第四話 その冒険者、マテリアルを壊滅させる
「俺様一人で十分でしょう!!」
ーーーガァン!!
鳴り響く鉄と鉄が重なり合う音。
俺は振り下ろされたメイスを剣一本持った片手で受け止めていた。
「前にも思ったんだけどさ、マテリアルって有名なパーティーの割に対した実力無いんだな」
そのわかりやすい挑発に簡単に乗ってしまうのも脳筋の定めか、ブラムスは顔を真っ赤にしてもう一度巨大メイスを振り下ろした。
それに合わせるように巨大メイスに剣を滑り込ませ、剣の腹で受け止めて横に薙ぐ。
すると、ブラムスが放った攻撃の遠心力によりブラムスは大きくバランスを崩してこちらへ向かって倒れ込んできた。
「どんな強靭な肉体でもどんな巨大な肉体を持っていても唯一鍛えられない場所がある。それは…顔だ」
そして、俺はブラムスの顔面に剣の切っ先を突き立てた。
激しく吹き出す鮮血。
ブラムスは顔から血を垂れ流して絶命した。
そして、それを見たバンズは戦意喪失したのか、腰を抜かして命乞いを始めた。
「わ、悪かった!!俺の負けだ!!殺さないでくれ!何でも言う事聞くから!!な?」
その姿に俺はある問いを投げ掛ける。
「お前は今まで何人の仲間を見捨ててきた?正直に言わなければ殺す」
最初にこの男を見た時に、ドラゴンに襲われていた少女を見捨てようとした事を思い出していた。
あの時の言動から察するにあれが初めてではない筈だ。
「わ、分からない!!本当だ!!数えたことがないんだ!!」
「と言う事は数え切れないくらい見殺しにしてきたと言う事か」
「そ、それは…」
「お前に生きる価値はない」
「や、止めろ!!殺さないで…!ぎゃああぁぁぁ!!!」
その瞬間バンズの断末魔が部屋中に響き渡り、そして途絶えた。
その後、俺は奥の部屋に入っていくと、そこには半裸状態の女の子がいた。
赤い髪のツインテールでオレンジ色の瞳。
間違いない、あの時の少女だ。
その体は恐怖と憎悪で震えていた。
俺が彼女の元へ近寄ると、彼女は顔をこちらへ向けて問い掛けた。
「あの男達は…?」
「死んだよ。今さっき俺が殺した。俺が怖いか?」
すると、女の子はそれに答える代わりに号泣しながら俺に抱きついてきた。
「良かった…!本当に良かった!!ありがとう…ございます!!」
よく見ると、その小さい体には無数の傷跡があった。
鞭で打たれた様な傷跡だ。
俺はその肌を隠すように毛布で包んでやると少女に背を向けて部屋を出ようとしたが、必死に引き止めるように彼女が声を上げた。
「待って!!待って…下さい!私、行く所が無いんです」
「それは下にいるメイド達も同じだろう?悪いが、あの子達全員を抱えられる程暇じゃない」
「あの子達には…家があるんです。私には…ない」
「どういう事だ?」
「このパーティーの中で私だけ、この街の出身では無いんです」
「だが、この街の貧困に困る少女を攫っていたとバンズは言ってたが?」
「私は…レグノスから来ました」
俺はその言葉に驚き目を見開いた。
レグノス、それはかつて存在した帝国の名前だ。
凡そ10年前に巨大な戦争に巻き込まれ、地図から消えた街の名前。
そして…俺の出身地でもあった。