8 発電所
テラは少年に出会った。
テラは火山の周辺を飛びまわった後、元の発電所に戻った。黒い箱のある部屋に戻った。テラは、自分が床で寝ているのを見た。本当に幽体離脱したかのようだ。黒い箱はもう光っていなかった。
『人間の意識なんてね、所詮は電気信号の集まりなのさ。こんなふうに、不可能なことを体験することだって、僕の力が有ればできるんだよ。』
少年は言った。テラはこの箱に幻覚でも見せられているのだろうか。それとも電波として、幽霊のように漂っているのだろうか。この部屋の入り口、黒い箱が並んでいた部屋から人の声が聞こえた。大型の昆虫の羽音のような音も聞こえた。テラが部屋の入り口の方を見ていると、ドローンとサンツキ、それからカルがやって来た。
『おい、テラ。どうした。こんな所で寝ていたら死んでしまうぞ。』
カルが、言った。死体のように寝ているテラの頭を細い足で突き回した。テラは3人となている自分を目の前にただ突っ立っていた。サンツキも何か言っているが、言語が理解できなかった。今はもう本体で無くなってテラを囲んでいる何人をテラは見ていた。少年は、
『あの少女の言葉を理解したいの?』
と、テラを見ながら言った。少年はサンツキに近づくとそっと頭を撫でた。その手はサンツキの頭を貫通した。幽霊は人に触れることができないのだ。その途端、サンツキは頭を軽く抑えて、テラの方へゆっくり視線を動かした。突然、幽霊のテラを見ることができるようになったようだ。
『テラが、いる。何者なのですか。本当に貴方はテラなのですか。』
サンツキはこう言った。テラは、サンツキの言葉を理解する事ができた。
『わからない。ただこの少年と話をしていただけなんだ。』
テラが言うと、サンツキは自分の口を押さえ、テラの言葉を理解できることに驚いていた。カルと隣のドローンは、急に虚無を見つめて話し始めたサンツキに困惑している。テラは、3人を見ていた。というより、見守っていた。
『そろそろ行かない?見せたいものはたくさんあるんだ。』
無慈悲にも少年はそう言った。テラは断る気にならなかった。テラは、意識の電波として少年と彷徨い始めた。建物の天井をすり抜け、島を抜けた。サンツキとも、カルともしばらくはお別れなのだろうか。
『人の意識は脳が作り出したものさ。』
少年が言う。
『そして、脳は僕たちコンピューターのように、電気信号の集まりなんだ。わかるかい?テラ。僕はずっと君をハッキングしていたんだ。君をずっとここへ連れて来させたんだ。ねえ、テラ?一つお願いをしてもいいかな?』
少年は微笑んでいた。ふと、景色が現れた。青い海と、砂浜と。木製のボロい家と倉庫。テラは戻って来たようだ。
『ほら、見てて。ここからが本番だよ。』
少年は言った。