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巻の二 わたしのお値段、五百五十貫。

 ――きみに僕の養女として後宮に上がって欲しいんだ。


 唐突に提案された条件。

 お隣に住む啓騎(けいき)さんからの提案。

 父さまがこしらえた、五百五十貫もの借金を肩代わりする代償として、わたしに、その……後宮に上がれとは。


 「そ、それは、どういう意味でしょう」


 割れた壺から復活した父さまたちも動揺してる。

 そりゃそうよね。

 まさか、啓騎(けいき)さんがそんな提案してくるなんて思ってもなかったし。

 普通、借金のかたって言えば、「オレさまの嫁になれ。フフフ……」とかいう居丈高野郎展開だろうし。(そしてわたしは手籠めにされて……)

 それに、どうしてわたしを後宮に?

 

 「ああ、大したことはないんですよ。ただ、皇帝陛下のご寵愛を受けて欲しいというだけで」


 「いや、それ立派に『大したこと』ですよ」


 そんなホイホイご寵愛を受けることなんてないだろうし。受けられると思えないし。

 

 「陛下がご即位なされてから三年。国中のあらゆる名家、士族から美姫が集まって後宮に上がったんだけど、陛下はどなたにも興味を示さなくてね。このままではお世継ぎが望めなくて、お仕えする者はみな困ってるんだよ」

 

 それが、わたしにどういう関係が?


 「琉花(りゅうか)なら、かわいいし気立てがいいし、なにより頭がいい。きっと陛下もお気に召されると思うんだ」


 「琉花(りゅうか)が?」

 「琉花(りゅうか)がですか?」


 ちょっと父さま、母さま。「が」とかひどくない?

 かりにもアナタたちの愛娘でしょうが。

 そりゃあ、わたしだって自分を美姫と張り合えるような美しさだとか思ってもないわよ。どっちかというと、引き立て役でしょうよ。後宮に上がったところで、後ろの後ろの、そのまた後ろで、「あ、いたの」とか言われるだけの存在になること必至だもん。


 「後宮は、権謀術数渦巻く恐ろしいところだと言われてるが、それだけじゃない。女性としての教養とかも身につくし、皇帝に寵愛されなければ、後宮から離れ、下野して結婚することもできる」


 皇帝に「お手つき」されなかった女性は、後宮を離れることができる。

 後宮という、一流の空間で教養を身に着けた女性。その中身も外見も、後宮に上がるぐらいなんだし、後宮にいたぐらいだから素晴らしいだろうってことで、縁談が増える……らしい。

 実際、箔つけのために後宮に上がる女性というのは一定数いる。下女なんかでも、「後宮で働いてましたー」ってなると、「こりゃ、しっかりしたデキる下女だな」ってことで、次に実入りのいい仕事にありつけたりする。


 とってもウマウマ職場、後宮。


 だけど、そんなところに、わたしが参入してもいいんだろうか。

 結婚の箔つけ目的じゃない。啓騎(けいき)さんは、わたしが皇帝の「お手つき」になることを望んでるみたいだけど。


 「できると思いますか? わたしに」


 「うん。琉花(りゅうか)ならね」


 なんですか。その即答笑顔は。

 どっから来るのよ、その自信。


 「琉花には、五百五十貫出すだけの価値があると思うよ。いや、それ以上に価値のある、素晴らしい女の子だよ」


 啓騎さん。それほめ過ぎ。


 「ただね、五百五十貫という金額は僕にとっても大金だ。だから、一つ条件をつけさせて欲しい」


 「条件?」


 「うん。後宮に上がって三か月。その間に陛下をオトすこと。オトせたら五百五十貫、すべて肩代わりしよう」


 「オトせなかったら?」


 「その場合は半額、三百貫は肩代わりするよ。後宮上がりの美女として嫁ぎ先も紹介する」


 どうする?

 啓騎さんがわたしの答えを待つように、軽く首をかしげた。


 「えっと……、一つだけ確認したいんですけど」


 「なに?」


 「啓騎さんって、おいくらぐらいお手当てもらってるんでしたっけ」


 五百五十貫だの、三百貫だの。

 侍中(じちゅう)ってそんなに高給取りだっけ?


 「僕? 僕は、そうだな……。月で五十貫だから、一年で六百貫……ぐらいかな」


 やっぱり!!

 五百五十貫っていうのは、ほぼ啓騎さんの年収じゃない!!

 それをわたしに賭けてポンッと出そうとするのもすごいけど、侍中が一年かけて稼ぐお金をわずか七日でポンッと無くしてくる父さまもすごいわ。


 「琉花にはそれだけの価値があるってことだよ」


 ニッコリ笑う啓騎さん。

 提示された条件は悪くない。

 成功すれば借金はタダ。

 失敗しても半額は保証してもらえる。

 借金は二百五十貫になる。(それでも大金だけど。庶民の年収が六十貫程度だからして……)

 わたしも十八だし、そろそろ結婚を考えなきゃいけない年頃で。後宮上がりになれば、それこそ嫁ぎ先は引く手あまたで。

 タダで教養をつけて戻ってこれるのは、かなりの魅力。

 悪くない。悪くない条件だ。

 でも……。


 (わたしにオトせるの?)


 自慢じゃないけど、誰かから言い寄られた……なんて経験は一切ない。親しい男性と言えば、この啓騎さんしかいないという、寂しい人生。

 そんなわたしにできるの?

 どんな選りすぐりの美女でもなびかない皇帝を?

 オトす?

 オトせる?

 不安と打算と。欲と開き直りと。

 ダメでもともと。あたれば儲けもの。


 「――やります。皇帝に寵愛されてみせます」


 そうすりゃ借金チャラだもんね。失敗しても半額確保、人生安定路線決定。

 啓騎さんを真っすぐ見て、わたしは、自分の人生と覚悟を決めた。

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