エンジェルライフ最終巻2/9大雨の恩恵と真っ黒けのリビング。ロッシのキャンピングカーは、想像以上に有名だった。
トレヴィーゾの牧場に帰り生活するために自宅や畜舎の修理が始まった。当面の間、生活するのにキャンピングカーを借りた。イタリアで有名なオートバイの世界チャンピオン、カル・ロッシのレース転戦用に使用されていたキャンピングカーでワインレッドの車体は、誰もが知っている。良い車を借りれたと喜んでいたが、雨が降って牧場に上る道がぬかるむと、登れ無くなってしまう。女性だけで取り残された牧場の悲劇!?喜劇?となった。
②
牧場で暮らすための準備が始まった。家や畜舎の修理も必要になるが天候や季節に
対応する知識や経験も大切になる。始まったばかりの牧場の生活にはトラブルも・
自宅のダイニングで、朝食をとりながら。
カルロ:明日から牧場の方の修理を始めるんだけど、板や角材、波板なんかを街に
買いに行く。燃料も補給しないと・・・キャンピングカーで、街に下りて
トラックに材料を乗せてくる。エライザ、とママはどうする?
カルメン:私は、ここに残るわ。やりたいこともまだまだあるし。買ってきて欲し
いものもあるから書き出しておくわ。
エライザ:私は、一緒に行って、自分も買いたいものがあるし、カルメンが欲しい
ものも一緒に買うよ。
カルロ:わかった、10時頃には出発する。
久しぶりに街に下りた。ベニスと違いカルロはトレヴィーゾの街に詳くはない。
子供のころは牧場に居て、15歳でベニスに働きに出たので、この街では勝手
が悪い。ガソリンスタンドでキャンピングカーに燃料を入れながら聞いてみる。
カルロ:家を直すのにトラックを貸してほしいんだけどベニスまでいかないで、
トレヴィーゾの街で貸してくれるところは、無いかな。それと建築材料も買い
たいんだけど・・・
店員:トラックは、ここのを貸してあげるよ燃料代だけ払ってくれ建築資材は、
ちょっと離れるけどベニスに行く途中に大型の店舗がある。そこなら何
でもそろうよ。ところで・・このキャンピングカーって、
カル・ロッシのワールドツアー時代の車だよね。雑誌で見てた。
カルロ:そうだよ。ちょっとレースに興味がある人ならロッシの番組でいつも
テレビに出てたから覚えてるよね。知り合いに借りたんだ。
店員:写真撮っても良いかな。
カルロ:もちろんOKだよ。トラックをここで貸してくれるなら、車はここに
置いておくので自由に写真は撮っていいよ。
店員:どうせなら目立つように、こっちに止めて行ってくれ!
キャンピングカーをガソリンスタンドの店員が言うように道路に面した入口に
斜めに止めた。給油に入る人には邪魔になりそうだが、さっそく車を見て、
客が入ってくる。トラック代は払わなくても売り上げが上がりそうだとカルロ
は、思った。
トラックを借りて、建築資材の店に向かう。その途中のドラックストアーで、
エライザ:カルロ、ここで降ろして、ここなら何でもそろいそう。
カルロ:そうだね。何でもありそうだ、1時間ぐらいで戻れると思う。
エライザ:じゃあね。気をつけて!
エライザを:降ろして、カルロは出発した。
エライザは、カルメンのメモを見ながら店に入った。メモを開いて”しまった”
と思った。買いたいものがイタリア語で書いてあった。それはそうであろう。
カルメンは、イタリア人だ。洗剤や調味料の名前がイタリア語の商品名で書いて
あった。
エライザ:スイマセン!これが欲しいんですけど・・・
店員:あぁ、、付いてきてください。
ショッピングカートを持ってついていくと店員がエライザに確認して幾つか
カルメンのほしいものを選んでくれた。中には、
店員:すいません。この商品は、うちでは販売していません。
何点かは、カルメンの買いたいものがなかったが、代わりの物を買ってみた。
さて、今度は自分の欲しい物を買おうと思って、探してみるが、調味料だけでも
種類がたくさんあり迷ってばかり。案外、しょうゆやカニカマなど日本の商品も
売っていて日本語で書いてあるからありがたい。最初にメモを見たときの思いと
は逆に自分の買いたいものがほとんど変えなかった。
四苦八苦して店中を歩き回り店を出た。
カルロ:エライザ! ここだよ、大丈夫、遅かったね。何かあった。
エライザ:事故とかじゃないのよ商品見ても何だかわからなくて、迷ってばかり
で時間が過ぎちゃった!
カルロ:良かった。心配して店に聞いてみようかと思ったよ。(笑い)
1時間半も店をうろちょろしていては、エライザも疲れただろう。途中で買った、
サンドウィッチをかじりながら牧場へ向かって走っている。
カルロ:ゴメン。トラックを今日中に返したいから。お昼ご飯をゆっくり食べている時間がなくて・・・
エライザ:こっちこそ、ゴメン。買い物に時間かかりすぎて・・・
牧場についてエライザを降ろし、買ってきた建築資材を降ろして、カルロは、
急いで街に下りた。ガソリンスタンドに付くと多くの車が列を作って並んでいる。
トラックを奥の駐車場に止めるとガソリンスタンドの店員に声をかけた。
カルロ:ありがとう、助かったよ燃料を入れて返そうと思ったけど、この行列で
店員:いや、燃料代もいらないよ。車の写真代を払わなければいけないぐらいだ。
ガソリンを給油した人が写真を撮らせてって、言うんで、良いよって
言ったら自分の車を並べてロッシのキャンピングカーと一緒に写真を取り
出したんだ。それが街中の噂になって、この行列さ・・・申し訳ないけど
・・・今並んでいる人だけでも写真を撮れせてもらえないかな。
カルロ:良いよ。今並んでいる人だけで、いいかい。
と、了解した。トラックを借りて、燃料代もただと言われて、写真ぐらい断れな
いのだが、カルロには早く帰らないといけない理由があった。それは、雨が降る
ことだった。夕方から雨の予報でこのキャンピングカーでは、ぬかるんだ丘の道
は上がれない。”まいったな”カルロは、雨を心配して少し焦っていた。
予感通り30分ほどして雨粒が落ちてきた。すぐに本降りになり・・行列の車は、
後、3台となったが・・・
カルロ:申しわけない。今晩は、このまま車を止めさせてほしい。それと電気を
分けてほしいんだ。このまま泊まりたい。丘の道がぬかるんでもう登れないんだ。
店員:問題ないよ泊って行ってくれ外のトイレも使ってくれ。それならこのまま
写真を撮っても良いかな?
カルロ:いいとも、こちらこそ申し訳ない。
店員が”写真撮影再開しました”と看板を出すと瞬く間に行列が伸びる。店員は、
ご機嫌で、挨拶をするのでカルロも笑顔で返した。
カルロは、雨の中、牧場に帰るのをあきらめたが問題もあった。三人ともキャン
ピングカーで寝るのが気に入って、自宅に寝具を置いていない。食料もまともな
ものは、キャンピングカーの冷蔵庫の中にある。雨も心配で、雨漏りを修理した
ところが上手くいっていればいいが、また、他のところから漏れてくることは、
よくある話だ。エライザに電話してみた。
カルロ:そういうわけで雨が上がって道路が乾くまで帰れないんだ。申し訳ない。
・・・雨漏りはどうだい?
エライザ:リビングの違うところから漏れてきて・・ソファーを移動させて、
たらいで受けてる。とりあえず今は・・1か所だけみたい。
カルロ:食べ物や飲み物はどうかな?
エライザ:パンとインスタントのスープがある。飲み水は雨水を沸かすしか・・
大丈夫よ1日ぐらい。
カルロ:わかった。明日晴れても帰れるかどうかわからない。二日ぐらいの予定
で食べ物を分けて食べて。気を付けて。
雨が降っているから水はある。電気も通っているから煮沸もできる。なんとかなる
かと、ちょっと安心した。
一方、ガソリンスタンドの行列はいっこうに少なくならない。仕事が終わって
帰ってくる若い人が増えて大騒ぎして、写真を撮っている。トラックも燃料代
もタダだったから少しぐらい我慢するか、と、床下の冷蔵庫からビールを取り
出しプシュと、開けた。料理をする気にもならず、缶詰を開けて食べた。
テレビモニターをつけてロッシが見ていただろう録画映像を見てみた。
レースの転戦中にメカニックと打ち合わせに使ったのだろうかロッシのバイク
を走らせる映像がほとんどだ。時には、ピットの中でくつろぐロッシやメカニ
ックの映像も出てくる。
カルロは、感慨深かった。カル・ロッシの転戦用キャンピングカーで、白ワイン
を飲んで、オイルサーディンをつまみにして、彼のプライベート映像を見ている。
ファンはうらやましいだろうと思った。カルロ自身は熱烈なロッシのファンでは
ないが、とんでもなく特別な時間だと実感していた。パンとスープのカルメンと
エライザには、申し訳ないなと思ったが。
夜10時を過ぎても行列は続いていた。キャンピングカーの噂は隣町にも伝わって
若者がやってきてガソリンスタンドだけじゃなく、周りの飲食店も混んでいる。
あたりは結構、騒がしいのに、カルロは、修理の作業で忙しかったからかビデオ
を付けたまま寝込んでしまった。0時近くになりさすがに行列も無くなりガソリ
ンスタンドも店を閉めることにした。
カルメンとエライザは、ソファーのある。リビングで軽い食事をとり紅茶を飲み
ながらくつろいでいた。雨があがり、雨漏りの音もしなくなった。
エライザ:この分なら明日は帰ってくるね。
カルメン:どうかしら・・雨がやんでも道が乾かないとね・・無理すると車が
ハマって大事になるから・・・
エライザ:そうなんだ、私が買い物に時間かけすぎたから・・・
カルメン:このへんじゃあよくあることだから気にしなくてもいいのよ。
エライザ:なんだか、急に寒くなったね。
カルメン:6月だから5度くらいまで下がるかもしれないね・ん・どうしようか・
キャンピングカーで寝れるし、もうすぐ夏になるので、暖炉や煙突の修理は後回し
にしていた。
カルメン:大分、室温も下がってきたね。寒いだろう。
エライザ:もう、着る物も無いし・・・やばいね。
カルメン:しょうがないから暖炉に火を入れようかしら・・・
そういうと暖炉の横にあった薪を暖炉に並べ着火剤を入れて火をつけた。すぐに
燃え上がり煙も煙突側に吸い込まれ問題なく使えそうだ。火が付けば、真冬では
ないのですぐに温まる。暖炉の火で寝るのはあまり経験もなく少し興奮気味の
エライザは、なかなか眠れない。カルメンもうとうとするが、時々火の面倒を
見ないといけないんで眠りにつけない。真冬は、続けて火を入れているのでた
くさん薪を入れて部屋中が温まる。そうなれば一晩ぐらいは薪を足さなくても
朝まで暖かい。今日は薪もたくさん無いし少しづつ焚いて、結局朝まで二人とも
眠れなかった。日が昇り温度も上がって、暖炉の火も落ち、二人ともゆっくり
眠りについた。
カルロは、ちょっと飲みすぎたのか7時過ぎに起きた。ガソリンスタンドも営業
準備をしている。道路は、完全に乾いていてわき道の未舗装道路もぬかるんでい
ない。
カルロ:しっかり寝れたな・・・早い時間に雨が止んだみたいだな。帰れるか・
ガソリンスタンドの店員に挨拶して牧場に向かった。道路は、予想通りぬかるみ
もなく牧場まで上がってこれた。キャンピングカーを駐車場所に止めて電源を
つないだ。自宅に入って、
カルロ:ただいま!帰ったよ!
返事がない。
カルロ:焦げ臭いな・・・・暖炉? よっぽど寒かったのかもしれない。
リビングに行くと二人が寝ていた。
カルロ:ママ起きて! 大丈夫! エライザ!
カルメンが目を覚ました。頭を持ち上げたカルメンの顔は、鼻から上が真っ黒で、
覆った上着に埋もれた口だけが白かった。声を聴いて起き上がったエライザの顔
はもっとひどかった。立ち上がったエライザの顔は真っ黒けっけ、あくびをした
口の歯も黒い。エライザの顔を見たカルメンとカルロは、二人で顔を見合わせて、
笑い出した。
カルロ:なんだあその顔・・・みてみろ・・はも・・舌も・・わあっつははは・
カルメン:エライザ はっはっなに・・黒すぎ・・はも黒・・ふうっ・ダメ!
エライザは、笑っている カルメンの顔を見て
エライザ:えーっカルメン!顔が、はははっ くろ・口はしろ・・なんで・・
カルロが鏡の前にエライザを連れて行った。
エライザ:ナニコレ・・真っ黒じゃん! 口の中も エエっつ、苦っ・・
カルロが、まだ笑っている。エライザが意地悪して、カルロの服で顔をぬぐった。
カルロ:ほら!シマウマになった!わhhっははははっつはっつ!見て!ハハッ・
エライザ:やーだもう もっとひどくなった (自分の服の袖で拭って)ダメ!
取れない ははっつは・・なんで?
カルメン:しょうがないわ 寒かったんだから・・顔は、洗えばいいけど、
エライザが風邪ひいたらねえ・・ふふっつふ
カルロ:そんなに寒かったんだ!
カルメン:雨が上がって、急に寒くなって、私も悩んだんだけどエライザに
風邪を引かせてはいけないと思い・・ふふっ
こんな結果も予測したんだけど・ふふっ・・つい寝込んじゃって・・
エライザ!顔、洗っといでよ・はっつふぅ。
エライザ:カルメンこそ・・ツートンカラーになってふっつはっははh・・・
泣き笑いしたから目の下だけ白く・はぁっ。
カルロが携帯で二人の顔をくっつけて写真を撮って見せた。爆破されたような
二人の写真を見て朝から笑いが止まらなかった。
この後、リビングの掃除をするが、薪のススはそう簡単には落とせない。暖炉の
天井付近で煙が漏れたのだろう煙が噴き出したあとが、黒く残って消えない。
ソファーも壁も天井も少しシックな色合いになった。
朝ごはんも食べずに掃除をしたのでお腹がすいた。キャンピングカーの冷蔵庫
からハムやソーセージなどお腹にたまるものを持ってきて炒めると、パンに挟
んで食べた。温かいスープを飲みながら。・・・
カルロ:・・・・おかげでトラック代も燃料代もタダで済んだ。二人には寒い
思いをさせたけど僕は、快適だったよ。
カルメン:掃除は大変だったけど・・風邪をひかなくて良かったわ。
エライザ:雨が降るとこんな大変になるなんて、買い物も気を付けないとね。
こんなになっちゃうから!
と、携帯の写真を見せて、また、大笑いになった!!