6話:仇討ちのギザギザ
ノコギリガザミはカニの中でも本当に大きくて立派です。
俺はデンキウナギへのリベンジを果たすため、再び河口へと戻ってきた。
海に出る前は広々として見えたこの場所も、今ではいささか手狭に感じる。
デンキウナギは上流にいるはずだ。そう踏んで進もうとした矢先、強烈な念話が脳裏に響いた。
「待っていたぞ……俺の弟分を倒したのは、お前だな?」
姿を現したのは、巨大なノコギリガザミだった。
「ふ……ノコギリガザミか。デンキウナギとの再戦前に、ギザギザのハサミが手に入るとは、好都合だな」
俺は不敵に念話を返す。
「俺は弟のようにはいかんぞ、混ざりものの蟹め!」
ノコギリガザミがすばやく接近してくる。
俺も遊泳脚を動かし、迎撃態勢をとるが……奴の巨体は見かけ倒しではなかった。
一歩、また一歩と着実に距離を詰めてくる。
――ガリガリガリ!
すれ違いざま、ギザギザのハサミが俺の甲殻を抉った。
何度も進化を重ね、硬度を増したはずの俺の外殻。
それをいとも容易く削ってくるとは……奴のハサミは見かけだけの飾りではなかった。
「どうした、混ざりものの蟹よ。弟の味わった苦しみは、こんなものではない。
すこしずつ、すこしずつ……同じ痛みを味わわせてやろう」
(侮ってやがる……このままでは分が悪いが、足の二三本を囮にすれば……!)
俺は歩脚の数本をあえて差し出し、削らせた。
「ぎゃあああああ!」
苦痛の念話を添えて、わざとヨロヨロと陸地へと逃げるフリをする。
「ふん、もはや終わりか。混ざりものよ――最後はその甲殻をバラバラにしてやる!」
ノコギリガザミが勝利を確信し、大きくハサミを振り上げた――その瞬間。
「かかったな!油断しすぎだ!」
俺は渾身の力を込めて距離を詰め、奴のハサミの根元を掴む。そして――粉砕!
「なにぃぃぃぃぃっ!」
ハサミをもぎ取られ、罠にかかったことを悟ったノコギリガザミは、衝撃にのけぞる。
すかさず、俺は奴をひっくり返し、その柔らかい腹に飛び乗った。
「お前も、普通のガザミと変わらなかったな」
俺は躊躇なく、ノコギリガザミの腹部を深く貫いた。
「……ゴフッ。お前のような混ざりものの蟹など……海で喰われてしまえ……」
最期の念話を残し、ノコギリガザミは絶命した。
「海で喰われろ、か……。俺は――ずっと喰らう側だ!」
勝利をかみしめながら、俺はその肉体を喰らっていく。
俺よりも一回り大きかったノコギリガザミの肉は、濃厚で力強いエネルギーに満ちていた。
そして――さらなる脱皮の時が訪れる。
俺のハサミには、あのノコギリガザミと同じギザギザが、新たに刻まれていた。
(デンキウナギよ。俺は、お前を倒すための……完璧なハサミを手に入れたぞ)
俺は確かな勝利を胸に、静かに上流を目指した。
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