第二話 その冒険者、マテリアルへ赴く
あれから数日後、特にマテリアルからの接触はなく普段通りに過ごしていた。
宿で目が覚め次の依頼へ赴こうと準備をする。
すると、ドアがノックされ宿の主人が声を掛けてきた。
「お客さん、何やらあなた宛に手紙が届いてますよ」
「俺宛に?見せてくれ」
「えぇ、お邪魔しますね」
そう言って宿の主人は部屋の扉を開け、中へ入ってくる。
中年小太りの主人はそのふくよかな腕を差し出し、手紙を寄越した。
「マテリアルより黒雷のリアンへ」
手紙の表面にはそう書かれている。
何故俺がここに居ると分かったのか?まさか、つけられていた?
その疑問を一旦振り払い、赤く丸い留めシールを剥がして中の手紙を確認した。
「黒雷のリアンへ、極めて重要な話がある。至急我がマテリアルのパーティーホームへ来て頂きたい。場所を記す」
それと、場所を示す地図。
ただそれだけ書かれていた。
俺は少し考え込んだ。
極めて重要な話?
数日前に会ったばかりなのにいきなりそんな話などされる覚えはない。
それにマテリアルに知人がいる訳でもないし、皆目検討もつかない。
わざわざ俺が出向く話でも無いだろう。
どうせまた勧誘の話だろうな。
そう思って手紙を破り捨てようとした時だった。
宿の主人が独り言のように、はたまた俺に話しかけているのかは分からないが、呟くように言った。
「そういやマテリアルって連中はいい話を聞かないですねぇ。最近美人な女の子が半ば拉致に近い形で連れ去られて強制的にマテリアルで働かされているって話を聞きますぜ。言われてみれば妙に美人さんがマテリアルに多いような…」
それを聞いて数日前のドラゴン討伐での出来事を思い出した。
彼女はその内の一人なのか?
ただの噂でしかないが、あのパーティーリーダーのバンズ曰く『側』を気にしていると言う言動から察するに可能性はある。
だとするならば他にも被害者がいるかもしれない。
真相を確かめる必要がある。
そう思って破り捨てようとした手を止め、手紙をポケットに仕舞い込んだ。
「ありがとう、宿の主人。今のは有益な情報だったよ」
すると、主人は驚いたようにぽかんとしながら言った。
「はて?何か為になるような事を言いましたかな?」
「いや、こちらの話だ、気にしないでくれ。宿代はここに置いていくよ、釣りはいらない」
「おやそうですか、気前がいいお客さんは好きですぜ。またいつでもいらしてくださいな」
それから俺は地図に書かれた場所を目指して歩いていた。
どうやら本拠地としているパーティーホームは偶然にもこの街にあるらしく、20分程歩いてくと地図に書かれた場所に辿り着いた。
その場所は洒落た外観で出窓には花がいくつも飾られている。
正面入り口には大きなドーム型の門が立ち塞がり、上のプレートにはWelcome to Matelialと書かれていた。
意識高い系の虚栄とでも言おうか、そんな臭いが鼻を突く。
「とにかく、此処なのは間違いないな」
そう言って門を開けて進み、正面入り口の巨大な扉に付いているライオンを象った装飾の中央にあるボタンを押した。
ビーと音がなり、暫くすると扉が開いて中からメイドの様な人物が顔を出した。
「あ、あの、どちら様でしょうか?」
その声は少し震えている様に聞こえ、心なしか怯えているようにさえ見えた。
そして、やはりと言うか顔のクオリティは高い。
「話が通っているならリアンって言えば分かるか?」
「あ、リアン様ですね、お待ちしておりました。ご主人様がお待ちです」
そう言って扉の中へ案内された。