第五話 その冒険者、少女を拾う
「レグノス…?今、レグノスと言ったか?」
「はい、そうです…」
そういう彼女の顔は暗く沈んでいる。
そして俺は言葉を失い、手を顔に被せ俯いた。
(コイツは恐らく俺と似た境遇にいる。家族は殺されたか、或いは連れ去られたか。いや、それよりも…)
「お前、アムールス帝国を知っているか?」
少女は小さく頷く。
「知っています。と言うより元々の出身はアムールス帝国です。訳あってレグノスに引っ越しましたが」
「そうか、アムールス帝国出身か…ならばレグノスをどう思っている?」
「レグノスに暮らす人々はとても良い人です。余所者の私を受け入れて優しく接してくれました。私は、あの人たちが…大好きでした…」
そう言って少女は再び涙ぐむ。
その姿に俺の心の錆が少し取れた気がした。
「なるほど、良くわかった。まずは着替えろ。それから必要な物があるなら持ってこい。持てる分だけな」
「と言う事は…」
「取り敢えずお前の次に暮らす場所を探してやる。それまでは面倒を見る事にした」
それを聞いた少女は涙を拭い、俺に微笑みかけた。
「ありがとう…ございます」
「礼は良い。すぐに出発するから早く行動しろ。俺は部屋の外で待っている」
「分かりました」
「それとお前、名前は?」
「リーミアです」
「分かった。リーミア、早く準備を済ませろ」
そう言って俺は部屋を後にしてため息混じりに天井を見上げた。
(アムールス帝国出身か…あの帝国は俺の敵だ。10年前の戦争を俺は忘れない。奴らは絶対に許さない)
そしてリーミアの涙ぐむ姿を思い出した。
(あいつは、例外か…)
それから数分が経った頃、リーミアが部屋から出てきた。
一番最初に見かけた時の魔法使いの服装だった。
「早くしろとは言ったが…それにしても随分と早かったな。持ち物は?」
「これがあれば十分です」
そう言って見せてきたのは魔法使いの杖と、一枚の写真だ。
リーミア本人と老夫婦、そして他数人が写っている。
「この写真は?」
「レグノスにいた時、一緒に暮らしていた人達です」
「そうか、大事にしておけ」
「はい」
リーミアはその写真を大事そうに仕舞い込んだ。
「行くか」
そう言って俺は歩き出した。