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幽霊都市  作者: グルタミンさん
一章 
1/8

1 はじまり

ある夏のこと。

 良い天気だったから、久しぶりに遠くまで行きたくなった。空はいつもより青かった。海辺に住んでいるテラは、よく釣りに行くのだ。テラは自分のややぼろめのボートに釣竿を投げ入れた。そして、朝のきらきらと光る海を見て一呼吸した。


『やあ、今日はどこまで行きたいんだい?』


ボートが言った。

テラは、桟橋の上からボートに話しかけた。


『なんか、久しぶりにあのブイの外に出てみたくなってね。今日はいい日になりそうなんだ。雨も降らなそうだし、お前の通信も安定しそうだし。』


『え?ブイの外だって?何が起こっても知らないぜ?』


テラは少しボートを見つめた。テラは何かを少し考えて、それから何かオールの代わりになりそうなものを探しにいった。テラの家の横には、倉庫があった。どちらも木造で、かなりボロい。テラは倉庫の端の方に埋もれていた鉄製のシャベルを取り出した。錆だらけだが、持ち手は木材で、手が汚れることはなかった。


『とりあえず、こんなものでも持って行っておこうか。』


テラがボートにシャベルを投げ込むと、ボートは結構狭くなった。テラはボートに乗り込んだ。ボートはごちゃごちゃしていて、テラはほとんど動けなかった。


『ほら、シャベルだ。安心したか?もしもの時は、こいつで漕ぐから。』


テラはサビサビのシャベルを持ち上げた。エンジン部分に組み込まれた、そのボートのAIにはカメラが付いていないので、持ち上げても特に意味はない。


『ブイの外か。しょうがないな。』


ボートはそう言うと、すんなり言うことを聞いてくれた。テラの乗ったボートは、ゆっくりと動き出した。



 現在、人はAIとかいうものを実にいろんなことに使っている。このテラのボートもそうだし、家電とか、家具とかも今では友達かのような扱いだ。人々にとってAIとはただの人工知能であり、何を考えているのかわからない道具なのだが。実は、テラにはこのAIというものの思考を読めるのだ。だから、AIには感情がないというのが一般的なこの社会にテラは疑問を持っていたりする。ブイの外へ出たいと言った時、テラはこのボートのAIから不安に似た感情を見た。多くのAIにとって、人間とは仲間である。通信が切れることで、人間に危険があるなんてことは恐ろしいことなのだ。



 ボートは、かなり沖の方まで来た。ブイは目の前だ。あの先からは近くの人工衛星の通信が不安定になる。陸が快晴の時以外は、どんな機械も使えない。テラは一面の青い空を見ながら、滅多にない機会にワクワクしていた。


『ねえ、カル。北の島の都市伝説って知ってる?』


テラはボート(カル)に話しかけた。


『知ってるさ。前回ブイを超える時にもいってなかったっけ?あんなのはつまらない作り話さ。』


北の島の都市伝説とは大雑把に言えば、機械の使える範囲が限られているのは北の島にあったとされる、〈都市〉が電磁波を発しているからだ、というものだ。テラはカルを見た。あはは、少しはありえると思っているんだろうに。カルと何気ない話をしながら、テラはそっと糸を投げた。テラは、しばらく海の底をを覗いていた。


いつのまにか、昼過ぎなっていた。テラは空腹を感じながらも、空を見た。いくつかの黒い雲があった。風も変にあたたかい。テラはまだ何も釣れていなかったが、そろそろ陸に向かわないよいけないようだ。遠くに見える陸地は二種の青色に挟まれ、まだ雲は無かった。


『カル、そろそろ戻ろうか』


テラは糸を引き上げた。


『ねえ、テラ。今ちょっと磁気を感じるんだ。もしかしたら動けなくなるかもしれない。』


カルは、少し不安そうに言った。テラはあたりを見まわし、シャベルを持ち上げた。視界の端に黒い塊が見えた。黒く低い雲がやってきていた。雨を降らしているというのはその下の柱を見ればわかる。


『これは、やばそうだ。』


テラはボートを動かそうとしたが、遅かった。カルは動かなくなった。テラは乗せていた鉄のシャベルでとりあえず漕いだ。あまり意味はなかった。ボートに雨粒が落ちてきて、ぱちぱちと音を鳴らした。音はどんどん大きくなって、視界もどんどん灰色になっていった。

 それからは覚えていない。


『テラ。ねえテラ。』


カルが呼ぶ声で目を覚ました。


『ここは?』


テラはまだ働かない目をこすって、目の前の景色を見た。暗くてよく見えない。目が慣れてくると、少しづつビル群のようなものが浮かび上がってきた。どうやらテラは、この都市に流されてきたようである。

北の島の都市伝説。かつて巨大な都市国家があったそう。突如人々から活動範囲を奪い、謎の磁気圏に閉じ込めたその理由もそこにあるのだという。観測不可地区にあると言われているその都市が、本当にあるかどうかなんてことは、誰も知ることができない。

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