Evergreen
新人マネージャー
「俺らの仕事は、客を楽しませることじゃねーのか!!!」
ジンは、アイドルダンスユニット、「プラネット」のリーダーである。
彼は、いつも悩んでいた。もう一人、「リオ」というメンバーがいるのだが、昨日、他の女性アイドルと、写真で匂わせを行った。
ファンの総称である、ソーダの皆は、女性アイドルを特定し、活動休止まで追い込んだ。だが、リオはどこ吹く風だ。ジンは、その態度が気に入らなかった。
韓国系ラッパーである彼は、心根が熱く、毎日ダンススクールに通って、歌に振付けに、忙しい日々を送っていた。
そんな時のスキャンダルだった。ジンは、心の底からリオを威圧した。
「関係ないでしょー。ジンには。僕は、女の子大好きなんだから」
「だからって、あの同棲匂わせはねーだろ!!! 一緒に住んでねーのに、あのアイドル、お前のこと絶対恨んでる。そんなことしてると、刺されるぞ」
「だから、ジンがいるんじゃん。僕を守ってくれるんでしょ?」
はあ? とジンは思った。何で、俺がスキャンダルの尻ぬぐいをしなきゃいけない。
「ソーダの皆が待ってる。ステージ行くぞ」
「はーい」
今は、全国ツアー中で、最後のホールでパフォーマンスしているところだった。
そして、ステージ上へ。観客席はガラガラ。田舎の、小ホールだった。
そこで、ソーダ! とデコったうちわを持っている、女性ファンがいた。
「リオ。余計なことすんなよ。ただでさえ客が少ねーんだ。誘うな」
「指さしはおっけい???」
「死ぬ気で心酔させろ」
俺らは、パンっと手を合わせると、ダンスを披露する。初めにリオのソロから始まって、ジンがダンスで魅せる。そして、二人が合わさり、バックダンサーも加わって、会場中が一体になる。
その時に、リオが指でビームの形を作り、女性ファンを指さした。
会場がざわめく。わたし? わたし? と嬉しそうな顔をしている。
蜘蛛の巣に蝶はいらない。捕まえる必要もない。ただ、俺らはそっと、罠から逃がすように、誘導していくだけ。
そして、ライブは大成功。はあ、と息をついた。
控室に行くと、雰囲気の緩い、男のマネージャーが、お疲れ様と声を掛けてきた。
いつもの無糖の炭酸水と、ツナマヨのおにぎりが二個ずつ。このホールは、アイドルの食事にお金をかけないらしい。その割には、照明とか、動画投稿サイトに上げる用のカメラに、かなりお金をかけていた。
そこら辺、マニアックだなと思った。
「お疲れ様でした~」
「うん! 楽しかった! 可愛い女の子もいたしね!」
「おい、リオ。いい加減にしろ」
悩みの種は尽きそうにない。
あの小ホールから五年。あの指さした女性は、制服だったので、もう成人式を迎えた頃だろうか。
そんな時、男のマネージャーが、卒業することになった。
「おい! それはどういうことだよ!!! 俺らは解散すんのか!?」
「ジン、黙ってて」
マネージャーは、ゆっくりと口を開く。
「後任をもう、決めてあるんだ。君たち、ビジュアルは良いんだけどね~何せ、ソーダの皆は、真面目な人が多いからねえ。会社を休んでまで、君たちのライブを観に来てる。僕は、歳だから、若い子に後のことは任せるよお~」
「まだ四十じゃねーか!!!」
ジンの突っ込みが炸裂する。
「俺、あんただから全部安心して任せてこれたんだ。後任には、厳しくするぜ」
「ジン!」
「そこら辺は安心して~。女性だけど、しっかり者だから」
「それ、さりげなく差別発言してません?」
「ちょっと、おっとりしてるんだ~、彼女」
「へえ」
そして、扉の向こうから、スニーカーの軽やかな音がする。鞄を背負って走っている音も。
バンッ!!!
「遅れてすみませんでしたぁあああああ!!!!!!」
おっとり? 忙しないの間違いじゃないだろうか。
「明日葉成愛です!!! よろしくお願いします!!!」
見た目は、ショートボブの黒髪。前髪をゴムで結いでいて、おでこ丸出しだ。
でこからは汗が滲み、急いで向かってきたのだろうことが伺える。
「良い子そうじゃん? ジン」
「ああ……」
だが、ジンの目は冷たいままだ。信用していないのだろう。
「あの、覚えてませんか? 私が学生の頃、小ホールにプラネットが来て、ライブがあって。私、感動したんです。それで、ずっと、マネージャーになりたくて、勉強してきました」
「学歴は?」
「短大卒です。幼児教育科の」
「へえ、子どもの扱い上手いなんて、僕らの扱いも上手そうだよねー?」
「リオだけだろ。それにしても……」
まだ、スキャンダルの火種が燻っている。女性アイドルは、事務所を退所したらしい。
そして、芸名で暴露動画を上げ始めた。本人が、スタッフと手を組んで。
宣戦布告である。
「あれは……かなり、恨んでますね。ネットにも、検証動画上がってますし。コメントも大荒れです。しばらくは、活動は控えた方がいいかと」
「俺は、ソロで活動も考えてる」
リオを切るか。炎上しているのは、彼だけなのだ。むしろ、ソーダの皆は、ジンの身を案じる投稿ばかりしている。これだと、ユニットは不仲だと決めつけられ、新規の客も去っていく。
「リオ、成愛と行動を共にして、鍛えてもらえ。各事務所に、謝って回るんだ」
「誠意を見せないと、ですね!」
「えー、めんどくさーい」
「おい。リオ、そういうところだぞ」
しょうがなくといったリオの態度に、呆れるジンだった。
ドキドキする心臓。新しい仲間に出会える予感。緊張で胸が張り裂けそうだ。先生が2-Bの扉をノックして、中に入る。まずはいつも通りのホームルームが始まった。そして、名前を呼ばれ、成愛も中に入る。
「失礼します!」
なるべく礼儀正しくを意識した、窓の光が目に降りかかってきて、ぎゅっとまぶたを瞑る。
「明日葉さん?」
名を呼ばれ、はっと目が覚める。周りを見渡すと、複数の生徒の目が成愛を見つめていた。
「は、はい!」
壇上に上がり、自分で、チョークで黒板に名前を書いていく。
「明日葉成愛っていいます。よろしくお願いします」
何もひねりのない挨拶。面白くないやつって、思われないかな?
「あ!」
と声を上げられた。校門前で会った、ヘッドフォンの青年だった。
「あ、その節はどうも……」
皆の目があり、緊張で手で目元を隠しながら話した。
「なにそれ、うける」
「カノー、友達?」
「そうそう」
カノと呼ばれた青年は、俺は、と名乗った。
「篠崎カノ、ね」
よろしく、と言われた。
周りに生徒が集まることもなく。成愛は、席にぽつんとしていた。
よくあるアニメのような、周りに生徒が集まり、質問攻め、ということもなく。
静かに毎時間を終えていく。
放課後。篠崎が話しかけてきた。
「成愛ちゃんさぁ、この学園に、何しに来たん?」
「え?」
何を言うかと思えば、そんなこと。
親の転勤で、ここ、紅麗学園にやって来た。それだけ。
「……私は、ただの転校生だよ」
何もできない。取り留めて大きな特技もなければ、明るいのが取り柄だけの、普通の女子高生。
それが、友達がいなくなった途端に、借りた猫みたいに大人しくなっている。
友達の作り方がわからない。どう話しかければいいのか。
「一緒に帰ろ」
「うん」
成愛は、篠崎に連れられ、紅麗学園を出た。
ここは寮になっていて、女子寮と男子寮がある。
彼女は女子寮の一人部屋だ。親が金持ちでもないのに、何で一人なのか。
他の部屋は、二人部屋が多かったのに。
石畳の上を歩いていく。篠崎は、歩いているだけでも目立つ。
劣等感。成愛に持っていないものを、彼は全て持っている気がした。
緑色の屋根の建物、神楽殿である。そんなに大きくもなく、祭祀で生徒がお参りをするらしい。
二人は、近くにあった小さな祠に行き、お賽銭を入れた。
『学園生活が、上手くいきますように』
心の中で、それだけ祈った。祠で祈るようなものじゃないかもしれないけど。
他の人がどんなことを考えて、思っているのかわからないから。
隣りの篠崎も、目を瞑って、祈っていた。
彼らしくないなと思った。意外な一面だ。
「何を考えたの?」
「何でもええやんけ」
ぷいっと顔を背けられてしまった。ツンデレだろうか。
仲良くなるのは時間がかかる。それは、わかっていたことだ。
涙が落ちそうになる。独りぼっちだ。
すると、篠崎がぎゅっと手を握ってくる。成愛は、なぜかそれを振り払えないでいた。
振り払えないでいたのではない。『振り払えないのだ』
力が強すぎる。
「篠崎くん! 痛いよ……」
「ああ、悪ぃ」
ぱっと手を離される。というより、顔が真っ赤だ。
「あーーー!!! なにやってんだ俺!!! 初めてお前を見た時、変な感じがして……」
成愛は頭を傾げる。鈍感のバカ野郎ーーー!!! と目の前で叫ばれた。
目の前に海が見える。石に片足乗っけて、わーわー言っている(ように見える)
「俺、寮に帰るけ!!! じゃあ、また明日学校で!!!!!」
「へ? う、うん」
はぁ、と溜息をつく。成愛も寮に帰ろうとした、その時だ。神楽殿の方向から、音が聞こえた。試しに覗いて見ると、宙に渦を巻いたものから、声が聞こえた。
『私は、アメリア。貴方のことを呼んでるの』
「は!?」
意味がわからない。アメリアって誰!?!? しかも、聞こえているのは、私だけ?
「えっと、私のこと?」
『そう。明日葉』
姿は見えないが、可愛らしい声の、ハイトーンボイスだ。しかも、呼び捨てにされてしまった。
『渦に入って来て』
「えええ???」
某さくらちゃんのほえぇボイスが、頭を駆け抜けた。だからといって、死地に簡単に踏み込む成愛ではない。
『早く入って来なさいよ!!! こっちは展開進むの待ってんのよ!!!』
「すみませんでしたぁああああああ」
渦に飲み込まれていく。そして、目の前に広がる景色は……真っ暗。一言で言うと。
でも、ジャンプすると、光が立ち上って辺りが見える。そして、明かりが点灯していく。
よく見ると、目の前にいるのは、私???
氷に覆われている。そして、寒い。ひたすらに、寒い。私の姿は???
氷が反射して、一瞬光が当たる。灰色の髪をした、美少年だった。
え、これ、わたし?
「リオ、来た」
「貴方は……アメリア?」
「そう。おめでとう、ありがとう、リオ」
緑色をした髪の少女に、泣きつかれてしまった。
明日葉の親も、私が生まれた当初は、こういう気持ちだったの? とか、そう思った。
アメリアはそっと離れると、成愛の目を見つめる。そのままキスをしそうな距離まで近付かれた時、ばっとリオは離れた。
身体は少年だが、中身は女子高生なのだ。普通に規約違反だろ!? と、複雑怪奇だった。
「何で離れる、です?」
「なに、何なわけ、前世で恋人同士だったとか!?」
「違う、これ」
手元には、ルビーの付いたピアス。穴を開けるタイプのものではなく、イヤーカフのような、身に着けるタイプのものだ。
「これは、神楽殿と繋がってる、です。クロノスに会わせる」
「意味がわからないんですけど!?!?」
そのままズルズルと引き摺られ、ちょっとぉおおおお!!! という、リオの叫び声だけが響いていた。
なぜかリオという名前になった成愛。イヤーカフを渡され、クロノスの元へやって来た。
彼女は、長い黒髪の女性だった。同じ黒のドレスに身を包み、下のほうはウェーブがかっている。それは、髪の毛も同じで、色気のあるお姉さんだ。
胸の辺りをぱっくり割れた服からは、小さな膨らみが見え、少しばかり目を逸らしてしまう。
「あらー、二人とも、何か用?」
仕事中だろうか。眼鏡をかけて、書類仕事をしている。
「アメリア、クロノス」
「アメリアちゃんねー……って、アメリアちゃん!?!?!?」
がたっと音が聞こえた。椅子が倒れ、ばたばたと駆け寄ってきた。
「久しぶりね!!! 今、新しいパラレルの研究をしてたところで……」
そして、リオの方を見て、あら、という顔をした。
「@#$%^&*(()_+!!!!!!!!」
な、なんて?
「び、美少年じゃないの……ありがとう、目の保養だわ……」
もしかして、危ないお姉さんだったりする??? 少しばかり警戒すると、クロノスは咳ばらいをした。
「私もプロだから、このくらいの出会い、気にしないわよ!!!」
最近彼氏と別れたらしい、とアメリアから聞いた。
「クロノス、彼とピアスで繋がってるの。学園に戻ってからも、サポートしてあげる、です」
「合点承知のすけよ! リオ、学園では明日葉成愛で、女の子なのね。珍しいわね、性別が現実世界と違うなんて」
「クロノスの願望が入ってる、です」
「あはは! そうかもね!」
何だか気の良さそうなお姉さんだ……。内面を見せられ、ころころとクロノスへのイメージが変わっていく。
「じゃあ、リオ。クロノスへの挨拶も終わったから、学園に戻る、です」
「う、うん」
じゃあねー、とクロノスと別れ、元の渦を通り、学園へ戻ってきた。
その時、アメリアは付いてこなかった。姿も元に戻り、普通の成愛だ。違うと言えば、耳に着けた、イヤーカフだろうか。
眠い。ひたすらに眠い。詳しいことは、また神楽殿に行ってから考えようと、寮に向かった「私」だった。
寮の中は、一言で言えば、豪華絢爛。すごくお金かかってそう。寮の食事は、専門の栄養士が考え、皆が同じものを取る。入学時に渡されたのは、ホワイトカードという、白いカードで、個人情報もこれに全て入っている。
お金の引き落としもここからで、親が名義になっていた。でも、無駄遣いしなければ、そんなにお金もかからないし、結構過ごしやすい。
成愛は目立つのか、周りの生徒がじろじろと見てくる。
何かしたっけ。いや、してない。裏で動いている人物がいる。でも、女子寮ではない。もしかして、男子寮で何かあった? 最初に浮かんだのは、篠崎カノ。友人も多いし、何か吹聴して回ったに違いない。
わたし、目立つの嫌いなんだけどな。もしかして、気付いていないだけで、そういう行動を取っているとか? わからない。
食事をしながら考えていると、イヤーカフから声が聞こえた。
『リオ! そっちでは、成愛ちゃんね! 寮での生活はどう?』
軽く噴き出した。もろ聞こえてくるじゃん。ごほごほ言いながら、部屋に向かった。
「クロノス、だよね。昨日会ったばかりの」
『うん! 篠崎くんに会った?』
「今日はまだだけど」
『その時に、ある人を紹介されると思うわ。貴方によく似た、可愛い男の子よ』
「私は女だって」
『どっちでもいいじゃない! 今は、トランスジェンダーの時代よ? 私も、リオと恋人同士になる可能性も……』
「なに?」
『な、何でもないわ!!! じゃあ、また学校終わりに、感想を聞かせてね!』
感想ってなんの……。怠いなあと、通話を切った。
寮の部屋の外に出ると、ある紙が落ちていた。
『明日葉ちゃんへ 竜星リオって言います! 詳しいことは、篠崎から聞いてます! 昨日、神楽殿から黄泉の門へ行き、帝都カルデアへ行った、成愛ちゃんのことも。そこで、クロノスと出会うんだよね。僕は、星詠みっていう、相手の行動を占う特技があるから、わかったんだけどね。女子寮の前で待ってるよ!!!』
竜星? 聞いたことがない名だ。篠崎の友人だろうか。個人情報が事細かに書かれていて、恐ろしさに震え上がりそうだった。
ストーカー……じゃないよね? しかも、女子の誰かに頼んだのだろう。じゃないと、女子寮に手紙を置くことは不可能なはずだ。
しかも、それを了承されている。少なからずとも、女子にも人気の人物ということだ。
「朝ごはん、食べにいこう」
手紙を片手に、眠気まなこで、食堂に向かった。
簡単な軽食を終えると、登校の時刻がやって来た。竜星に会おう。寮の外に出ると、人だかりが出来ていた。
見た目は茶髪。ウルフカットだ。片耳には、穴の開いたピアス。チャラそうだなと思った。周りには大勢の女生徒たち。
その子が、私を見て、おーい、と手を上げた。
「成愛ちゃーん! 竜星だよー!」
わんわん、と声が聞こえてきそうだ。いかにも、わんこ系男子である。
すると、周りの女性徒たちにギロッと睨まれた。居心地が悪い。
「やっと会えたね! ほんとは、カノより先に会いたかったんだけど」
「はあ……」
「一緒に登校しよ!」
手を掴まれて、一緒に走った。ドタバタと。
すると、篠崎がいるのが見えた。友人同士で会話をしている。
「カノー!!! 成愛ちゃん発見したーーー!!!」
「おお! おはようさん」
にかっと笑う、篠崎。少しだけ、昨日手を握られたことを思い出し、手をそっと見た。
「な、なんやねん」
「いや、別に」
こしょばい気持ちが全身を駆け抜ける。だが、この後、教室である人物と出くわすのだった……。
なんと、成愛の教室に、「ジン」が転校してきた。
篠崎の話によると、父親が学園の理事長らしく、そこら辺、融通が利くそうだ。
「ジン、久しぶり……」
「……」
気まずい。クラスの皆も、固唾を飲んで見守っている。
すると、あーーー!!! と目の前で叫ばれ、頭をぐしゃぐしゃしている。
夢の中と現実が交錯し、明晰夢でパラレルワールドで、死者に会えると言われ、改めて、妄想の怖さを思い知る。
イヤーカフなんて、持ってない。現実じゃない。
高校生活も、紅麗学園なんて、知らない。地名を調べてみても、どこにも存在しない高校名だった。
やはり、精神科のお世話になるくらいなのだ。現実のストレスに耐え切れず、妄想を現実と勘違いしてしまった。
成愛は、プラネットのマネージャー。これは、変わらない事実だ。
今日も、事務所に出勤する。
すると、そこにはジンがいた。
「おう」
「おはよう、ジン。早いね」
「お前、マネージャー、向いてないんじゃねーの?」
「え?」
「プロデューサーだろ、仕事内容的に」
え、アイドルのプロデューサー? 私が?
「転職届け、出してみれば?」
「う、うん……」
もしかして、ストレスの原因はこれ? 仕事に合っていないことをやり続けたせいで、心を壊してしまったのか。
前のマネージャーに連絡を取り、相談してみると、すぐに事務所に来てくれた。
「明日葉さん~、お久しぶりです~」
「はい!」
「そう畏まらないで下さい~。マネージャー業務とプロデューサー業務を、並行してやっていたみたいですね」
「そうですか……」
「僕が、別の案件がひと段落付きそうなので、マネージャー、やりますよ~」
「ぜひ、お願いします!!!」
そうして、新マネージャーは、前任のマネージャーに代わることになり、成愛は新人プロデューサーになった。
プロデューサーは、現場よりスポンサーや広告代理店と、関わることの多い職種である。ネットで調べて得た知識だ。
全く新人で、何もかもわからなくて。現実世界でも、夢の中でも、頭の中は常にごちゃごちゃで。
マネージャーとは違うということで、アイドルたちと関わることも少なくなるのかなあと、寂しく感じた。
そして、数日後、大手アイドル事務所が連絡してきた。
それは、原因不明の夢遊病に関する話だった。ゆめのなかであそぶと書いて、夢遊病。ここでは、明晰夢と違った、夢の中であるモンスターが登場するのだという。
それに喰われると、一生眠ったままなのだとか。今、現代社会で流行している病の一つでもあった。