何を?」

「粛清」


 全部で三段階ぐらいに分けるけど。地盤も揃ってきたし、最下部は掃除しても大丈夫そう。軍も警備ぐらいは出来るって話だ。なら行ける、てかもう放置できないっす。

 また皆黙っちゃった。なんでよ。


「言っても、下だけかな」

「……対象は?」

「ギャング末端、汚職ギルド構成員、闇商人。教会は異端審問官が来てからね」

「処遇は?」

「王国大法に則るけど、基本的には死んで貰うわ」

「そうですか……」


 そりゃそうでしょ。犯した罪には罰があるんです。しょうがない。後、ここで許すと絶対に舐められるからね。恐怖が効かなくなったら終わり。どんだけ泣き喚こうが、命乞いしようが殺す。法律がそういってるからしょうがないね。

 しかもこのラインは民衆からもしっかり嫌われてるから、処刑はそれなりに盛り上がるだろうし、支持が下がることは無いと思われる。諸々込みでプラマイプラス。間違いない。


「名付けて、ファースト・パージ」

「……」

「為すべきことを、為しましょう」


──────統治ってのは、そういう事だからね。やれることからやっていきましょう。


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