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悲しみの本家召喚 ~嫌~


 怒りの初陣から三年が経過した。もう十五ですよ十五。因みに身長は二センチ伸びました。なお低身長、地域のせいで小さく見えんだよな……。威厳、威厳が……。

 その間、私は反乱の鎮圧や貴族の調査を任されまくっていた。あのさぁ。こんなガキに戦争とか調略任すんじゃないよ。ま、やれって言われたら断れないからね。やり切った結果仕事が増えるって話で。もう西部鎮圧の責任者的な感じになっていた。


「お嬢様、お茶は如何ですか?」

「貰うわ」


 本家行きの馬車の中、ミモザからお茶を貰う。こういうのも久しぶりな気がする。ロブもミモザも、今回の件でバタバタ動いて貰っていた。

 いよいよ鎮圧も終わって、私はフェロアオイ公爵家の父上をリーダーとする中枢機関、よく言う本家に呼び出された訳。ま、実家からの呼び出しって訳だ。領地が広すぎて、実質的に国家内国家みたいになってる当家。今日は全体会議でございます。本家内務部、外務部、法務部、本軍の重鎮が一堂に会するとんでもねぇ会。私は行く意味もやる気も無かったから回避してたけど、西部で色々やったせいで呼び出されてしまった。ダルすぎ。


「……疲れたわ」

「これからです、お嬢様」

「はぁ……」


 ミモザが憐れなものを見るような目で、こっちを見てくる。でしょ、憐れでしょ。だから帰してくれませんかね。察されたのか、ミモザは首を横に振ってきた。ちくしょう。


「二週間は遠くない?」

「それは……否定できませんね」

「でしょう」

「ですが、帰る理由にはなりませんよ」

「西部で反乱が再燃!」

「ロブが抑えております」

「ですよね」


 言ってみただけ。初陣後の会議は両親と本軍の人ぐらいだったけどさ、今回はフルメンバーに近いじゃんか。だから余計行きたくないんだよなぁ。一挙手一投足が見られてんだよ?嫌に決まってら。


「あ~見えてきたぁ~」

「着きましたか」

「着いちゃった」


 遠目に巨大な屋敷と、遠大な街並みが見える。学術や芸術とあらゆる分野の集積地、都市フェローク。というか歴代のフェロアオイ公爵がその辺に投資しまくってるせいで、研究都市みたいになってるのよね。ほんと、先見の明すご。

 んで中心にあるのがフェロアオイ公爵家の本家邸宅、別名“パープル・ヴィラ”。巨大な都市の中にある屋敷と各機関の建物、正直七大の本拠は王都を超えてる部分さえある。久しぶりに来たけど、やっぱすげ~。


「膨張じゃないのが凄いわ」

「仰る通りかと思います」


 街の大通りを抜けて、邸宅の方面へ。近づくと共に、気落ちレベルが上がってくる。因みに一家の皆さんはめちゃ優秀です。私はポンカスで無気力ですけど。周りの力が無いと何も出来ないっす。


「停止せよ!」


 屋敷正門の門番に止められる。馬車パスじゃないのはいいことだ。窓から顔を出す。


「お嬢様!失礼いたしました!」

「ご苦労様」

「どうぞ!お進み下さい!」


 顔を戻してすぐ、再び馬車が動き出した。紫と白に統一された庭を抜ける、面白みのない色彩だ……。でもまぁ、美はあるよね。庭師の皆様が夏手前の庭を維持しているのを横目に、馬車は進んでいく。


「後、よろしく」

「承知いたしました」


 玄関前に止まった馬車から私だけ降りて、エントランスへと入っていく。磨かれ過ぎてるせいか、白が反射して眩しいのよね、この家。


「「「お嬢様、お帰りなさいませ」」」

「出迎えご苦労様。父上は?」

「書斎にて政務を」

「了解。自由にしていいわよ」


 メイドと執事が真ん中のカーペットを挟む形で列になり、私を同じ角度の基本礼で迎えてくる。いいのに。ま、これも恒例行事だからねぇ。適当に父上の居場所を聞いてから解散させる。

 相変わらず静かな色彩ねぇ、美術館みたい。目立つ色ではないが、とにかく質の高い調度品で満たされた屋敷。一部は変わってるわね、そりゃそうか。最後に来たの三年前だし。


「……」


 階段を上がり、陽の光が奥より差し込む廊下を抜ける。そして、とある一室の扉前に立ち止まる。あぁ~めんどい。別に父上は嫌いじゃないんだけどねぇ、公爵家ってのがめんどくさくて仕方ない。

 息を大きく吸って、吐く。そしてノックを三回。


「ソフィアです」

「……入れ」


 中から威厳のある声が聞こえた。さぁて、どうなるかね。


「失礼いたします。父上、お久しゅうございます」

「うむ。ソフィアも息災だったか」

「無論です。忙しくはありましたが」

「ははは!そうか!そうだな!」


 灰色の髪を後ろに流し、彫りの深い顔で大きく笑っている父上、アラン・ヴァルコ・フェロアオイである。王国七大貴族の一翼、フェロアオイ公爵家の十一代目当主。優しいけど威厳たっぷりなんだよな。


「緊急故に任せた鎮圧だったが……。素晴らしい結果だ、娘よ」

「そう言って頂けると幸いです」

「謙遜するな。西部鎮圧、任せて正解だった」


 謎の高評価やめてね~。戦争とか面倒だし資源の浪費だし、いいこと無いっすよ。武力は使う前に真髄があるんだから、多分。いや知らんけど。


「貴族の腐敗は根深い。田舎も、中央も変わらん」

「間違いないかと。冒険者ギルドの交渉も、かなり難儀されたと聞いております」

「勇者機関か……。あれは商人よ、しかも老獪な」


 冒険者ギルドは世界にネットワークを持つ自由組織だ。その統括組織が、勇者機関である。立ち上げた奴の通り名が“勇者”だったからそう呼ばれてるらしい、先生から聞いた。二週間前も白目むいてたけど、元気してるかな。

 てか我が家は法務をやってるってのもあり、普通に仲が余りよろしくないのだ。いや、フェロアオイに限った話ではないか。国家とギルドの仲は、基本的に悪い。しょうがないね。


「しかし、よく釣れましたね」

「都市腐敗は奴らにとっても迷惑だからな。利害の一致だ」

「なるほど……」

「まぁ、向こうに提示したのは外れダンジョンばかりだ。一部の当たりは今頃、高ランクが食い漁ってるだろうな」


 冒険者ギルドも高ランク優遇が酷いからなぁ。先生がボヤいてたな。価値の高いダンジョンはギルド専属の高ランクが先に漁っちゃって、下級がゴミ漁りしか出来ないって。


「面倒な話ですね」

「全くだ。ただ、収穫はあった」

「というと?」

「お前だ。ソフィア」


 んぅ?嫌な予感がするぞぉ?


「手練手管、逐一聞いたぞ」


 いや、やれって言ったの父上ですよね?でやり遂げたら収穫ってなんだよ。失敗前提とかいうクソモードやめてね。


「フェロアオイは、優秀な人材を求めている」


 そんなこと無いです。私ただの一般令嬢。責任とかもういいので、ほんとやめて。


「まぁその辺りは、全体会議の際に話そう」

「……承知いたしました」

「ふ、これからを楽しみにしているぞ。ソフィア」

「感謝いたします」

「ミーゼルとは話したか?」

「いえ」

「では、話してこい」

「……失礼いたします」


 勘ぐるまでもなく、かなりの期待を乗せた穏やかな笑みが私に突き刺さる。えぇ……やれって言ったことをやっただけなのに、なんでこんな感じになるの。無茶振りしてましたってこと……??

 退出までは流麗にやり遂げた、身体が礼法を覚えてるんですよ。悲しいね。部屋から出て、今度は違う形で溜息を一つ。さっきよりも大きい奴。


「後で考えよ」


 とりあえず母上と話してから絶望しよ。やめやめ!はぁ……。

 

 今度は中庭へと向かう。廊下から階段を逆に歩き、一階から奥へと抜けていく。外に出ると、凄まじい広さの庭園が広がっている。点在する白の建物に、緑を主として広がる白と紫の花々。大の字に寝転がりてぇ~。

 庭園を少し歩き、一角にある温室へと入っていく。中で母は植物を見ながら、何かメモを取っていた。この人、研究者肌なんだよな……。


「母上。今帰りました」

「あらソフィア。ちょっと待ってね」

「勿論です」


 花と紙を交互に見ながら大慌てで何かを書いている。ちょっと覗くと、バリバリの観察記録だった。流石だな……。しばらく書いていたが、終わると紙と用具を机に置いて、改めて私を見た。

 やっぱ美人だな、母上。私を産んだだけあるわ。綺麗系の結構極限に近くて、今は学者モードなんで身なりがアレだけど、完全版は綺麗すぎて背筋が凍るからな。


「お待たせ、ソフィア。元気だった?」

「勿論です。大変ではありましたが」

「そうねぇ……。私は、一応反対したのよ?」


 そうですね……。政略結婚の予定とか組んでただろうし、一番割りを食ってるのはこの人なのかもしれない。母上は公爵家の内務担当、こう見えてバリバリの実務家だ。


「でも有事って言われちゃったらねぇ」

「仕方ないですね」

「そ」


 綺麗系でふわっとしてるからこう、こっちのテンションも難しいんだよな。


「粛清のお陰で財務は健全化したけど、復興と動員費用が……」

「収穫は?」

「例年通り。だから準備高がちょっとだけ不安ね」

「なるほど……」

「でも面白いのよ?」


 そう言ってふふふと笑う母上。悪い顔してますよ。


「例年通りなのに、税収上がってるのよ」

「……恐れの力は、偉大ですねぇ」

「本当ね。数年は効くでしょうし、そう言う意味では大成功かも」


 くわばらくわばら。横流しが減るのはいい事ですね。私もそう思います。


「後、ミモザの話なんだけど」

「はい」

「どうやったの?」


 何がぁ??何もないっすよ。いつも通りで嫌とやって下さいを繰り返してますけど。


「?」

「心からの忠誠、よく取れたわね」

「そう、なんでしょうか」

「フェロアオイの忠臣から、貴女の忠臣になってしまったわ」


 えっそうなの?面倒なムーブしかしてないぞ私。ごねてるだけ。……後は、よく分からんクソみたいな質問を飛ばすとか。


「ま、いいわ」

「そ、そうですか」

「それと、西方鎮圧お疲れ様」

「ありがとうございます」

「貴女、上手くやりすぎよ」

「えっ」


 だからやれって言ったのアンタらじゃん!上手くやりすぎってなんだよ!生死の狭間でどう手を抜くんだよ!

 母上、困ったような顔でこっちを見ないでくださいな。私がその顔したいっす。


「今回の件で、アランは貴女を中枢に組み込むつもり」

「つまり」

「私の考えてた計画が完全に潰れたってこと」

「なんか、すいません……」

「いいわ。私も何があったかは聞いてるし、アレが出来るなら結婚で消費するのは勿体ないわ」


 消費て。確かに血縁プランはなぁ。男と結婚したくねぇし、それは正直悩んでたから渡りに船だが……。でもなぁ、責任と義務が……。


「ミモザの忠誠と西方鎮圧、貴女は素晴らしい結果を残した」

「……」

「母として、ミーゼル・マホニア・フェロアオイとして、貴女の今後に期待しているわ」

「……ありがとうございます」

「真面目な話ばっかりだったわね。夕食の時は緩く話しましょ」

「ですね」

「ふふ、長旅で疲れたでしょ。少し休みなさい」

「そうします」


 花が咲いたような笑みを浮かべる母上。いい母なんだよなぁ。一礼して、私は温室を後にした。あ~期待値上がり過ぎ。マジで勘弁してよ。何が中枢なのか、辺境でのんびりさせてよね……。


「はぁ……」


 ため息が止まらない。寝るしかねぇもう。一旦現実から逃げさせてくれ。両方ガチな方で褒めてくるやん。しかもなんか、ガチじゃん。期待が重いよぉ。


 私はどうにもならない思考をグルグルさせながら、寝る為に自室へと向かうのでした。全体会議、出たくねぇ……。


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