2 都市
不運にも、無人の都市へと流されたテラ。
とても寒い。目の前のビル群は、所々にある赤いライトで照らされ、まるで威圧しているようであった。テラは、その赤いビル群を見たままだ。ビルの窓がライトを反射してキラリと輝いてはいるが、美しいとは思わなかった。暗い中の赤い光は、少し恐怖心を煽った。
『ねえ、ここがどこかわかるか?』
テラは尋ねた。
『圏外さ。さっぱりわからないよ。』
ボートから降りたテラは、少しまわりを探索することにした。ボートは砂浜に乗り上げていた。少し歩くとコンクリートの床にかわり、すぐにアスファルトになった。アスファルトの床は砂まみれで、風が吹けば新しい砂が積もり、元あった砂はどこかに飛ばされていく。テラはその砂の中に一枚の紙のようなプラスチック片を見つけた。
〈祝!ミレニアム3000〉
テラは解読できる限りそれを読んでみようとしたが、他は汚れていたり、見慣れない単語だったりでさっぱりだった。
『ミレニアム…。500年も前のものが、こんなに綺麗に?』
テラはプラスチック片をもって、カルのいる砂浜へ向かった。ここから見た海は真っ黒だった。ふと、風の音の中に何かしらの機械音が聞こえるのがわかった。テラは、カルの元へ急いでそちらへ向かった。何かあったのだろうか。
『そんなに急いでどうしたんだい?何か発見でもあったのか?』
カルは呑気に言う。テラは、息を切らしていた。カルになんの問題もないのだと知ると安心した。しかし、あの機械音はまだ聞こえている。ブーンと、大型の昆虫が飛ぶ時のような音は、少しづつ大きくなっていった。テラは、音に警戒しながらまわりを見ていた。
『どうしたんだい、様子が変ではないか?』
カルは不安そうに言った。
『何か、こっちへ向かっているぞ、あれはなんだ!』
テラは叫んだ。赤いビルの窓の光の中に、不規則に動く黒い点を見つけた。点は、すぐに四角いものへと認識できるほどに近づいた。ドローンのようだ。それは、白いドローンだった。テラは逃げようとしたが、遅かった。テラがその白い箱が四つのプロペラをもつドローンだと認識したその時。ドローンはテラの首を刺した。
麻酔でも打たれたのだろうか。それからの記憶はとびとびで、曖昧で、よくわからない。しかし、今のこの状況を見れば、なんとなくあのドローンがこの建物へ連れ込んだのだということは分かった。テラは、四方をコンクリートで囲まれた、薄暗い部屋にいた。もう使われてないであろう、灰色のベッドの上にいた。
隣にさっきのドローンらしきものがあること以外特に変わった所は無い。テラはそのドローンを見た。コレは本当にさっき見たやつだろうか。動く気配が無い。
ただの白い箱の四隅に赤いプロペラをつけただけのようで、おもちゃみたいだ。テラは、そのドローンに近づき、軽く突いてみた。カンカンと金属っぽい音がする。ドローンは動かない。それから、側面につけられた一つの大きなレンズ(おそらくカメラ)を突いてみた。硬いプラスチックのような音だ。とたん、ドローンからウィーンと小さな音がして、カメラのレンズっぽいところが光った。液晶だったようだ。それからそのドローンは浮き上がり、液晶に映し出された黒い丸でこちらを見た。瞳が現れた。その一つ目の白い箱はこっちをじっと見つめたあと、
『テラ、なのか?』
と聞き覚えのある声で言った。目の前のドローンはカルだったのだ。部屋の外から、ブーンと音がした。どうやら前のドローンがやってくるようだった。テラはじっと、部屋の扉を見つめた。
ミレニアム3000。西暦3000を祝う祭典が役520年前にあった。五大陸はまだ行き来可能で、人々の交流も盛んだったらしい。