表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Evergreen

作者: 沢城あおい

新人マネージャー

「俺らの仕事は、客を楽しませることじゃねーのか!!!」


 ジンは、アイドルダンスユニット、「プラネット」のリーダーである。

 彼は、いつも悩んでいた。もう一人、「リオ」というメンバーがいるのだが、昨日、他の女性アイドルと、写真で匂わせを行った。


 ファンの総称である、ソーダの皆は、女性アイドルを特定し、活動休止まで追い込んだ。だが、リオはどこ吹く風だ。ジンは、その態度が気に入らなかった。

 韓国系ラッパーである彼は、心根が熱く、毎日ダンススクールに通って、歌に振付けに、忙しい日々を送っていた。


 そんな時のスキャンダルだった。ジンは、心の底からリオを威圧した。


「関係ないでしょー。ジンには。僕は、女の子大好きなんだから」

「だからって、あの同棲匂わせはねーだろ!!! 一緒に住んでねーのに、あのアイドル、お前のこと絶対恨んでる。そんなことしてると、刺されるぞ」

「だから、ジンがいるんじゃん。僕を守ってくれるんでしょ?」


 はあ? とジンは思った。何で、俺がスキャンダルの尻ぬぐいをしなきゃいけない。


「ソーダの皆が待ってる。ステージ行くぞ」

「はーい」


 今は、全国ツアー中で、最後のホールでパフォーマンスしているところだった。

 そして、ステージ上へ。観客席はガラガラ。田舎の、小ホールだった。

 そこで、ソーダ! とデコったうちわを持っている、女性ファンがいた。


「リオ。余計なことすんなよ。ただでさえ客が少ねーんだ。誘うな」

「指さしはおっけい???」

「死ぬ気で心酔させろ」


 俺らは、パンっと手を合わせると、ダンスを披露する。初めにリオのソロから始まって、ジンがダンスで魅せる。そして、二人が合わさり、バックダンサーも加わって、会場中が一体になる。

 その時に、リオが指でビームの形を作り、女性ファンを指さした。


 会場がざわめく。わたし? わたし? と嬉しそうな顔をしている。

 蜘蛛の巣に蝶はいらない。捕まえる必要もない。ただ、俺らはそっと、罠から逃がすように、誘導していくだけ。


 そして、ライブは大成功。はあ、と息をついた。

 控室に行くと、雰囲気の緩い、男のマネージャーが、お疲れ様と声を掛けてきた。

 いつもの無糖の炭酸水と、ツナマヨのおにぎりが二個ずつ。このホールは、アイドルの食事にお金をかけないらしい。その割には、照明とか、動画投稿サイトに上げる用のカメラに、かなりお金をかけていた。


 そこら辺、マニアックだなと思った。


「お疲れ様でした~」

「うん! 楽しかった! 可愛い女の子もいたしね!」

「おい、リオ。いい加減にしろ」


 悩みの種は尽きそうにない。


 あの小ホールから五年。あの指さした女性は、制服だったので、もう成人式を迎えた頃だろうか。

 そんな時、男のマネージャーが、卒業することになった。


「おい! それはどういうことだよ!!! 俺らは解散すんのか!?」

「ジン、黙ってて」


 マネージャーは、ゆっくりと口を開く。


「後任をもう、決めてあるんだ。君たち、ビジュアルは良いんだけどね~何せ、ソーダの皆は、真面目な人が多いからねえ。会社を休んでまで、君たちのライブを観に来てる。僕は、歳だから、若い子に後のことは任せるよお~」

「まだ四十じゃねーか!!!」


 ジンの突っ込みが炸裂する。


「俺、あんただから全部安心して任せてこれたんだ。後任には、厳しくするぜ」

「ジン!」

「そこら辺は安心して~。女性だけど、しっかり者だから」

「それ、さりげなく差別発言してません?」

「ちょっと、おっとりしてるんだ~、彼女」

「へえ」


 そして、扉の向こうから、スニーカーの軽やかな音がする。鞄を背負って走っている音も。

 バンッ!!!


「遅れてすみませんでしたぁあああああ!!!!!!」


 おっとり? 忙しないの間違いじゃないだろうか。


明日葉成愛あすはなるあです!!! よろしくお願いします!!!」


 見た目は、ショートボブの黒髪。前髪をゴムで結いでいて、おでこ丸出しだ。

 でこからは汗が滲み、急いで向かってきたのだろうことが伺える。


「良い子そうじゃん? ジン」

「ああ……」


 だが、ジンの目は冷たいままだ。信用していないのだろう。


「あの、覚えてませんか? 私が学生の頃、小ホールにプラネットが来て、ライブがあって。私、感動したんです。それで、ずっと、マネージャーになりたくて、勉強してきました」

「学歴は?」

「短大卒です。幼児教育科の」

「へえ、子どもの扱い上手いなんて、僕らの扱いも上手そうだよねー?」

「リオだけだろ。それにしても……」


 まだ、スキャンダルの火種が燻っている。女性アイドルは、事務所を退所したらしい。

 そして、芸名で暴露動画を上げ始めた。本人が、スタッフと手を組んで。

 宣戦布告である。


「あれは……かなり、恨んでますね。ネットにも、検証動画上がってますし。コメントも大荒れです。しばらくは、活動は控えた方がいいかと」

「俺は、ソロで活動も考えてる」


 リオを切るか。炎上しているのは、彼だけなのだ。むしろ、ソーダの皆は、ジンの身を案じる投稿ばかりしている。これだと、ユニットは不仲だと決めつけられ、新規の客も去っていく。


「リオ、成愛と行動を共にして、鍛えてもらえ。各事務所に、謝って回るんだ」

「誠意を見せないと、ですね!」

「えー、めんどくさーい」

「おい。リオ、そういうところだぞ」


 しょうがなくといったリオの態度に、呆れるジンだった。


 ドキドキする心臓。新しい仲間に出会える予感。緊張で胸が張り裂けそうだ。先生が2-Bの扉をノックして、中に入る。まずはいつも通りのホームルームが始まった。そして、名前を呼ばれ、成愛も中に入る。


「失礼します!」


 なるべく礼儀正しくを意識した、窓の光が目に降りかかってきて、ぎゅっとまぶたを瞑る。


「明日葉さん?」


 名を呼ばれ、はっと目が覚める。周りを見渡すと、複数の生徒の目が成愛を見つめていた。


「は、はい!」


 壇上に上がり、自分で、チョークで黒板に名前を書いていく。


「明日葉成愛っていいます。よろしくお願いします」


 何もひねりのない挨拶。面白くないやつって、思われないかな?


「あ!」


 と声を上げられた。校門前で会った、ヘッドフォンの青年だった。


「あ、その節はどうも……」


 皆の目があり、緊張で手で目元を隠しながら話した。


「なにそれ、うける」

「カノー、友達?」

「そうそう」


 カノと呼ばれた青年は、俺は、と名乗った。


篠崎しのざきカノ、ね」


 よろしく、と言われた。


 周りに生徒が集まることもなく。成愛は、席にぽつんとしていた。

 よくあるアニメのような、周りに生徒が集まり、質問攻め、ということもなく。

 静かに毎時間を終えていく。


 放課後。篠崎が話しかけてきた。


「成愛ちゃんさぁ、この学園に、何しに来たん?」

「え?」


 何を言うかと思えば、そんなこと。

 親の転勤で、ここ、紅麗学園にやって来た。それだけ。


「……私は、ただの転校生だよ」


 何もできない。取り留めて大きな特技もなければ、明るいのが取り柄だけの、普通の女子高生。

 それが、友達がいなくなった途端に、借りた猫みたいに大人しくなっている。


 友達の作り方がわからない。どう話しかければいいのか。


「一緒に帰ろ」

「うん」


 成愛は、篠崎に連れられ、紅麗学園を出た。


 ここは寮になっていて、女子寮と男子寮がある。

 彼女は女子寮の一人部屋だ。親が金持ちでもないのに、何で一人なのか。

 他の部屋は、二人部屋が多かったのに。


 石畳の上を歩いていく。篠崎は、歩いているだけでも目立つ。

 劣等感。成愛に持っていないものを、彼は全て持っている気がした。


 緑色の屋根の建物、神楽殿である。そんなに大きくもなく、祭祀で生徒がお参りをするらしい。


 二人は、近くにあった小さな祠に行き、お賽銭を入れた。


『学園生活が、上手くいきますように』


 心の中で、それだけ祈った。祠で祈るようなものじゃないかもしれないけど。

 他の人がどんなことを考えて、思っているのかわからないから。


 隣りの篠崎も、目を瞑って、祈っていた。

 彼らしくないなと思った。意外な一面だ。


「何を考えたの?」

「何でもええやんけ」


 ぷいっと顔を背けられてしまった。ツンデレだろうか。

 仲良くなるのは時間がかかる。それは、わかっていたことだ。


 涙が落ちそうになる。独りぼっちだ。

 すると、篠崎がぎゅっと手を握ってくる。成愛は、なぜかそれを振り払えないでいた。


 振り払えないでいたのではない。『振り払えないのだ』

 力が強すぎる。


「篠崎くん! 痛いよ……」

「ああ、悪ぃ」


 ぱっと手を離される。というより、顔が真っ赤だ。


「あーーー!!! なにやってんだ俺!!! 初めてお前を見た時、変な感じがして……」


 成愛は頭を傾げる。鈍感のバカ野郎ーーー!!! と目の前で叫ばれた。

 目の前に海が見える。石に片足乗っけて、わーわー言っている(ように見える)


「俺、寮に帰るけ!!! じゃあ、また明日学校で!!!!!」

「へ? う、うん」


 はぁ、と溜息をつく。成愛も寮に帰ろうとした、その時だ。神楽殿の方向から、音が聞こえた。試しに覗いて見ると、宙に渦を巻いたものから、声が聞こえた。


『私は、アメリア。貴方のことを呼んでるの』

「は!?」


 意味がわからない。アメリアって誰!?!? しかも、聞こえているのは、私だけ?


「えっと、私のこと?」

『そう。明日葉』


 姿は見えないが、可愛らしい声の、ハイトーンボイスだ。しかも、呼び捨てにされてしまった。


『渦に入って来て』

「えええ???」


 某さくらちゃんのほえぇボイスが、頭を駆け抜けた。だからといって、死地に簡単に踏み込む成愛ではない。


『早く入って来なさいよ!!! こっちは展開進むの待ってんのよ!!!』

「すみませんでしたぁああああああ」


 渦に飲み込まれていく。そして、目の前に広がる景色は……真っ暗。一言で言うと。

 でも、ジャンプすると、光が立ち上って辺りが見える。そして、明かりが点灯していく。

 よく見ると、目の前にいるのは、私???

 氷に覆われている。そして、寒い。ひたすらに、寒い。私の姿は???


 氷が反射して、一瞬光が当たる。灰色の髪をした、美少年だった。

 え、これ、わたし?


「リオ、来た」

「貴方は……アメリア?」

「そう。おめでとう、ありがとう、リオ」


 緑色をした髪の少女に、泣きつかれてしまった。

 明日葉の親も、私が生まれた当初は、こういう気持ちだったの? とか、そう思った。


 アメリアはそっと離れると、成愛リオの目を見つめる。そのままキスをしそうな距離まで近付かれた時、ばっとリオは離れた。

 身体は少年だが、中身は女子高生なのだ。普通に規約違反だろ!? と、複雑怪奇だった。


「何で離れる、です?」

「なに、何なわけ、前世で恋人同士だったとか!?」

「違う、これ」


 手元には、ルビーの付いたピアス。穴を開けるタイプのものではなく、イヤーカフのような、身に着けるタイプのものだ。


「これは、神楽殿と繋がってる、です。クロノスに会わせる」

「意味がわからないんですけど!?!?」


 そのままズルズルと引き摺られ、ちょっとぉおおおお!!! という、リオの叫び声だけが響いていた。


 なぜかリオという名前になった成愛。イヤーカフを渡され、クロノスの元へやって来た。

 彼女は、長い黒髪の女性だった。同じ黒のドレスに身を包み、下のほうはウェーブがかっている。それは、髪の毛も同じで、色気のあるお姉さんだ。

 胸の辺りをぱっくり割れた服からは、小さな膨らみが見え、少しばかり目を逸らしてしまう。


「あらー、二人とも、何か用?」


 仕事中だろうか。眼鏡をかけて、書類仕事をしている。


「アメリア、クロノス」

「アメリアちゃんねー……って、アメリアちゃん!?!?!?」


 がたっと音が聞こえた。椅子が倒れ、ばたばたと駆け寄ってきた。


「久しぶりね!!! 今、新しいパラレルの研究をしてたところで……」


 そして、リオの方を見て、あら、という顔をした。


「@#$%^&*(()_+!!!!!!!!」


 な、なんて?


「び、美少年じゃないの……ありがとう、目の保養だわ……」


 もしかして、危ないお姉さんだったりする??? 少しばかり警戒すると、クロノスは咳ばらいをした。


「私もプロだから、このくらいの出会い、気にしないわよ!!!」


 最近彼氏と別れたらしい、とアメリアから聞いた。


「クロノス、彼とピアスで繋がってるの。学園に戻ってからも、サポートしてあげる、です」

「合点承知のすけよ! リオ、学園では明日葉成愛で、女の子なのね。珍しいわね、性別が現実世界と違うなんて」

「クロノスの願望が入ってる、です」

「あはは! そうかもね!」


 何だか気の良さそうなお姉さんだ……。内面を見せられ、ころころとクロノスへのイメージが変わっていく。


「じゃあ、リオ。クロノスへの挨拶も終わったから、学園に戻る、です」

「う、うん」


 じゃあねー、とクロノスと別れ、元の渦を通り、学園へ戻ってきた。

 その時、アメリアは付いてこなかった。姿も元に戻り、普通の成愛だ。違うと言えば、耳に着けた、イヤーカフだろうか。


 眠い。ひたすらに眠い。詳しいことは、また神楽殿に行ってから考えようと、寮に向かった「私」だった。


 寮の中は、一言で言えば、豪華絢爛。すごくお金かかってそう。寮の食事は、専門の栄養士が考え、皆が同じものを取る。入学時に渡されたのは、ホワイトカードという、白いカードで、個人情報もこれに全て入っている。


 お金の引き落としもここからで、親が名義になっていた。でも、無駄遣いしなければ、そんなにお金もかからないし、結構過ごしやすい。

 成愛は目立つのか、周りの生徒がじろじろと見てくる。

 何かしたっけ。いや、してない。裏で動いている人物がいる。でも、女子寮ではない。もしかして、男子寮で何かあった? 最初に浮かんだのは、篠崎カノ。友人も多いし、何か吹聴して回ったに違いない。


 わたし、目立つの嫌いなんだけどな。もしかして、気付いていないだけで、そういう行動を取っているとか? わからない。


 食事をしながら考えていると、イヤーカフから声が聞こえた。


『リオ! そっちでは、成愛ちゃんね! 寮での生活はどう?』


 軽く噴き出した。もろ聞こえてくるじゃん。ごほごほ言いながら、部屋に向かった。


「クロノス、だよね。昨日会ったばかりの」

『うん! 篠崎くんに会った?』

「今日はまだだけど」

『その時に、ある人を紹介されると思うわ。貴方によく似た、可愛い男の子よ』

「私は女だって」

『どっちでもいいじゃない! 今は、トランスジェンダーの時代よ? 私も、リオと恋人同士になる可能性も……』

「なに?」

『な、何でもないわ!!! じゃあ、また学校終わりに、感想を聞かせてね!』


 感想ってなんの……。怠いなあと、通話を切った。


 寮の部屋の外に出ると、ある紙が落ちていた。


『明日葉ちゃんへ 竜星りゅうせいリオって言います! 詳しいことは、篠崎から聞いてます! 昨日、神楽殿から黄泉よみの門へ行き、帝都カルデアへ行った、成愛ちゃんのことも。そこで、クロノスと出会うんだよね。僕は、星詠みっていう、相手の行動を占う特技があるから、わかったんだけどね。女子寮の前で待ってるよ!!!』


 竜星? 聞いたことがない名だ。篠崎の友人だろうか。個人情報が事細かに書かれていて、恐ろしさに震え上がりそうだった。

 ストーカー……じゃないよね? しかも、女子の誰かに頼んだのだろう。じゃないと、女子寮に手紙を置くことは不可能なはずだ。


 しかも、それを了承されている。少なからずとも、女子にも人気の人物ということだ。


「朝ごはん、食べにいこう」


 手紙を片手に、眠気まなこで、食堂に向かった。


 簡単な軽食を終えると、登校の時刻がやって来た。竜星に会おう。寮の外に出ると、人だかりが出来ていた。


 見た目は茶髪。ウルフカットだ。片耳には、穴の開いたピアス。チャラそうだなと思った。周りには大勢の女生徒たち。


 その子が、私を見て、おーい、と手を上げた。


「成愛ちゃーん! 竜星だよー!」


 わんわん、と声が聞こえてきそうだ。いかにも、わんこ系男子である。

 すると、周りの女性徒たちにギロッと睨まれた。居心地が悪い。


「やっと会えたね! ほんとは、カノより先に会いたかったんだけど」

「はあ……」

「一緒に登校しよ!」


 手を掴まれて、一緒に走った。ドタバタと。

 すると、篠崎がいるのが見えた。友人同士で会話をしている。


「カノー!!! 成愛ちゃん発見したーーー!!!」

「おお! おはようさん」


 にかっと笑う、篠崎。少しだけ、昨日手を握られたことを思い出し、手をそっと見た。


「な、なんやねん」

「いや、別に」


 こしょばい気持ちが全身を駆け抜ける。だが、この後、教室である人物と出くわすのだった……。


 なんと、成愛の教室に、「ジン」が転校してきた。

 篠崎の話によると、父親が学園の理事長らしく、そこら辺、融通が利くそうだ。


「ジン、久しぶり……」

「……」


 気まずい。クラスの皆も、固唾を飲んで見守っている。

 すると、あーーー!!! と目の前で叫ばれ、頭をぐしゃぐしゃしている。


 夢の中と現実が交錯し、明晰夢でパラレルワールドで、死者に会えると言われ、改めて、妄想の怖さを思い知る。

 イヤーカフなんて、持ってない。現実じゃない。

 高校生活も、紅麗学園なんて、知らない。地名を調べてみても、どこにも存在しない高校名だった。


 やはり、精神科のお世話になるくらいなのだ。現実のストレスに耐え切れず、妄想を現実と勘違いしてしまった。

 成愛は、プラネットのマネージャー。これは、変わらない事実だ。


 今日も、事務所に出勤する。

 すると、そこにはジンがいた。


「おう」

「おはよう、ジン。早いね」

「お前、マネージャー、向いてないんじゃねーの?」

「え?」

「プロデューサーだろ、仕事内容的に」


 え、アイドルのプロデューサー? 私が?


「転職届け、出してみれば?」

「う、うん……」


 もしかして、ストレスの原因はこれ? 仕事に合っていないことをやり続けたせいで、心を壊してしまったのか。

 前のマネージャーに連絡を取り、相談してみると、すぐに事務所に来てくれた。


「明日葉さん~、お久しぶりです~」

「はい!」

「そう畏まらないで下さい~。マネージャー業務とプロデューサー業務を、並行してやっていたみたいですね」

「そうですか……」

「僕が、別の案件がひと段落付きそうなので、マネージャー、やりますよ~」

「ぜひ、お願いします!!!」


 そうして、新マネージャーは、前任のマネージャーに代わることになり、成愛は新人プロデューサーになった。


 プロデューサーは、現場よりスポンサーや広告代理店と、関わることの多い職種である。ネットで調べて得た知識だ。

 全く新人で、何もかもわからなくて。現実世界でも、夢の中でも、頭の中は常にごちゃごちゃで。


 マネージャーとは違うということで、アイドルたちと関わることも少なくなるのかなあと、寂しく感じた。

 そして、数日後、大手アイドル事務所が連絡してきた。

 それは、原因不明の夢遊病に関する話だった。ゆめのなかであそぶと書いて、夢遊病。ここでは、明晰夢と違った、夢の中であるモンスターが登場するのだという。


 それに喰われると、一生眠ったままなのだとか。今、現代社会で流行している病の一つでもあった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ