2話:進化の条件
かわいそうなアカテガニくん。
あれから、俺は一度だけ脱皮した。
かなりの量の苔や動物の死骸を漁ったが、体のサイズは大して変わらなかった。
食べれば食べるほど、体内にエネルギーが溜まっていく感覚はある。だが、そこらの植物じゃ明らかに栄養が足りないようだ。
そこで俺は、少し移動して“動く餌”を探すことにした。
やがて一匹のカニを見つけた。俺よりも小ぶりな――おそらくアカテガニ。
なるほど、見た目もどこか偽物くさい。パチモンだな。
俺は音もなく接近し、ハサミを振り下ろす。
「うわっ!? なにをするんだ!」
――!? カニが喋った!?
なるほど、同じ種族同士なら言葉が通じるのか。
まあ、どうでもいい。話せるから何だというのだ。
「俺の強さの糧となれ!」
宣言とともに、俺はハサミで歩脚を斬り飛ばす。
「ぎゃあああああっ!!」
アカテガニは断末魔をあげてのたうったが、知ったことではない。
俺は手際よくその身を解体し、肉をむさぼった。
本来ならカニがカニを食うなんて考えられない。だが――ここは異世界、俺は巨大化したベンケイガニ。
問題なく、バリバリと食い尽くすことができた。
そして――体内に、一気にエネルギーが満ちるのを感じた。
やはり、“生きている強い生き物”ほど、効率がいいらしい。
これは素晴らしい発見だ。検証成功。
――では、この沢で一番強い生物は、いったい何だろうな?
俺はさらなる進化のため、情報収集を開始することにした。
蟹同士で意思疎通ができると先ほどわかった。
ならば、この沢にいる他の蟹たちから情報を聞き出せばいい。強い生き物がどこにいるか、何を恐れているのか——全部だ。
シャカシャカと森の中を這い進んでいくと、再びアカテガニを見つけた。
「おい、そこのお前!」
俺は念話を飛ばす。
「ひっ!?あ、あわわ……あんた、でかいね。まさか、食う気かい?」
「そのつもりなら、とっくに襲ってる。質問だ。この沢で一番強い生き物を教えろ。」
「強いのかい? そりゃあ、川の“ぬるぬる”だろうさ。仲間が何匹もやられてるよ。ビリビリって痺れさせられて、動けなくなって、そのまま……」
ぬるぬるで、ビリビリ……。デンキウナギか、デンキナマズあたりか?
確かに今の俺は、ベンケイガニとしては破格のサイズだ。だが、電撃を武器にする水棲捕食者と比べたら、まだまだ小物かもしれん。
だが、それ以上に問題なのは——この世界の生き物、どうやら食えば食うほど進化する気配がある。
となれば、アカテガニを食い散らかしている“ぬるぬる”を放っておけば、いずれ俺でも太刀打ちできなくなるかもしれない。
「情報、感謝する。目標が定まった。」
「そ、そうかい。それは良かったね……って、まさか——」
「そう。脱皮の準備が必要なんだ。お前の命でな!」
俺はハサミを振るい、アカテガニを瞬時に斬り伏せた。
新鮮な肉の味が口内に広がり、体内のエネルギーが爆発するように高まっていく。
その瞬間——脱皮が始まった。
甲羅が軋み、脱げ落ち、新たな装甲が現れる。体格は二回りほど大きくなり、脚には力が漲っていた。
「……これなら、戦える」
次の狩りの相手は、ビリビリの“ぬるぬる”だ。
俺は巨大化した身体を揺らしながら、川へと足を向けた。
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