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場面2・はっきりとしない

 霞のかかったような白い壁が見える。天井は、蛍光灯の灯りが、煌々としている。そこは、学校の廊下のようだ。壁の前には、一人の少年が座っていた。いつから、座っていたのだろうか。身動きもせず、ただ、うつろな目で、人の流れを見ていた。

 廊下を歩いていく者たちは、誰一人として、その少年のほうを見向きもしない。長い間、そうしていたので、もしかすると、もうすでに、壁と同化しているのではないだろうか。そう思ってしまうほど、通り過ぎる人々は、関心を示さなかった。


 向こうから、子供が、笑い声を発しながら、走ってくる。楽しいから笑っていると言う風ではなく、何かに憑かれたように、赤い唇は歪んだ笑み(かたち)を浮かべている。

 その子供は、狂ったように勢い良く白い壁にぶつかった。壁の薄い漆喰が剥がれ落ちて、石灰の白い粉が、霧のようにうっすらと、舞い上がりながら床に落ちていく。

 何度も何度も、子供はその体を壁に打ち付けている。額からは、血が滲みだし、泣いているかのように頬を伝っても、痛がりもせず、泣きもせず、ただただ、笑顔であった。


 向こうから、また、子供が走ってくる。今度は、数十人もの子供だ。しかし、彼らは、笑みではなく、恐怖の表情を浮かべていた。皆、何かから逃げ出すように、外へ外へと、走り出している。果てしない階段を逃げおりている。


 ふと、走る子供たちの背後に白衣姿の服の男が現れた。どうやら、この学校の先生のようである。逃げ惑う子供たちの最後尾を、ゆっくりと威圧を持って歩いている。彼は、壁に向かって、体当たりをやめない子供を見つけ、駆け寄った。

 そして、男は、その手に持っていた刃物で、子供の喉を音もなく、スッと一直線に掻っ切った。

 白い壁と服は、飛沫で赤く染まっていく。白化粧の粉は、朱の雫を吸って、凝固していく。みずみずしい光沢を持つ赤珊瑚が、その足元に散っていく。抱えきれないほど大量の赤い珠が、白い床を転がっていく。

 倒れこむ子供は、笑ったまま、勢い良く倒れていく。壁にあいた穴の中に、頭から落ちていく。

 その死体となった手から、古いノートがぱさりと落ちた。開いたそのページには、雑な字でなにやら書いてある。なんとか、読解は出来そうだったが、まるでその文字は、呪いの文字で出来ているように、生々しく歪み、滴る血に滲み、褐色に擦れていた。

 まだ乾かぬ濡れた刃物を持ったまま、先生はそのノートに書かれた呪いの言葉と同じ文字を、繰り返すだけであった。


 それを皮切りに、動くモノを手当たりしだい斬りつけ始めた。子供たちは切られ死んでいく。少年は、壁の前で、ただ、それをぼんやりと見ていた。

 ――階段はどこまでも続いている。

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