記憶怪盗エヴェック・プランタン
記憶怪盗エヴェック・プランタン
Ⅰ
俺は早朝、一軒家のベッドの上で起きた。
「あれっ?ここはどこだ?」
なんで俺はここで寝ているんだ?そもそも、俺の名前は?俺の年齢は?
「何も思い出せない!」
俺はベッドの上でのたうち回った。その後、俺の頭部の左側にズキズキと痛みが走るのを覚えた。
「うん?これは?」
俺はベッドの下に落ちている2本のコードを見つけた。そのコードは医療用シリコンで出来ていた。
そして、そのシリコンチューブを引っ張ると、ベッドの中からそのチューブにつながれた1枚のカードが出て来た。
俺がそれを読むと・・・。
「あなたの記憶、奪い取らせて頂きました。怪盗エベック・プランタン」
そのカードを読んだ俺は驚愕した。
「エエッ?!何だと?!俺の記憶を盗んだ?!もう許せねえ、とっ捕まえてギッタンギッタンにしてやる!」
しかし、その時、ある中年の女の声が聞こえた。
「尚一郎、朝ご飯よ、いつまで寝ているの?」
その声に応じて、俺は腹が減っていたので、母親らしき声が聞こえるダイニングルームまで足を運んだ。
母親らしき人物が俺に味噌汁とご飯、ベーコンエッグとサラダ、それにカボチャの煮物を出してくれた。
俺は空腹に耐えかね、ベーコンエッグを手掴みで食べ、味噌汁の具も手掴みで食べようとしたところ・・・。
「アッチチチ・・・」
俺は右手を火傷してしまった。
それを見た母親らしき女が、
「尚一郎!何て食べ方しているの!食事の時はちゃんと箸を持ちなさい!」
と、叱られた。
そして、俺の右隣でその様子を見ていた俺の妹らしき女子中学生に笑われながら箸の持ち方を指摘された。
「フフフ、お兄ちゃん、箸の持ち方はこうするのよ」
「あ、ありがとう」
俺は妹らしき少女に素直にお礼を言った。
俺は部屋に戻って、どうやら、「学校」という所へ行かねばならないということを母親や妹に教えられて、俺の部屋のクローゼットからスーツとパンツ、シャツとネクタイを出したが、ネクタイの締め方が良くわからない。どうにもだらしない恰好で家を出た。
俺は自転車には何とか乗れたが、学校への行く道順がわからない。その自転車で自分と同じ制服を着た学生の後を追った。
そして、「学校」に着いた俺だったが、校舎に向かう途中にある若い男の声が聞こえた。
「藤堂、そっちは中等部の校舎だ、俺らはこっちの校舎だぜ」
また、俺はここでこいつにお礼を言うことになった。
「ありがとう。ところで、君の名は?」
その俺の答えを聞いた生徒は驚愕の表情を示した。
「藤堂、お前、一体どうしたんだ?その恰好もいつもと違うし・・・」
その後、俺はやや恥ずかしそうにそいつに答えた。
「いや、実は俺の記憶、誰かに盗まれちゃってさ・・・」
「何だって?わかった、そういうことは平井の奴が詳しいから、そいつに相談しろよ、ああ、それから、俺の名は十河英太だ、お前の友人だぜ、よろしくな」
「ああ、よろしく、十河」
Ⅱ
それから、午前の英語の授業中に、英語の先生が黒板に板書した。
「Having finished my part of the work, Ⅰ was free to go home. この分詞構文は能動態、受動態?どちらかしら?」
女の先生は俺に当てて来た。
「藤堂君、この英文は能動態、それとも受動態?」
俺は先生に当てられて、
「えっと、まず、能動態と受動態の意味の違いと区別がつきません」
「ハハハハハ・・・」
教室に笑い声がこだまする中、女の先生は不思議そうに俺を見つめた。
「変ね?いつもの藤堂君の成績ならこんなこと簡単に見分けがつくのに・・・」
俺は16年と6か月間、今まで机の上で勉強したことについては頭の中から空っぽになっていた。
それから、時刻は学校の昼休みになり、3人で昼食を摂りながら、俺は教室で十河と平井という同級生と俺の記憶が奪われたことについて話合うことになった。
平井がまず、俺が自分の部屋で見つかったカードを見ながら、この件で発言を始めた。
「記憶怪盗エベック・プランタン・・・、ああ、今、巷で噂になっている人の記憶を盗む美少女怪盗だ」
俺は弁当の箸を止めて、平井に訊き返した。
「エベック・プランタン・・・?一体、何者なんだ?そいつは?」
「うん、何でも、ランダムに人の記憶を盗んで、自分の研究所にあるバイオコンピューターにその記憶を記録させているらしいんだ」
俺は平井に真顔を向けた。
「そいつは一体、何の為にそんなことをしているんだ?」
「それはわからない、だけど・・・」
平井はサンドイッチを口に入れるのを止めて、俺に説明してきた。
「こういうことは僕に任せておけ。この平井瞬、自分のノートパソコンと学校の電算機室のホストコンピューターを使って、次のエヴェック・プランタンが狙う記憶を持つ人物の割り出しをやってみる」
俺はここで、平井に大きく頷いて答えた。
「そうか、ありがとう、よろしく頼むぜ、平井」
「うん」
そして、放課後、この青海学園高等部の電算機室にて、
平井瞬が自らのノートパソコンと電算機室のホストコンピューターをつなげて、今まで記憶怪盗エベック・プランタンに記憶を盗まれた人物の年齢、住所、職業などをホストコンピューターのデータに入れて、次にそのエベック・プランタンがその記憶を狙うと思われる人物のリストをホストコンピューターのAIを使って予想し始めた。
すると・・・、平井がノートパソコンの画面を見ながら声を上げた。
「ああっ、予想が出た。次のエベック・プランタンの標的はこの豊岡カネっていう75歳の資産家の婆さんだ!期日は明後日の深夜0時と出た!」
しかし、ここで俺は平井に疑問の声を上げた。
「あいつの次の標的はわかった。でもな、平井、俺達にはその資産家の婆さんの住所がわからないじゃないか」
ここで、十河が口を開いた。
「大丈夫だぜ、藤堂、俺の親父は警視庁に勤めている。親父のコネでその婆さんの住所は調べることができる」