Episode1~私と彼の出会い~
主要登場人物 中西志穂
並木俊
木村涼太
早川奈々葉
私、中西志穂には恋している人がいた。その彼とお別れすることになったので彼との思い出をここに書こうと思う。
はじめてその彼と出会ったのは高校の入学式に向かう途中の電車内だった。私は生まれつき身体が弱かった。電車通学していた中学生の頃も体調不良でよく欠席、早退をしていた。この日は調子が良くなかった。さらにいつもは最寄駅から座れるのに今日はあいにく人が多かったため座れることができなかった。そうこうしているうちにどんどん人が増え満員になってしまった。人の熱気とともに揺られてどんどん気持ち悪くなってしまった。あと何分だろう。今何駅なんだろう。目の前が真っ暗になって倒れてしまった。
起きたのは病院のベットの上だった。病院の先生の話だともしかしたらストレス性のものらしい。よく考えてみたら具合悪くなるのは人が多い時だった。ちなみに誰かが助けてくれたみたいだ。仕事中にもかかわらず女手一つで育ててくれている母が駆けつけてくれていた。そこで母から私が助けられた時の話を聞いた。
「志穂、あんたはね、おんなじ高校の人に助けられたみたいよ。病院の担当の先生が制服を見てわかったそうよ。連絡先預かってるから後で電話しなさい。」助けてくれた人の名前は並木 俊という、同じクラスで本来入学式に出席できていたら隣に座るはずだった人らしい。こんな偶然あるのかと運命のように感じた。
それから私は彼にお礼の電話をした。私がお礼を伝えたら彼は優しそうな声で無事でよかったと言ってくれた。そして私が数日間入院することを伝えたら彼はこれから毎日お見舞いに行くよと言ってくれた。とてもうれしかった。
翌日、初めて彼にあった。彼は学校の様子や、クラスのことをたくさん話してくれた。自己紹介の話、先生の話などたくさん話してくれた。彼の帰り際、また来るねと言ってくれたのが嬉しかった。
次の日、彼は来なかった。どうやら部活動に体験に行ったようで夜に電話をくれた。彼はサッカー部に行ったそうだ。この高校のサッカー部は都内ベスト4に入る実力を持っていることで有名だ。話を聞くと彼はスポーツ推薦で入ったらしく一般生徒よりも早く放課後の練習に参加しないといけないらしく、昨日はそれを私に伝え忘れたらしい。それで先輩がね、、、と話す彼は少し羨ましかった。
また次の日、病院の担当の先生から明日には退院でいいよと言われた。来てくれた彼にそれを伝えると自分のことかのように喜んでくれた。
そして退院の日、彼は学校でこれなかったが、夜に私に連絡をくれた。彼はそこで「部活はどうする?サッカー部のマネージャーやらない?」と誘いの連絡をくれた。私は中学校の頃は、吹奏楽部に所属していた。なのでこれを聞かれるまでは吹奏楽部に入ろうと思っていた。しかし、彼の誘いを聞いてマネージャーをやろうと決心した。
翌日、待ちに待った初登校日、正直クラスに馴染めるかと不安を抱えていたが、一番不安だったのはやはり電車だった。また倒れてしまったらと思うと不安だった。しかしその心配は無用だった。私が電車に乗ると同じ車両に彼がいた。まさかだった。どうやら彼は前回私が倒れた車両にわざわざ乗って席をとってくれていたようだ。彼が席を譲ってくれて私は安心して登校することができた。
学校につくとみんなは私の事情を知っているようで大丈夫?だとか気分悪くない?だとか聞いてきてくれた。なんとなくクラスにも馴染めそうでうれしかった。そして学校が終わって家に帰って今日のことを思い出した。みんなからいろんな質問を聞かれて困ったときもあったけれど、いつも彼がいて助けてくれる。それが心に深く残った。
その後、私はサッカー部のマネージャーになった。最初は緊張していたが部員はみんないい人ばかりで同じ学年のマネージャーはいないけれど先輩マネージャーが優しくて何とかやっていけそうだ。そうして朝はいつも彼が電車で席を譲ってくれて、たまに具合悪くなり学校にいけないときは彼がその日のことを電話で伝えてくれる。こんな生活を送り始めた。
高校生になって初めて迎える体育祭、学校全体が盛り上がっていた。この高校では 赤、青、黄の三つの団を作り、私たちのクラスは青団になっていた。彼はクラスの人気者なので彼が100m走を走るときは俊、頑張れ!とみんなからの声援が聞こえる。私も心の中で頑張れと唱えていた。そして彼はなんと一位になった。横にいた友達が俊は何でもできるからスーパーマンだねと言っていてその通りだと思った。
その後体育祭は進み、200mのムカデ競争の時間になった。私と彼と友達の木村涼太くんと早川奈々葉ちゃんと四人組で出ることになっていた。涼太くんはサッカー部で彼と親友。奈々葉ちゃんはクラスでよく話しかけてくれて、Saucy Dogが好きなことでも意気投合した友達。この四人で放課後もムカデの練習を重ねてきた。本番前、ムカデ競争の本番のために移動をしていた時、「うっ」という低い声がかすかに聞こえた。後ろを振り返ると足首を抑えた彼がいた。私はすぐに大丈夫?と言いながら駆け付けた。すると彼は「シー」と人差し指を口に当てながら、前を歩く二人に気づかれないように言った。「大丈夫。気にしないで。大丈夫だから。」私はこれ以上何も言えずにムカデの順番を待つことになった。
いよいよ競争の順番が来た。彼のけがのことが頭から離れない。「位置についてよーいドン!」これを合図に私たちを含む六組のムカデがスタートした。私たちの課題は後半のスタミナだった。この日は前半はうまくできていた。しかし、中盤あたりで隣の組にぶつかりそうになった。そこでは何とかそのまま走ることができていた。最後まで全力を出して課題の後半も必死に頑張って一位をとることができた。やったー!と自分のクラスの席から声が聞こえる。最高の瞬間だった。
しかしながら、喜ぶみんなの中に彼がいない。どこにいるのだろうと見渡すと、彼はゴールのそばにいた。彼はしゃがんでいた。ゴールのそばで倒れていて立ち上がれないようだ。よく見ると足首が腫れていた。素人目から見てもけがをしているのは明らかなほどの腫れだった。そこに先ほどぶつかりそうになったムカデの組の一人が来た。どうやら話を聞くに彼の足を踏んでしまっていたようだ。しかし、彼はムカデの最後尾で走っていたので誰も気づかなかった。彼はとても痛そうだったが私に笑顔を向けてこう言った。「志穂、勝ててよかったな!」苦しい表情ながらもそう声をかけた彼に思わず涙が出そうだった。
彼のもとに力の強い男子たちが集まり、彼を保健室へと連れて行った。私も後に続いて保健室に向かった。保健室につくと先生が応急処置をしていた。応急処置を終えると先生は他の先生に呼ばれ部屋からすぐに出て行った。運んでくれた男子たちはすでにいなくなっていたので、保健室には二人になった。
保健室から先生がいなくなると私は彼に誤った。「けがに気づいてたのに無理させてごめんね。」彼は言った。「気にしないで。僕は、このムカデで四人で勝ちたかったんだ。みんなで頑張ってきたから、それを途絶えさせるわけにはいかなかったから。けがはたぶん悪化しちゃったけれど後悔はしてないよ。」私は、彼と時間を共にし始めてから思っていた疑問を投げかけた。「ねぇ、どうして、、、どうしてそんなに頑張れるの?サッカーの時も今日も、、、」彼は今日だけでなくサッカーの時もかなり無理をする。調子が悪そうなときも必死に走っているし、よく下校時間ギリギリまで一人でも練習している。彼は少し間を開けて言った。「ちょっと前にね、中3の時、サッカー部の大会で、けがして出れなかったんだ。めちゃくちゃ練習してみんなで頑張ったのに試合出れなくてチームも初戦で負けちゃって、こんな思いは二度としたくないって思ったんだよね。ていうかさあ、こういう話やめよ、照れくさいなー。」苦笑いしながら話す彼に私はこういった。「俊はすごいよ、、、困っている人がいたら助けてくれるし、何度も私を助けてくれる。普通そんなことできないよ。」彼は「すごいか、、、僕はただ後悔したくないだけなんだ。大切なものを失わないために。」彼は一息ついて「よし、そろそろ戻ろう。閉会式は出たいからね。」彼はそそくさと部屋を出た。私はそれ以上何も言葉が出なかった。
体育祭が終わり普通の日々が戻った。いや、少し変わったかもしれない。ムカデを一緒に走った涼太くんと奈々葉ちゃんが付き合い始めた。体育祭の後、涼太くんが奈々葉ちゃんを呼び出して告白したらしい。電車で登校しているときに彼がひっそり教えてくれた。入学当初からなんとなくお似合いだなと思っていたのでうれしい。このことで今まで私になかった彼氏彼女の関係を意識し始めた。
私は中学生の頃、いわゆる陰キャでよく図書室に行っていた。今も陰キャであることには変わりはないが、サッカー部のマネージャーになったことで、正確には彼と知り合いになったことで今までより多く人と関わるようになった。当然ながら中学の頃は彼氏などいなかった。これまではカップルを見ても羨ましいと思ったことはなかったが、彼と出会ってから、なぜか変わったようだ。
秋頃、文化祭が行われた。私たちのクラスはカフェをやることにした。教室の飾りつけ、店員の衣装、メニューの製作など放課後になってもみんなで協力して準備した。当日は生徒だけでなく保護者にも高評価をいただき、在庫が切れ、近くのスーパーで必要なものを追加するほどの大盛況だった。そして文化祭後、私は彼を屋上に呼び出していた。
少し前に奈々葉ちゃんに言われたことがある。「志穂ちゃんって俊くんのこと好きだよね!」その時私ははぐらかしたがそれを言われてから好きという気持ちをちゃんと自覚し始めたと思う。だからこの文化祭で伝えようと思う、この想いを。
「俊くん、私はあなたのことが好きです。」返事はごめんなさいだった。私の想いがかなうことはなかった。
そして、翌日、彼は同じ電車の車両にはいなかった。私は今まで通りの関係でいきたかったが、そういうわけにはいかないのだろうか。
学校に行くとなんとなく違和感があった。なぜか最悪の状況になるような気がした。担任の先生が教室に入ってくる。「先生からみんなに伝えないといけないことがあります。突然ですが並木俊くんが転校しました。」その瞬間、教室が揺れ動いたように感じた。私は突然のことで頭が真っ白になった。「俊くんからみんなにメッセージを預かっています。」先生は続けて言った。「「クラスのみんな、突然でごめん。親のことで転校することになっちゃった。会えなくなるのは寂しいけれど僕も向こうで頑張るから、みんなも頑張って!」だそうです。」私はスマホを見た。彼に連絡しようと思った。しかし、そこに彼の連絡先はなかった。消されていた。
時は過ぎ5年後、彼のことも遠い過去になり大学生として生活している頃、スマホに緊急連絡が入った。
”連続銀行爆破強盗事件の犯人死亡”
画面をクリックして詳細を見ると「警察が犯人特定もすでに自殺。容疑者は並木俊という男による犯行だと断定。」という文字が書かれていた。