第一話 その冒険者、少女を助ける
『お前には此処で消えてもらう!!』
そう告げたのは有名な冒険者パーティーのリーダー、バンズだった。
ーーー遡る事数日前。
俺はソロ冒険者として名を馳せているリアン・アルベージュと言う。
そんな俺はとある洞窟のダンジョンへやってきていた。
世界治安維持協会からの依頼で強力な魔物が洞窟に住み着いて資源を取りにいけないので退治してほしいと言う内容の依頼を請け負っていた。
成功難易度はS。
ギルドの依頼には成功難易度と冒険者ランクと言うものが設定されている。
それによって受けれる内容も変わってくるのだ。
ランク付けは以下のように記されている。
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ブロンズランク=Dランク
シルバーランク=Cランク
ゴールドランク=B〜A下位ランク
プラチナランク=A上位ランク
ダイヤランク=Sランク
ブラックダイヤランク=SSランク
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冒険者全体の比率は凡そ90%程がプラチナ以下で、9.9%がダイヤランク。
そして残り0.1%がブラックダイヤランクなのである。
俺はSランクの依頼を請け負い洞窟へ向かっていた。
辺りは薄暗く肌寒い。
そんな洞窟を奥へ進んでいると、突然何処からか女の子の悲鳴が聞こえた。
俺は悲鳴の聞こえた方向へ走っていくと、今まさに魔法使いの女の子が件の魔物に襲われている最中だった。
黒い鱗のドラゴン。
その巨体は彼女の上へ覆い被さり、彼女を貪ろうと大きく口を開けている。
周りに複数の人がいて、武器を携え懸命に彼女を助けようと攻撃を加えている。
どうやらチームで動いている様だ。
しかし、ドラゴンはその攻撃を物ともせず彼女に喰らいつこうとした。
それを見て俺は独り言のように呟いた。
「仕方ない…同じクエストを受けている競合とはいえ、目の前で人が死んだら目覚め悪いからな」
そう言って、背中に携えた剣を片手に取り、剣先をドラゴンの頭に向けた。
剣は紅黒く発光し、俺の周囲に紅黒い稲妻が迸る。
『グロリアス・エンデ!!』
刹那、赤黒く迸る稲妻と共に一瞬でドラゴンとの間合いを詰め、ドラゴンの首を落としていた。
一瞬の判断もスキも与えない、確実に敵を葬る必殺の一撃。
それは、まばたきすらも許さないほどの出来事だった。
赤黒い稲妻が徐々に収まる頃、何が起こったのか状況を掴めていないパーティーの一行は漸く我に帰り、俺の方へ顔を向けて初めて声を上げた。
「な、何が…起こったんだ?」
「俺にも…全く…」
すると、ドラゴンに襲われていた魔法使いの少女がドラゴンの死体を掻い潜り俺の元に駆け寄ってきた。
「あ、ありがとうございます!!勇者様!!痛っ!!」
しかし、駆け寄る彼女を未だ帯電する赤黒い稲妻が彼女を寄せ付けまいとする。
「礼には及ばない。目覚めが悪いからやっただけだ。それに今の俺には近づかないほうがいい、怪我をする」
「す、すいません…」
彼女はしょんぼりとして俯いてしまった。
すると、奥の方から俺に向けて手を叩き、拍手喝采を送る人物が現れた。
「いや、素晴らしい!!赤黒く走る稲妻、黒ずくめの服、そして何よりその強さ!君はあの『黒雷のリアン』で間違いないね?」
現れた男はいかにも勇者らしく、黄金の鎧に身を固めた金髪の青年だった。
「俺を知っているとは物好きも居たもんだ」
「いやいや、何を言っているんだい、君はソロ冒険者として名を馳せる有名人じゃないか」
「そりゃ光栄だね」
「そんな君に一つ提案があるんだ。我々のパーティーに是非参加してくれ!我々は『マテリアル』と言うパーティーでやらせて貰っている俺はパーティーリーダーの『バンズ』だ、よろしく」
俺はその名前に聞き覚えがあった。
ギルド内でも度々噂になるほどの実力者揃いのパーティーだとか。
しかし、同時に驚かされもした。
噂になるほどの有名パーティーの実力が、まさかこの程度だったとは…。
「聞き覚えはある。確か実力者のみを集める意識高い系のパーティーだと記憶してる」
「意識高い系…か。あながち間違ってはいないね。だからこそ我々も常に側を気にしている。パーティー内の実力はさる事ながら、周りにも気を配らなければならない。君が入ってくれればそれだけで我がマテリアルの知名度は更に上がる!」
俺はバンズの顔を鋭く見つめて言い返した。
「では、お前が彼女を助けようとしなかったのも、『側』を気にする為か?」
「どういうことだ?」
「お前は彼女を助けようと奮闘する仲間とは離れた位置で傍観していたな。パーティーリーダーならば真っ先に仲間を助ける物だと思ってたんだが俺の思い違いか?」
するとバンズはさも当たり前のようにこう言った。
「当たり前じゃないか、実力のない者は淘汰される。我がパーティー内で死者が出たと話が流れるのは手痛いが、この程度で死ぬ程ヤワな人間がパーティーに残る事の方が手痛い。自然界と同じさ、弱肉強食の世界だよ」
俺はその言葉を聞いてすぐさま踵を返した。
「生憎のお誘いだが、俺はソロ冒険者としてやってるんだ。お前たちのパーティーに加わるつもりは無い。じゃあな」
そう言って出口に向かって歩き出す。
その結果が気に食わないのか、はたまた予想外だったのか、後ろからバンズの舌打ちと罵詈雑言が聞こえたが、俺は一切介する事なくその場を去った。