Episode 3〜時が動く〜
登場人物
中西志穂
並木俊
木村涼太
早川奈々葉
他
連続銀行爆破事件の犯人とされた俊のために彼を知ることから始めた3人。情報を集める中で少しずつ見えてきた彼の姿。彼の人生を知るため調べ続ける…
私は早速、彼の退学理由を探すことにした。まずは彼の家族関係について分かったことをまとめよう。細川先生が書いて渡してくれた彼の家族関係図によると、高校一年生だった当時、彼の母と母方の祖父は亡くなっており、身近に生きていたのは彼の父と父方の祖母の二人で、母方の祖父母については、東京から離れた青森で生活していたようだ。彼は一人っ子なので当時は父と祖母と三人で生活していたと考えられる。
私たち三人は彼の父か祖母に何とか会えないだろうかと考えた。彼らから話を聞いてどんな背景があって彼が退学したのかを知りたかった。しかし、今のところ、父方の祖父母が青森にいるらしいという情報しかないので探しようがなかった。
私はあらためて自分のTwitterアカウントを見た。もしかしたら新しい情報が来ているかもしれないと思った。すると、一件だけ興味深いメッセージが来ていた。
‟並木俊くんのことを知っている小学校教員です”このメッセージを見た私はすぐに連絡を取った。昔を思い出すと高1だったころ、彼の身の上話を聞いたことがないことに気づいた。彼の小学校の頃を知る必要があるのか考えたが、とにかくたくさん情報を集めるしかないと思い、その小学校の教員と会うことに決めた。
その小学校教員と会ったのは都内のカフェだった。この日は奈々葉と涼太は大学の授業だったので私は一人でその教員と会った。その教員の名前は川原という女の人だった。「並木くんはとても物静かな子でした」最初にそう聞いて私はびっくりした。なぜなら彼は高校ではクラスの中心で元気あふれる青年というイメージがあるからで、学校行事でも率先して動くのが私の知っている彼だ。だからこそ、物静かだったと聞いて俄然興味が出た。
川原という教員の話によると、彼はクールな雰囲気で運動が得意だったのでひそかに女子に人気だったそう。しかし、周りとうまく馴染めないのか友達も少なかったように見えたらしい。私は質問をした。「川原さんは彼が何年生の頃、関わりがあったのですか?」「一,二年生の頃でね、高学年になってからはほとんどわからないのよ」「下級生の時、保護者会があったと思うんですけど、彼の親は誰が来ていました?」「母も父も来ていましたよ。とても仲の良い様子でした」
川原さんとの話が終わり私は様々なことを考えた。彼のお母さんはこの当時はまだ生きていた。彼が高校生の頃は一度も面談などに顔を出さなかった父親もこの当時は保護者会に行っていた。おそらく彼の父親も何らかの心境の変化があったのかもしれない。
川原先生と話して一か月後、幸運なことに川原先生の紹介で彼の小学校の同級生で親友だった香坂祐輔と会えることになった。これで彼の家族に何があったかわかるかもしれない。
香坂さんに会う前に、私は自分の実家に帰ることにした。彼にまつわる話を聞いてきて急に実家にいる両親に会いたくなったのだ。実家に帰ってこれまでの思い出話をしたいし、ひとつ気になることがあった。
実家は埼玉にある。今は一人で都内のアパートに住んでいるが、高校生の頃は実家から一時間以上電車に乗って都内の高校に通っていた。登下校は大変だったが、同じ路線で彼と一緒に帰っていたので一時間以上の長い時間もあっという間だった。
実家に帰り、私は気になることを母に聞いてみた。「お母さん、あのニュース見た?」「何のニュース?」「銀行爆破のやつ...」「それね...並木俊くんの話でしょ...」「うん...」私はこれ以降、実家でこの事件及び彼について話すことを止めた。母もこれ以降何も言わなかった。
実家に帰ったことで久々に中学の同級生に会えることになった。だいたい15人くらいが貸し切りの居酒屋に集まっていた。「久しぶり~!」話しかけてきたのは小中学生の時、よく二人で過ごしていた大倉京香だ。京香とは中学の同じ吹奏楽部の同級生で学校にいる間はいつもそばにいた。中学を卒業してからは一度も会うことはなかったので、今日会えてとても嬉しかった。
久しぶりに見る京香はあの頃と見比べて見違えるくらいきれいになっていた。眼鏡をはずし化粧をして香水もかけ少し整形もしているかもしれない。そう疑うほどあの頃と変わっていた。久しぶりに京香に会ってたわいもない話をした。当時の思い出話や現状報告など楽しいひと時を過ごした。この翌日に香坂さんに会う予定だった私はみんなより先に帰った。
翌日、香坂さんに会うために涼太と奈々葉と3人で待ち合わせの駅前に来ていた。せっかくなら2人も香坂さんに会いたいということでわざわざ東京から埼玉まで駆けつけてくれた。しかし、約束の時間になってもなかなか現れない。川原さんにもらった香坂さんの連絡先に何度も連絡したがその応答が返ってくることはなかった。