9話:装甲を求めて
スケーリーフットは検索するとギョッとするかもしれないので注意してください。
屈辱的な敗北から数刻――
俺は深海に棲む比較的弱い生物を狩りながら、傷ついた甲殻の回復に努めていた。
(……装甲鮫、あれはとんでもない強さと頑丈さだった。あれを砕くハサミを手に入れるには、正直見当もつかない)
ぼんやりと対・装甲鮫用の進化方法を考えていた俺だったが、この暗く閉ざされた深海では良いアイデアも浮かばない――そう思った、が。
(……いや、待て。思い出したぞ!)
かつて人間だった頃、情報番組で見たことがある。
たしか、深海の熱水噴出口に「鉄をまとった巻貝」がいると……名前は――スケーリーフット!
(そうだ! ハサミの強化が無理なら、全身をあの装甲鮫を凌駕する金属の鎧で覆えばいい!)
(閃いたら即行動。待っていろ、熱水噴出口。そして装甲巻貝、スケーリーフット!)
だが問題があった。俺の身体は、まだ深海への完全な適応を果たしていない。
この水深ですら、動きが重くなってきていた。
視界も最悪だ。完全な暗闇の中、目視による探索は不可能に近い。
(電撃で照らす……? いや、そんな真似をすれば、逆に狙われるだけだ)
俺は自らの生体オーラを極限まで絞り込み、周囲にいる深海生物たちのオーラを探知する。
――不思議な感覚だった。
まるで、音の反響で周囲を感じ取っているかのようだ。
これは蟹としての特性なのか、それとも……
(いや、さっき喰らった深海生物の影響もあるかもしれないな)
そのまま俺は、さらなる進化を求めて深海生物の狩猟を続けた。
水圧に耐えうる甲殻、鋭敏な感覚器官を持つ獲物たちを、片っ端から取り込んでいく。
チョウチンアンコウの気配を捉えた俺は、背後から素早く襲いかかる。
装甲鮫と違い、アンコウの身体は驚くほど柔らかく、ハサミで容易に切断できた。
その発光器官を喰らい、再現を試みる。
完全な再現とはいかなかったが、ハサミの先がぼんやりと発光した。
(……充分だ。この光で獲物を引き寄せることができる)
実際、光に惹かれてやってきたクラゲやタコを喰らいながら、俺は少しずつ深海の奥へと進んでいった。
その途中、ついに出会った。
ダイオウグソクムシ――深海に適応した甲殻類の王とも言える存在だ。
(こいつを喰らえば、深海への適応が飛躍的に進むはずだ)
俺はためらわず、ハサミを振り下ろした。
鈍重な動きのグソクムシは躱せなかったが、なんと一撃では倒せなかった。
(……こいつ、想像以上に硬いな)
だが、それがむしろ都合よかった。
ギザギザのハサミに全力を込め、装甲を削るようにして仕留める。
グソクムシの肉体を喰らった瞬間――俺の身体に熱が流れ込み、再び脱皮が始まった。
新たな体は、水圧を物ともせず、深海でも自由に動ける。狙い通りだ。
準備を整えた俺は、いよいよ熱水噴出口を目指す。
水温の上昇を感じ取れば、進むべき方向は自然とわかる。
予想以上の高温だった。
熱水噴出口の周囲は完全な闇ではなく、ぼんやりと明るい。
視界こそ得られたが、その熱は俺の体をじわじわと蝕んでいく。
(……長居はできん。早くスケーリーフットを見つけないと……!)
焦りながら周囲を旋回していると――ついに見つけた。
巨大な鉄の鱗を持つ巻貝が、這うようにして熱水噴出口の付近を移動している。
スケーリーフットだ。
地獄のような環境に完全適応したその姿は、あまりに悠然としていた。
(……いいだろう、お前の力、俺が受け継いでやる!)
ハサミを一閃。だが、スケーリーフットの鉄の脚に弾かれた。
(硬い……だが、これだ。この硬さこそ、俺の求めていたものだ!)
脚が防御を固めているなら、背後だ。
俺は背後に回り込み、殻を砕きにかかる。
ガギィ!
(殻も硬いか……全身装甲、まるで装甲鮫と同じ構造……だが――)
(お前と奴の違いは、機動力も攻撃力も皆無なことだ!)
俺はスケーリーフットに取りつき、殻と装甲の隙間に片方のハサミをねじ込む。
そのまま間を広げて、もう一方のハサミで中身を串刺しにする。
スケーリーフットは小刻みに震えたが、すぐに絶命した。
その肉体を引きずり出し、喰らう。
見た目に反して、スケーリーフットは驚異的なエネルギーを秘めていた。
あの巨体、そしてこの過酷な環境に順応していたことが、それを物語っている。
そして――再び脱皮が起こった。
今度の体は、全身が金属のような光沢に覆われていた。
俺は、望んだ通りの進化を遂げた。
――メタル・デンキガニ、ここに誕生。
(待っていろ、装甲鮫。今度こそ――貴様を粉砕してやる)
深海の王となった俺は、再び浮上を始めた。
リベンジの時は、近い。
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