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場面1:まるで霧がかかったかのように

 永遠とも感じられる停止したその風景は、まるで写真か絵画のように、赤と黒の構図が流れるような太い流線で描かれている。移り変わっているのは、暮れの空のみ。夕空の色は、黄昏から、茜へ、そして群青に変わりつつあった。

 その残照に染まる広い場所に、人が集まっている。それは、単なる野次馬と呼ばれているモノ。彼らは、集まってはざわめき、見守ること以外の行動は何もしない集団である。

 その取り囲む人々の中心に、二つの影が身動きもせず立っていた。その影は、夕焼けの逆光にますます暗く影を落とし、そこにあった。影の男は刃物を持ち、もう片方の腕で、女の首を背後から押さえつけている。女は、目の前にある鋭い刃物の輝きに、声も出ず、ただただ震え、体を強張らせているだけであった。

 数台の黒いカメラが、微動だにしない彼らの動きを、一つ残らず撮影していた。彼らは、女が解放されることを、願っているものの、心のどこかで、殺戮の絵を思い浮かべそれを切望し、絶望している。だから、カメラは回り、その情報に人々は集うのだ。



 ――今、人ごみの中から少年がひとり、霧の中から現れるように、いつの間にか、人の集団から少し離れたところに、その姿を見せていた。淡々と男の背後へ回ると、瞬時のうちに腕をねじ上げ、刃物を地に落とした。囚われていた女は、男の腕をかいくぐり、助かった喜びに泣きながら、人混みの中へと消えていく。

 少年は、女の脱出を確認すると、ねじ上げていた腕をさらにしっかりと捕らえ、背負い地面に叩きつけるように、勢い良く投げつけた。

 地に頭を打ち付けて、白く薄れ行く意識の中で、男は、その少年のやけに真っ赤な唇が、にぃっと嗤う(わらう)のを見た。

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