第三話 その冒険者、マテリアルに潜入する
扉の中に入ると、エントランスになっていて左右に通路があり中央に大きな階段とレッドカーペットが敷かれていた。
その周囲を忙しなくメイドが駆け回る。
「ご主人様は階段を上がった先の部屋に居ます。こちらです」
俺を案内するメイドに促され、中央の階段を上っていく。
階段の先には荘厳な扉があり、どうやらそこがバンズの部屋のようだ。
扉の前に辿り着くと、メイドが取っ手を持ってノックした。
「ご主人様、リアン様がお見えになりました」
すると、中からバンズの声が響く。
「おぉ、まさか本当に来てくれたとは!通してやってくれ!」
その声は喜びと驚愕が入り混じった声だった。
正直俺が此処に訪れる事は半々だと思っていたのだろう。
メイドがドアを開けて俺が中にはいる。
部屋の中は豪奢な造りとなっており、金持ちの主人と言う貫禄を持っている。
そして、問題のバンズは部屋の奥の机に佇んでいた。
俺の姿を視認するなり立ち上がって握手の手を差し伸べた。
「まずは先日の罵詈雑言を浴びせた件について謝罪させていただきたい。すまなかった。それと遠路遥々御足労ありがとう」
俺は差し出された手に応じず話を切り出した。
「遠路遥々?この街の宿に手紙出しておきながら良くもまぁいけしゃあしゃあと。追跡でもしたのか?」
その言葉にバンズは少したじろぎながらも返答した。
「あ、あぁ、やはり勘付かれましたか。いや、他意はないんだがね、如何しても貴方にこのギルドに入って頂きたく追跡させていたんだ申し訳ない」
「なるほど、そこまでして…か。勧誘ならば断った筈だが」
「えぇ、勧誘と言うことに間違いはないが、あの時は我がパーティーに付いて話す時間は無かったから、ちゃんと話せば理解してもらえると思ったんだ」
「理解できるとは思えないけど、一応話だけは聞いてやる」
「あぁ、良かった。話だけでも聞いてくれれば気が変わるはずだ。まず第一に我がパーティーはこの街を実質的に支配下にしている。あなた程の有名なソロ冒険者にも我がパーティーの名が轟く程だ。財力も権力もある。貴方が我がマテリアルに加入してくれるならば、地位は確約しよう。この街を好きにできる程の地位だ。可愛い女の子も沢山…」
そこまで言った時、俺は話を遮った。
「ちょっと待て、今可愛い女の子と言ったな?」
「あぁ、言ったが何か?…あぁ、貴方もやはり男だと言う訳か、ハハハッ!そんなもの幾らでも用意できる!そうだ、ちょうど今我がパーティーの女子が何人か用事を済ませている筈だ、見ていくか?」
「用事…?」
「あぁ、見てみればわかるさ。我がパーティーの女子は非常にハイレベルな物を用意している。貴方も男なら、彼女らを気に入るはずだ。さぁ、こっちに来てくれ」
バンズはゲスい笑いを浮かべながら席を立ち上がり、更に奥の別室へ来るよう促した。
部屋に入ると衣裳室の様になっていて様々な衣装が取り揃えてある。
どうやら着替え室のようだ。
しかし、その衣装はどれも露出度の高い卑猥な物ばかりだった。
そして最も気になるのが、その先の部屋から漂ってくる異様な匂い。
極めて強い香水のような不快になる匂いが鼻を突いた。
更に、奥の部屋から聞こえてくる声。
耳を澄ませば声を拾う事ができた。
「おら、もっと腰を浮かせろ!!」
「あんっ!!は、はいぃ!!ごめんなしゃい!!」
男と女の入り交じる声。
それと同時に聞こえる肌と肌がぶつかり合う音。
そして、女の声に聞き覚えがあった。
数日前、洞窟で救ったあの魔法使いの声だった。
俺は感情を殺し、冷淡な声でバンズに問い掛けた。
「最近街で噂になっている様だが、マテリアルが街の女を攫ってここで働かせていると言う話を聞いた。それは本当か?」
バンズが答える。
「あぁ、噂になる程の事だったのか。攫っているとは心外だがね。貧困に困っている女の子を拾って働く場を提供してあげているんだよ」
「それが、男の慰めに使い、ダンジョンに連れていけば無用と切り捨てる訳か」
俺は一息ついて続けた。
「彼女を今すぐ開放しろ。さもなければ実力行使だ」
「それは、我がパーティーの意向に背くと言う事か?」
「元々お前たちのパーティーに入るつもりなど無い」
それを聞いたバンズは腰に携えていた短剣を取り出した。
「残念だよ黒雷のリアン。俺は貴方が我がパーティーへ加入してくれると信じて疑わなかったんだがね。こうなっては仕方がない。我がパーティーの脅威となるならば、此処で消えてもらう!ブラムス!お楽しみの所悪いが仕事だ!今すぐ出てこい!」
すると、奥の部屋から声が止み、少しして大男が出てきた。
その体躯は腹が横にも縦にも出ておりまるで肉だるまのような見た目だ。
着替える時間がなかったのか、上半身にチェーンメイルを纏い、下半身はパンツ1枚だ。
そして、腕には巨大なメイスが握られている。
「へい旦那、こいつを始末すれば良いんですかい?」
「あぁ、この男はそれなりの実力者だ。我々二人係で確実に仕留めるぞ」
「へぇ、旦那がそこまで言うとは相当ですな、だが、見た目はヒョロそうだ。俺様一人で十分でしょう!!」
そう言ってブラムスと呼ばれた大男は握ったメイスを振り下ろした。