1話:転生したら森の沢だった件
新たなる蟹の物語がはじまる!
俺の名前は蟹沢徹。どこにでもいる普通の高校生だ。
……少しだけ変わってるところがあるとすれば、他人より蟹が好きってこと。
だからよく川辺をぶらぶらして、蟹を探したりしている。
あの日もそうだった。
街中の歩道で、なんと珍しい――ベンケイガニを見つけてしまったのだ。
気づけば、夢中で追いかけていた。
その拍子に足を滑らせて、川に――落ちた。
冷たい水の感覚と、視界が揺れる感覚。
そして、徐々に遠のく意識――。
──気づけば、目を覚ましていた。
周囲は妙に鬱蒼としている。
巨大な倒木。立派に苔むした幹。
……いや、待て。これ、俺が小さくなってるんじゃないか?
近くの水たまりに顔を映してみる。
そこには、どう見ても――蟹。
赤くて、ごつごつした甲羅。
特徴的な紅いハサミ。
試しに片方のハサミを持ち上げてみる。
水たまりの中の蟹も、同じ動きをした。
間違いない。これはベンケイガニ。
……俺はベンケイガニを追いかけて、
そのまま――ベンケイガニになってしまったのだ。
しかし、これは好都合だった。
なぜなら俺は、かねてより――蟹になりたかったのだ!
人間なんて俺には向いていなかった。そう、常々思っていた。
これを機に、蟹として自由気ままな人生(蟹生?)を満喫しようじゃないか。
……ただ、どうせ転生するなら、もっと強力な蟹に生まれたかった。
ベンケイガニは悪くない。悪くはないが、所詮は小型種。どうせならノコギリガザミとか、タラバガニとか、もっと迫力のあるヤツがよかった。
まあ、ないものねだりをしても仕方がない。
ベンケイガニとして、地に足のついた(ハサミもついた)蟹ライフを送るとしよう。
とりあえず、食料だ。ベンケイガニは雑食性。近くの植物や動物の死骸でも漁ってみるか。
俺は水辺に生えていた苔をむしって、モグモグと食べてみた。
――そのときだった。不思議な感覚が体を走る。
体内に、強いエネルギーのようなものを感じたのだ。
なんだ、これ……?
俺は気になって、苔を次々に食べていった。
すると――
体の奥でエネルギーが弾けたような感覚が走ったかと思うと、背中がパカッと割れ、俺は脱皮を始めていた!
脱皮中は本来、非常に無防備で危険な状態。しかし突然始まったものは仕方がない。
だが、この脱皮――ただの脱皮じゃない。
まず異常なほど早い。そして、脱皮を終えた俺のハサミは、普通のベンケイガニより二回りは大きくなっていた。
もしかして……ここは普通の森じゃない?
異世界? 異世界なのか??
しかもこの世界、食べれば食べるほど強くなる仕様なのか!?
それって、なんて素晴らしい世界だ!
このままいけば、俺はベンケイガニから、すべての海鮮の王に――いや、「蟹界の覇王」になれるかもしれない……!
ありがとう、いるかどうかもわからない神様!
俺はさらなる成長と脱皮を目指し、食えるものを片っ端から食べ始めた――!
最後まで読んでくれて、本当にありがとうございます!
もし、ちょっとでも「面白いじゃん!」と思っていただけたら、 ↓の【★★★★★】を、ポチっと押して応援していただけると、作者が、本気で泣いて喜びます…!
ブックマークも、ぜひぜひ、よろしくお願いします!
また次回、お会いできるのを楽しみにしています!