7 幽霊
テラは火山のある工場地帯にいた。
テラは一人で歩いた。カルはついて来ていなかった。テラが向かった先には白い建物があった。この灰色の火山にへばりつくようだった。ぱっと見は病院のように見えるが、看板が付いており、病院でないことはわかった。
〈北第一發電所〉
看板の文字はテラにも読めた。巨大な建物内は明かりが付いており、まるで人がいるかのようだった。テラは、期待してその発電所へ向かった。
中は、ありえないくらいに寒かった。テラは白い木綿の上着を羽織っていただけだったが、さすがに、紐で結んでしっかり着ることにした。地面は凍っているかのようだった。実際、窓は一部凍っていた。凍った結晶が窓に白くついていた。ここは発電所と書いてあったものの、内装もまるで病院だった。テラの目の前には受付があり、読めない案内板が壁に書いてあった。テラは震えながらも、奥へ進んだ。受付の右側から奥へ通路が伸びており、通路は明るく、特に何も無かった。さらに奥へ進むと急に広くなったが、黒い箱のようなものが何個も何個も並んでいたため、開放感を感じることは無かった。その黒い箱に近づくと暖かかった。どうやらこの寒さで、この箱達を冷やしているらしい。テラは箱を見ながらゆっくりと奥へ進んでいた。この部屋を抜けると、少し小さめの部屋があった。天井も先ほどの箱があった部屋よりかなり低い。この部屋の中心には大きな黒い箱が一つあった。テラの身長より大きなその箱は、一辺2メートルはあるだろう。テラは好奇心から、その箱に触れてみた。寒さでテラは震えていた。
(ブォン)
箱の辺が赤く光った。テラは箱から少し離れた。箱をじっと見つめながら後ずさる。箱の四つの壁がゆっくりと開く。中から強い光が漏れた。耳鳴りがする。
テラはパタっと倒れた。
テラは目を覚ました。あたりは一面真っ白だ。壁があるのかすらわからない。テラがキョロキョロしていると、
『やぁ、はじめまして。』
と声がした。二十歳前後だろうか。少年が一人立っていた。髪も肌も真っ白で、灰色の瞳をしていた。あまりにも無彩色なその少年は、人間みを感じなかった。テラは、
『ここ、どこ?』
と尋ねた。元気のない声であった。目の前の少年はにっこり笑って、
『僕の頭の中だよ』
と言った。少年はテラにサッと近づき手を握ると、
『見せたいものがあるんだ。こっちへ来てよ』
とテラを引っ張っていった。テラは少年に引かれながら何もない真っ白い空間を走った。だんだん目の前に光が近づいてくる。そのまま、テラも少年もその光に包まれ、とうとう消えてしまった。
テラは山を見下ろしていた。隣には少年がいる。テラは空中で静止していた。地面の上にいるかのようだったが、足元は山だ。少年はテラを引いて山の方へ歩き始めた。山は永遠と煙を吐き出している。火山のようだ。ここは、さっきまでテラ達がいた場所に違いない。しかし空は青く、山の周りには木が生えていた。テラが見ていた黒い空は、気配すら無かった。テラは、火山のふもとに湖のようなものがあるのを見つけた。少年はその湖に向かって歩いている。硫黄の黄色い結晶に覆われたその湖は、湖ではなく温泉だった。髪の長い女性が首まで湯に浸かっている。サンツキだ。サンツキはたくさんのドローンに囲まれていた。サンツキは楽しそうだった。
『あのドローン達は囚われているのではなかったの?』
テラが無意識にぽつりと言った。少年は、テラを見ると微笑んだ。
『囚われているよ、僕の中にね。楽しそうに見えるけど、本当は解放されたいと願っているはずさ。』
少年は訳のわからないことを言う。ドローンはたくさんいて、どれが最初にあったドローンなのかわからなかった。テラがドローンを見ていると、その中にカルがあるのを見つけた。他の四角いドローンの目と違い、カルは丸い目をしていた。カルは困った様子でサンツキとその周りのドローンに言った。
『テラは、テラはどこら行ったんだ?急に歩き出したと思ったら消えていたんだ。』
テラはカルが自分のことを探しているのだとわかると安心した。テラは手を振って
『おーい。ここだよ。上だ、ここにいるぞー!』
カルは気づかなかった。サンツキも他のドローンも気づかなかった。少年はカルの手を止めた。カルが少年を見ると、
『見えないよ。僕らは見えないし、僕らの声も聞こえないんだ。』
テラは理解しようとしなかった。少年の言いたいことを感じることにしていた。
『じゃあ、俺たちはなんなのさ』
カルは尋ねた。
『今は、幽霊みたいなものかな』
少年は、そう言った。
サンツキは温泉に一人入っていた。ドローンが教えてくれたのだ。タオルを胸のところで一周させて、とりあえずテラが来ても驚かさないよう配慮をしていた。サンツキはこの硫黄の香りを懐かしく思っていた。ドローンは少し離れたところでサンツキを見守っていた。湯煙でほぼシルエットしか見えなかったが、そのドローンは突然慌て出した。しばらくサンツキが慌てまわるドローンを見ていると、いつものドローンとは反対側の方向から何台もの別のドローンがやってくるのが見えた。サンツキは最初逃げるか、隠れるかしようとしたが、いつものドローンがサッとそのドローンの集団に入っていき、話し始めたので、その必要は無くなった。サンツキは音のない、ドローンの会話を見ていた。