うちのバカ王子がとんでもないことを言い出した
偶にはこんなバカ王子が居てもいいじゃ無い?から始まった物語。
・・・需要は無いと思う。
「ロアンナ、これらの罪状は誠か!?」
多くの少年少女がデビュタントを果たす、王城での夜会。
その会場奥、国王陛下夫妻の席となる高台にて、我が国のバカ王子が突然叫びだした。
何人かの側近と、最近バカ王子の傍をウロチョロしている少女と共に。
ちなみに、私の名前はロアンナ・デブロ。
デブロ侯爵家の長女にして、あのバカ王子の非常に不本意な婚約者。
そして、あそこで騒いでいるのはバカ王子。
我が国中の民どころか周辺諸国からも馬鹿にされているバカ王子にして、唯一の王位継承権持ち。
にも関わらす未だ王太子に指名されていない辺り、国王夫妻の苦悩ぶりが分かるというもの。
「あー、バカ王子。今度は何ですか?」
一応、非常に不本意ながら、一応尋ねてみましょう。
不本意ながら。
「答えをはぐらかすな!こやつ達が口を揃えてお前の罪状を証言しているのだ!テシロ!」
「はっ!」
そしてバカ王子の側に居た赤髪の少年が前に出てきた。
彼はテシロ・へペン。
バカ王子の側近の一人で、我が国の騎士団長の息子でもある。
もちろん、バカ王子の側近にふさわしい、素晴らしい脳筋である。
武術大会で私に一回戦負けしたほどの猛者でもある。
「お前はここに居るアネーに暴力を働いたな!」
ちなみに、アネーとは最近バカ王子の傍をウロチョロしている少女のことだ。
今もバカ王子の傍にちゃんといる。
しかし、暴力を働いたというのだが、いったいいつのことだろう?
「申し訳ございませんが、どの件でございましょう?武術の授業でボコボコにした件でしょうか?それとも先の大会でフルボッコにした件でしょうか?」
「それではない!いや、アレは、その、酷いというかエグいというか、あ、いや今はその件では無い!学園内で、人目の付かない所で暴力を振るった件だ!」
「それはございませんわ」
なんだ、あの乙女の尊厳を踏みにじってしまった、大会フルボッコ公開処刑の件では無かったのですね。
良かった良かった。
ちなみに武術大会決勝だったため、国中の重鎮が見ていたのはご愛敬でしょう。
「嘘をつくな!確かにお前がアネーに暴力を振るった場面を俺は見たぞ!」
「見たと言われましても、やっていないものはやっていません」
仮にも侯爵令嬢ですよ!?
ムシャクシャして暴力を振るうとしても、ちゃんと人目の付かない場面を用意しますよ!
もちろん後始末まで含めて!!!
全くあの脳筋は、一体どんな思考をしているのでしょうか?
「暴力は振るっていない、ということだな?」
とバカ王子が聞いてくるので、
「そう申し上げております」
不服満載という雰囲気でお返事です。
「次はタフネ!」
「はい」
次に出てきたのは青めがねなタフネ・ダタン。
我が国の宰相閣下の息子であり、非常に切れ者である。
ただ、思考過程がぶっ飛ぶ過ぎていてバカ王子と仲良しなあたり、馬鹿と何やらは紙一重と言うことなのだろう。
「あなたはアネーを公衆の面前で侮辱しましたね?」
「侮辱・・・ですか?貴族としての心構えや姿勢を貴族的発言で指摘したことはございますが、侮辱はしておりませんわ」
鬱陶しいとは思っても、もとよりああいう生き物だと承知している以上、侮辱はあり得ませんわ。
「嘘をつくな!先の学園祭にて、彼女に酷い言葉を並べていたでは無いか!」
学園祭・・・?いや、そもそも。
「あの・・・私、学園祭実行委員ですので、規定を越える言動や衣装をしている人に対しては見せしめにしないといけない立場ですわよ」
「立場を悪用したと言うことか!」
「いえ、実行委員としての言動しかしていない、と言うことです」
学園祭ではこれまで、羽目を外して馬鹿な言動をする生徒が多かったのですが、この見せしめを始めてからは驚くほどなりを潜めました。
むしろ、アネーさんほどボコボコに晒された人は五年ぶりですし。
「あくまで実行委員としての活動、ということか?」
いちいち聞くな、バカ王子。
「そうだと申し上げております」
「では次だ!ハウロ!」
「はい!」
さて、まだ同じような遣り取りが続くのかと思うと、少し辟易としてきますね。
バカ王子の考えとしては、私を糾弾することで昨年話題になった婚約破棄を実行しよう、というあたりでしょう。
昨年、隣の帝国では皇太子が婚約者の非を糾弾して婚約破棄を実行して話題になりました。
もっとも、その後に糾弾された婚約者が皇太子を逆糾弾してとんでもない額の慰謝料をむしり取った事は、帝国の醜聞なのでごく一部しか知りませんが。
となると、誰かがあのバカ王子をそそのかしたと言うことですが・・・むしろ私的にはチャンス!
このまま適当に対応していれば、最後に切れたバカ王子が婚約破棄を宣言!
そして私はバカ王子のお守りから解放!
おおお、あのバカ王子にしては素晴らしい!
最後にこんなサプライズを出してくるとは・・・!
これまでの数々の尻拭い・・・を考えると全然足りませんでしたわ。
莫大な慰謝料まできっちりとむしり取らないと。
ふふふ・・・
そうして喜劇・・・ごほん、断罪劇は進行し、最後にはアネーさんが、
「ロアンナ様は、どうして私のことを嫌うのですか?私はみんなと仲良くしたいだけなのに・・・」
「アネー様、申し訳ありませんが、私はアネー様のことはなんとも思っておりません」
「なんとも・・・!?あれほど酷いことをしていながら!」
「ええ、あくまで貴族として、学園の委員として、行動した結果に過ぎません」
「そんな・・・私は一言謝って欲しいだけなのです、どうか今までの過ちをお認めくださいませ!」
「私のアネー様に対する言動に対し、過ちなど何もございません」
「!!!」
涙を流して崩れ落ちるアネー様。
・・・
・・・・・・
「え?」
今までアネー様が立っていたから見えませんでしたが、アネー様後ろの柱の陰に国王夫妻・・・?
「あの、ベアード国王陛下、一体いつから・・・?」
というか、居たならバカ王子達を止めろよ。
一応保護者はあなたたちですよね?
「・・・!こ、こ、コクオウトハダレノコトカナ?べあーど、わかんない!」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「こほん、さてバカ王子。他に言うことは?」
「もちろんある」
ほら、さっさと婚約破棄を宣言しなさい。
こちらは受け入れる準備ばんたんよ!
そして王子は前に出て、堂々と指を指しながら宣言した。
「ロアンナはこれらの罪を認めなかった!つまり、お前達は王族たるこのバカ王子に嘘をついたと言うことか!!!」
今まで傍に居た側近+1人に対して。
とんでもないことを言い出した。
「「「!?!?!?」」」
え?
「父も母も立派な王族だ!その父と母が選んだロアンナは、王族として迎えるにふさわしい存在だ!私は何よりもロアンナのことを信じているのだ!」
「「「・・・・・・」」」
このバカ王子は何を言い出したのか?
うんうん頷く国王夫妻以外、私も側近達も会場中の誰もが何も言えず、ただ呆けるだけ。
そしてバカ王子の演説は続いていく。
「ぶっちゃけ、愚かな私が王となればこの国は滅ぶだろう!そのことはこの国で誰よりも私が分かっている!」
分かっているなら何とかしようよ!
というかお前が言うな!!!
会場中の皆の心は一致している。
「つまり、父と母が選んだロアンナは、こんな馬鹿王子が王となっても国を支えていけると判断されたと言うことだ!」
な、なるほど・・・?
いや文武において既に王国トップの私でも、バカ王子相手ではそこまでの自信はないですわよ・・・?
「ならば私のすべきことはただ一つ、ロアンナを盲目的に信じることだ!」
え、ならどうして断罪したの?
国王夫妻までそんな顔でうろたえだしたのですが・・・
いや本当に、え、今までの遣り取りは何だったの?
「だが、私は果てしなく愚かだ!簡単に周りの人間につけ込まれるだろう!」
いや、今の今まで、というか今もつけ込まれていましたよね?
会場中の混乱は増していく。
「そしてバカ王子たる私への評価は地の底よりも低い!」
うんうん。
全員が頷いた。
「だからこそ、誰かに何かを言われたら、全てロアンナに聞けば良いのだ!皆の前で!!!」
??????
全員が首をかしげる。
いきなり意味が分からなくなった。
「皆の前で内容を公開し、それをロアンナが判断し、ロアンナの判断を王族たる私が支持すれば、それはロアンナへの強固な支持となる」
なる・・・ほど・・・?
全員が首を90度までかしげているが、やはり意味が分からない。
遣り取りを公開することで、確かに周囲からは支持されやすいだろう。
同時にバカ王子の馬鹿っぷり伝説が更に増えることにもなる。
そんなことをしたらバカ王子の評判が下がるだけ・・・ん?
「あ、あの・・・もしかして、ですが・・・、ご自分の評価がこれ以上下がらないからこそ、ご自分の馬鹿さと私の判断を公開する、ということでしょうか???」
「そうだ!・・・たぶん!!!」
「「「たぶんかよ!」」」
あー、バカ王子はバカ王子なりに考えていたと言うことですか、この国の将来を。
愚か者が王となれば国は荒廃する。
しかしこのままでは自分が王となってしまう。
だからこそ、『自分が王となれば、国の方針はこのように決める』ということをこの場で見せつけたのか!
これは、正直バカ王子を見直した。
・・・
・・・・・・
「そ、その場合、私が国内外とわず多くの者から襲われることになるのでは・・・?」
だって私が居なくなればバカ王子もといバカ王を操り放題だし。
「・・・・・・あ。・・・くっ、殺せ・・・」
そう呟きながらバカ王子はうつむき、拳を震わせながら倒れ込んだ。
こうしてこの夜会はこの国における転換点となり、後に『史上並ぶ者なき愚者』と呼ばれた王が治める期間、史上稀に見る繁栄をみせたのであった。
なお、その王の側に常に付き添っていた王妃は賢妃と呼ばれ、こちらも後世にいつまでもその名を残すのであった。
・・・護衛の数が多すぎて、謁見の間の床が抜けたという珍事と共に。
最後までお読み頂きありがとうございます。
少しでも笑って頂けたら幸いです。
愚者:今回は『考えの足りない愚か者』ではなく、『愚直に進む者』でした。
※2022/3/1 コメディー日間&週間1位、月間6位、更に総合日間55位・・・過分なご評価頂いて恐縮ですm(_ _)m
全く予想していなかった結果に震えております(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル
※2022/3/8 いつの間にかPV10,000どころか20,000越えていてびっくりしました!
沢山の人にお読み頂けた上にご評価まで頂き、ありがとうございますm(_ _)m
※2022/3/25 ジャンル別月間1位に加えて総合月間ランクイン・・・こんなにもご評価頂けて、ありがとうございます(; ;)ホロホロ